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なぜ、Xbox Oneは売れなかったのか。歴代Xboxの歴史をなぞって考える。

なぜ、日本でXbox Oneの販売台数が少ないのか。欧米のゲーマーからすると奇妙に映るらしい。私自身、17年前、初代Xboxの時代から「なんで日本で売れないの?」と聞かれることがあり、その回答を英文で出して反応を見てみたいという気持ちがあった。
そこで、初代XboxからXbox360までを体験し、Xbox Oneは買わなかった私の目から、Xbox Oneが失敗した理由について、自分の考えをまとめていく(あくまでゲーマーとしての私の視点で、公式なものではない)。そして、あとで英文にしようと思っている。
また、欧米からはXbox360が失敗に見えているらしいが、私はXbox360は日本で成功したと考えていることも特にはっきりと示しておく。

※2019.11.06 20:30修正
Xbox Oneの段落でGears4の記述を削除し、宣伝していないことを強調しました。また、Xboxの綴りを修正。

Xbox発売時の日本

Xboxは、厳しい状況で発売された。ライバルのプレイステーション2(PS2)には前世代で成功したプレイステーションの後継機という強みがあった。しかも、発売時の日本はVHSビデオデッキの寿命が終わり、DVDプレイヤーに買い替える転換期だった。PS2はゲーマーだけでなく、最も安価なDVDプレイヤーとしてノンゲーマーまでが購入し、社会的ヒット商品になった。
2000年にPS2が発売されると、3日間で98万台が販売された。これは、日本で発売されたゲーム機の初期売上としては最高記録だった。PS2は、2002年にXboxが出る前に市場を制していて、Xboxが一般に売れる可能性はなかった。

しかし、完全に絶望的だったわけではない。Windows OSを作っているMSがゲーム機に参入することは大きくニュースとして取り上げられたし、セガがドリームキャストから撤退したあと、Xboxは一部でセガゲーム機の代替として見られていた。『ジェットセットラジオ・フューチャー』や『パンツァードラグーンオルタ』、そのほかマニアックなゲームがXboxでリリースされることが予定されていたからだ。
Xboxは、コアなゲーマーからの注目を浴びて発売された。

Xboxの実態

ところが、初代Xboxは日本向けの品物ではなかった。

・コントローラーは大きすぎて日本人の手になじまなかった
・本体は大きく、日本の家屋に置きやすいものではなかった。
・本体が重すぎて、ゲーム屋で購入して手で持ち帰ると疲れる
(日本の人口が集中する都市部では、車で買い物に行かない)
・日本で売るためのsystem-seller(キラーソフト)ががなかった

欧米では『HALO』がsystem-sellerだった。しかし、Xbox発売時の日本ではFPSはマニア向けのジャンルと考えられており、「日本で知名度のないメーカーが作った、日本向けではないゲーム」でしかなかった。
結果から言えば、日本では『Dead or Alive 3』がsystem-sellerの役割を果たした(HALOの2倍、HALO2の3倍売れた)。

さらに、発売直後に「Xboxで再生したDVDに傷が付く」という問題が発生した。熱心にゲームをプレイするゲーマーはDVDの傷を気にする。ところが、MSは当初「メディアに傷が付いても再生には支障が出ないので問題はない」として、対応しないことをアナウンスして不評を買った(後にゲーム機とDVDの交換・修理に応じたが、遅かった)。

・Xboxはマニア向けのゲーム機という位置づけになった
・Xboxはハードウェアトラブルのあるゲーム機という印象を残した
・MSはサポートが良くないというマイナスのイメージを残した。

初代Xboxは、日本では約50万台を売れた。同時に、Xboxは日本向けではなく、サポートも良くないというイメージを植え付け、Xboxのブランドイメージにダメージを与えた。

MSは日本向け日本の会社が制作するゲームをいくつか用意したが、それらの多くは日本のゲーマーというよりも海外を意識したゲームであり、日本向けとは言えなかった。
欧米で例えるなら、スポーツゲームもFPSもない状態で発売されたようなもので、マニア向けと言われるのは仕方がなかった。

Xbox360の発売とPS3の不調

Xboxのマイナスイメージから、Xbox360は少しハンデを背負った状態で始まった。PS3より1年先行して発売されたが、PS2があまりに売れたため、PS3が出ればXbox360は必要なくなると考えて待つゲーマーも多かった。
ところが、いざPS3が出るとXbox360には追い風が吹いた。PS3は高価で、ソフトラインナップが貧弱で、あまり売れなかったのだ。PS2は発売3日で98万台売れたが、PS3は発売1週間で8.8万台のスタートとなった。

