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ゲーム開始と同時に0.01%のダメージを与え、時間切れまで粘る格闘ゲームができるまで(オラタン)

『バーチャロン オラトリオタングラム(オラタン)』の話をすると、「0.01%削られて、そのまま逃げ切られるゲーム」なんて印象の語りが多い(※表示上は0.1%がダメージ最小であり、0.01%はイメージである)。かの有名な『ストリートファイターII』に置き換えると、「試合開始と同時に波動拳をガードさせて、時間切れまでノーダメージで粘ってダメージ勝ちする」ようなクソ展開とも言われるが、今こそ行っておきたい。
あまりにバランスが悪くて、そうならざるを得なかったんだよ!

ただ、そう力説してもわけわからないので、面白さとは別にどれだけ初期の『オラタン』がクソバランス(最新バージョンは修正済)だったか、その戦術を考え出した本人に利けたので記録を残しておきたい。
超高速で展開することがウリの対戦ゲームで0.01%のリードを守り続けるなんて、人間の集中力の限界を要求する行為を、日常的にやりたいわけないんだよ!俺たちは、強いられていたんだ!
そう、今回は前回に引き続き、バーチャロンの記事である。

『電脳戦機バーチャロン オラトリオ・タングラム』とは?

セガが1998年に発売したアーケード向けの1対1で戦う3D対戦ゲーム。左右2本のレバー(と4ボタン)でバーチャロイド(ロボット)を自在に動かせる操作系をもっており、異彩を放っていた。
3D空間を高速に移動しながら戦闘できる前作を拡張し、空中でもダッシュが可能になってより空間を意識して戦う駆け引きが生まれた。また、大きくエネルギーを消費する特殊技”ターボ攻撃”が登場し、演出も攻撃の種類豊富となった。

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極端なバランス調整もこのゲームの特徴で、軽量級のバーチャロイドは装甲が薄く、大技をくらうと一気に7割程度体力が減る(大技でなくとも5割減ったりする)かわりに極端に攻撃を当てづらかったり、逆に重量級は遅いかわりに1発当てればでかく、攻撃を受けても標準機の半分程度しかダメージをくらわないなど、個性的なバーチャロイドが用意され、それぞれの機体にファンがいた。とりあえず、ゲームに関しては動画(と言っても動画は後期バージョンなので避け合いではない)を1度見てもらえると良いともう。

見た目もいいし、操作して気持ちいいし、キャラもたっている。しかし、発売時のバージョンである『オラタンVer5.2』には対戦ゲームとして致命的な傷があった。

その庭には2機、最強キャラがいた

致命的な傷とは……最強の攻撃力、最強の機動力を持ち合わせた最強キャラクターがスぺシネフとエンジェランの2機がいたことである。最強というのは比喩ではなく、2機は言ううなれば1,000万パワーの超人であり、それ以外は100万~300万パワー程度の雑魚超人だった。

1発の攻撃力で言えば、『ストリートファイターV』に例えるなら軽量級のキャミィの攻撃力がザンギエフと同等、『ギルティギア』に例えるならミリアの攻撃力がポチョムキン並みという状況だった。

漕ぎと呼ばれるバグのような移動方法が使えた2機は機動力も高く、残った機体は攻撃を当てることが非常に難しかった。どのぐらいかというと、0.1%程度のダメージしか与えられない牽制攻撃しか命中しなかった

つまり、攻撃を受けたら負けるし、攻撃を当てたとしても微弱なダメージしか与えられないので、最強の2機に対して弱い側の機体が攻撃を避けて勝つと、自然に「0.1%のダメージを与えて逃げ切った」状況になるのである。とりあえず、まず『オラタン』がそんなモンスター2機を生み出してしまった背景から語っていく。

格ゲーにありがちな失敗をしてしまったオラタン

前作の『電脳戦機バーチャロン』は、高速にロボットで戦う気持ちよさ、高クオリティなロボットゲーというところで『機動戦士ガンダム』のファンなどを中心に支持を受け、2作目である『オラタンVer5.2』はかなり期待度が高い状態で発売された。で、この期待度からか、初心者層を取り込むシステムが盛り込まれた。

『オラタンVer5.2』がリリースされるとき、開発者インタビューで「初心者が遊びやすいように当たりやすくて威力の高いターボ攻撃を導入しましたよ」という話が方々でなされた。