しかも、前世代のゲーム機では不人気だった『Call of Duty』などのFPSや、非日本製のゲームもゲーム好きに受け入れられ始め、Xbox360の武器になった(PS3開発の難しさからか、初期はマルチ展開ゲームがXbox360で先に発売されることが多かった)。

前世代では日本向けに開発されたゲームがほぼなかったが、Xbox360では日本向けに独占大作ゲームが開発されることがアナウンスされ、日本攻略に本気であるところにも期待が持たれたし、大作ではない独占ソフトも充実していた。

大作『ブルードラゴン』の勝負

ゲーム機の売り上げは、ゲームが決める。Xbox360には『HALO』や『フォルツァ』などの素晴らしいゲームが揃っていたが、日本人を振り向かせるには独占のJRPGが必要だとMSは考えた。そして、日本で最も売れていたRPG『ドラゴンクエスト』のキャラクターデザインを行った鳥山明さん、『ファイナルファンタジー』の生みの親と言われる坂口博信さんを招いて『ブルードラゴン』と『ロストオデッセイ』を独占RPGとして開発することになった。

とくに『ブルードラゴン』に対する期待はすごいもので、MSは全力でこのプロモーションに力を入れていているように見えた。ゲーム雑誌を見れば発売前から特集が組まれ、アニメが放映され、日本で最も購読されている漫画雑誌、週刊少年ジャンプではブルードラゴンを元にした『BLUE DRAGON ラルΩグラド』が連載された(記憶が確かならば、ブルードラゴン以外で週刊少年ジャンプに連載されたゲーム原作の漫画はドラゴンクエストだけだ。

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MSは『ブルードラゴン』を大ヒット作品にしようと必死だったし、できることをやっていたように思える。その成果もあってか、Xbox360はコア向けの扱いを受けていたが、『ブルードラゴン』に関しては食いつきがあった。

Xbox360は女性に大人気のアイドルグループTOKIOを採用し、一般向けのCM展開を行って失敗したと言われる。実際、Xbox360で発売される洋ゲーや『Dead or Alive』の支持層は男性であり、ターゲットとずれていた。しかし、『ドラゴンボール』の鳥山明さんがキャラクターデザインした大作RPG『ブルードラゴン』をキラーソフトと位置付け、一般ゲーマー層にも食い込もうとしていたと考えると、このCM人選は理解できる。

しかし、『ブルードラゴン』を発売時には逆風が吹いてしまった。任天堂が新型ゲーム機Wiiを発売したのだ。2006年11月に発売されたWiiはモーションコントロールの目新しさから瞬く間にヒットして話題をさらった。そして、Xbox360最大の戦略ソフトとして2006年12月に発売された『ブルードラゴン』はクリスマス商戦で存在感を失ってしまった。結果、大規模なプロモーションを行ったにもかかわらず、『ブルードラゴン』は20万本を売るにとどまった。

この20万本は、これまでの歴史から言えば成功で、Xbox360本体も売れた。ただ、後に『テイルズオブヴィスペリア』や『スターオーシャン4』などの大作RPGがXbox360向けに発売されたとき、それらの販売本数も20万本だったことを考えると、この販売本数がXbox360の天井を決めてしまったようにも思う。Wiiの発売が1年遅かったら、『ブルードラゴン』が40万本売れて、その他のRPGも40万本売れて、もっとソフトが充実する未来があったかもしれない。『ブルードラゴン』が成功ではなく、大成功だったら……とは、今も思う。

Xbox360それでもゲーマーに支持された

2009年以降、Xbox360はコアゲーマーが注目するゲーム機という位置づけに収まったが、所有者の評価は高かった。実績やXbox Liveのオンラインシステムは先進的だったし、同じゲームを遊ぶならPS3よりもXbox360の方がスムーズに動いた。Xbox360のコントローラーも素晴らしかった。さらに、シューティングや格闘ゲームなどのコアゲーマーが支持するゲームがどんどん発売されていった。

ソフトラインナップを見ても、後期にも『モンスターハンター フロンティア オンライン』などコア向けのゲームを独占で確保し、新規プレイヤーがやってきた。この時期、Xbox360ファンは目に見えて増えたし、応援サイト・ブログも多数生まれて、コミュニティも活発だった(Xbox時代とは比べ物にならなかった)。