格闘ゲームなどでも間口を広げるため、「初心者が遊びやすいように、初心者でも相手にダメージを与えられるシステムを入れました」なんて話がなされることがある。だが、これは最悪の結果を引き起こすことが多い。

初心者でもある程度の腕前のプレイヤーにダメージを当てられるシステムを上級者が使ったらどうなるか。たいていは初心者を簡単にノックアウトするシステムとして機能し、初心者の敷居を上げるシステムとしか機能しない。
『オラタンVer5.2』は、その失敗を盛大にやらかした。

攻撃がくるのがわかっていても避けられない

さて、まず狂っていたのは初心者向けに導入された”ターボ攻撃”の強さだった。ターボ攻撃は大きくエネルギーゲージを消費して特殊技を出すもので、追尾力が高くてダメージが高い攻撃が多く用意されているという説明だった。
ところが、ターボ攻撃には攻撃がくることが分かっていても慣れたプレイヤーが避けられないほど強力なものが混ざっていた。機体によっては旧作の強豪プレイヤーが避ける練習をしても……。

「今からターボ鎌(屈指のよけづらい攻撃)撃つよー!」
「いっせーの、はい」
「あ、避けられなかった」

というレベルで、一部の攻撃は正面から出されるとタイミングを合わせても避けることが難しい追尾力をもっていた。もしくは、7~8秒程度もプレイヤーを追尾して画面外から攻撃してくる能力を持っており、常に動き回っていないとダメージを受けてしまう凶悪さがあった。
初心者でも攻撃を当てられる武器があるけど、それを上級者が使えば必中だよね!当然、初心者はターボ攻撃に狩られまくった。

全キャラに初心者用の当たりやすくて強い武器をつけてあげようねー

そして、そんなターボ攻撃が全キャラに搭載されてしまった。普通、素早いキャラは攻撃力が当てやすい代わりに与えるダメージは低く、遅いキャラクターは攻撃を当てづらい代わりに攻撃力が高い。これが一般的な調整である。ところが、『オラタンVer5.2』ではほぼ全機体にも当てやすくてダメージの高いターボ攻撃が搭載されてゲームの法則が乱れてしまった。

ほぼ全機体に……というのは、素早い軽量級にも、ということだ。しかも、軽量級の機体にも攻撃力が高いままターボ攻撃が導入された。つまり、『ストリートファイターV』に例えるなら軽量級のキャミィの1発攻撃力がザンギエフと同等、『ギルティギア』に例えるならミリアの攻撃力がポチョムキン並みという状況が生まれてしまった。

こう書いていくと「開発者はバランス調整の常識も知らないのか」というような感想を抱きやすいが、当時3D空間をフルに使用して大幅に性能の異なるキャラクターが戦う対戦ゲームは少なかったため、そういったバランス調整のノウハウが業界になかったのではないか、とは思う。とはいえ、このバランスはバーチャロンブランドを著しく傷つけた。

なかでも目立ってバランスを壊していたのは、『オラタンVer5.2』から登場した新機体のスぺシネフとエンジェランだった。この2機には、前作で不評だった壁に隠れる防御方法を打ち破るためか、壁を貫通する攻撃が与えられた。

で、ターボ攻撃にも壁貫通の特性が与えられた結果……2機の新型機体は壁貫通を持っていない敵に対して、壁に隠れて安全にターボ攻撃を撃つことができた。壁逃げ対策の武器を作ったことで、壁に隠れて戦う戦闘スタイルのより凶悪な逃げ機体を作ってしまったわけだ。

なお、『オラタン5.2』の全国大会ではテムジンを使用するE.K.Dさんが優勝している。これは彼が超人だったこと、トーナメントの綾であり、彼がホームとするゲームセンター西スポでは前述の強い機体に負け越していたという証言がある。

研究の結果、絶望的な差が導かれる

そんなモンスター2機に対して、当時のプレイヤーたちが時間をかけて検討し、研究を進め、リリース半年後あたりにたどり着いた結論は……「エンジェランとスペシネフと攻め合ったとき、他の機体はダメージ勝ちすることができない」というものだった。
ゲームとして正常にバランスがとれていれば、