Xbox360は最終的に約200万台を販売し、ファンを作り、前世代と比較して十分な成功をおさめた。Xbox360は、日本でのハードシェア争いには負けたが、この勢いで行けば、Xbox Oneはより成功できる可能性があったように思う。

Xbox One発売前の失敗

Xbox 360は成功した。しかし、MSはXbox Oneにバトンタッチする前に、失敗をしてしまった。Xbox 360は2011年からKinectというコントローラーを使ったゲームを看板にした。しかし、Kinectの利用には広いリビングが必要で、日本の住宅事情では満足に遊べないことも多くて売れなかった。
さらに、Kinect製品に代わる独占の日本向け話題作を提供できず、ハードを新規に購入するゲーマーは減り、完全に失速した。

同時に、Xbox360の終盤からMSのサポートはコミュニティをがっかりさせる小さな事件を起こしていった。2011年には『トーチライト発売中止事件(※1)』が、2012年には『HALO4』の声優を変更事件(※2)があり、迷走感があった。
このころから「次世代機では日本に力を入れない」という憶測が流れるようになってしまった。

※1:日本では2011年4月9日に『トーチライト 日本語版』が発売予定となっていたが、MSは発売当日に「ローカライズが困難」という理由で発売をキャンセルした。しかし、のちに開発元の社長が「もとから日本語版は開発していなかった」と語ったため、『トーチライト』を楽しみにしていたファンの間で虚偽の告知がなされたことが問題となった。さらに、MSは虚偽の告知をしていたことを海外向けに謝罪したが、日本向けに謝罪しなかったためファンに大きな不信感を与えた。
※2:『HALO4』の主要人物の声優変更が発表され、日本では反対活動怒るほどの反響になった。署名運動が行われ、ファンがMS本社に直接抗議もされたが、声優変更は撤回されなかった。

そしてXbox Oneが失敗する

そういった不穏な状況の中で、MSは大きな失敗をしてしまう。Xbox Oneの日本発売は世界でも後回しになり、PS4よりも9カ月遅れての発売となった。しかも、Xbox Oneは当初Kinectをプッシュしていた。この状況は「Xbox Oneは日本に力を入れないだろう」という予測を確信にしてしまい、Xbox360ファンがPS4を購入する後押しとなった。

PS4を買ってみると、この世代のゲーム機ではマルチプラットフォーム展開が完全に当たり前になり、PS4とXbox Oneで遊べるソフトに大きな差はなくなっていた。よって、洋ゲーのためにXbox 360を選んでいたプレイヤーもPS4だけあれば良いことに気づいてしまった。
オンライン機能が拡充してXbox360がリードしていた部分も差が縮まっていた。さらに、Xbox 360と違ってPS4には同じ日本の友達がたくさんいる。先行して購入したPS4が快適だったため、多くのXbox支持者がPS4に乗り換えて帰ってこなかった。SteamとPS4さえあれば、大抵のゲームはできるのだ。

そんな状態のなかで、Xbox Oneは2014年9月に発売された。大規模な発売記念イベントも、目立つTVCMもなく、Xbox 360からの流れで期待していたファンですらそのやる気のなさに驚いた。Xbox Oneは発売4日間で2万3562台しか売れなかったが、大きな宣伝をしていなかったのだから当たり前だ。
そのまま目立った広告は行われず、一般のゲーマーはXbox Oneが発売された事実すら知らない状況だし、小さなゲーム屋ではXbox Oneのゲーム売り場がないことすら多い。

そういった状況で、日本では発売されるゲームも少なくなる。たとえば、『モンスターハンターワールド(MHW)』は日本でXbox One向けに発売されていない。
「Xbox One Xは最高にパワフルなゲーム機で、ロードも早いから日本で人気のMHWをやればいい」と言われても、日本では公式に発売されていない。だから、日本ではMS独占の『HALO』や『フォルツァ』がよほど好きでなければXbox Oneを買う理由はなくなっている。

私自身はXboxファンではなくゲームファンで、プラットフォームが複数あって、競争のために素晴らしい専用ソフトが開発される状況を好んでいる。
たとえば、PS独占の『グランツーリスモ』に対抗してXboxで『フォルツァ』が開発され、お互いに競争して品質が高くなるような競い合いを期待している。
そういった競い合いを、きっちりローカライズされたゲームを遊んで味わいたい。だから、次世代機であるスカーレットではこの状況が打開されて欲しいと思っている。

以上。
いろいろあるけども、短くするために文から弾いた内容をおまけとして以下につけておく。

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