・遅い機体は攻撃は10回に1回しか当たらないが、当たれば50%のダメージ
・早い機体は2回に1回は攻撃が当たるが、当たっても10%しかダメージが入らない

とい感じで、リスクとリターンが均衡する。だから「多少ダメージを受けようが多く当てれば勝てる」という感じでお互いに攻め合える。ところが、これが成り立つ機体がなかった。様々な状況を検討しても……。

・上位2機はどんな距離からも体力の40%を高確率で奪う攻撃を持つ
・他の機体はそれに対して10%程度のダメージで反撃できる

という感じで、リスクを承知で攻め合うとき、上位2機がダメージ勝ちできる機体がないという結論に達してしまったのだ。実際、本来攻め合いに強く設定されているはずの重量級の機体は「ダメージを受けながら相手を削る」設計思想のため、必然的に上位2機と攻め合うことになり、敗北するしかなかった。

ダメージトレードが成り立たない以上、上位2機の攻撃を完全に回避できる機体でなければ、ゲームで生き残れない。そういった結論から、議論は「完全回避する方法」へと向かっていった。

攻撃が当たらない

理論上、攻撃を完全に回避できる機体は複数ある。しかし、リスクなく攻撃を当てられる攻撃での差し合いをする「守りの試合」も簡単にはいかなかった。そもそも上位2機の回避力が高すぎて、当たる攻撃がなかったのだ。

上位2機には長時間自動追尾する武器が備わっていたので、少しでも足を止めると大ダメージ(最悪50%)を受ける可能性があった。つまり、「ほぼ隙がない技」でなければ対抗できなかった。で、完全回避が可能な機動力を持っていて、当たる武器も持ち合わせていたのは『アファームド・ザ・バトラー』という機体だった。

当たる武器がない問題はかなり深刻で、特にひどいもので言えば軽量級のサイファーは最高の機動力を持っていて素晴らしい回避力があった。ところが、エンジェランがバリアを張るとそれを貫通できる攻撃がほぼないのでダメージを与えることが実質的に不可能だったりした。9.5-0.5でエンジェランの勝利である。10秒程度でバリアが壊れるため、そのタイミングを狙ってダメージを与えるゲームだった(試合時間だいたい80秒)。
ただ、それでも攻撃を回避しきれない重量級よりサイファーの方がましだった。

結果的に0.1%の体力差でしか勝てなかった

バトラーの機体コンセプトは全キャラ中でも最速の前ダッシュで敵に近づいて、近接攻撃で大ダメージを与える……というものだったが、上位2機はあまりに攻撃が強かったので近接距離に近づくことは困難。
ところが、本来は「相手に近づくために牽制する高速・低ダメージのマシンガン」が用意されていてこれだけはギリギリ当てることが可能だった。マシンガン1発のダメージが0.1%程度。
0.1%なんてダメージは吹けば飛ぶもので、本来は試合を決めるほどのダメージを与えられない想定。だから低リスクで当てやすい武器なのだが、上位2機の機動力は高すぎてそれほど当てやすく設定された武器でしか安全に攻撃できなかったのだ。

つまり……。

・『オラタンVer5.2』はあまりにバランスが悪くて、上位2キャラが攻撃も回避も最高クラスに強かった
・ダメージトレードでは上位2機に勝てないため、攻撃を受けないでダメージを与える必要があった
・しかし、上位2キャラは早すぎて0.1%のダメージを与える武器でしか攻撃が当たらなかった
・0.1%のダメージを与える武器ですら、40%のダメージを受けるリスクを冒して当てるものなので1度当てたら逃げに徹するしかなかった。

という『オラタンVer5.2』のクソのようなバランスが「0.01%当てて逃げ切るしかない」という戦術を生んだ。だって、理屈で考えてそれでしか勝てないなら、みんなそれをするしかない。そういうゲームになっちゃうよ。ちなみに、大会でこの戦法で勝ちきったとき、見に来たオラタン開発者はすごく残念そうな顔をして見えたそうな。

ゲームセンターから姿を消すオラタンVer5.2

よく「オラタンでバーチャロンプレイヤーが減った」などとは語られるが、この猛烈なバランスの悪さと、その結果生まれたプレイスタイルによって「オラタンは渋いゲーム・クソゲー」というイメージがつき、どんどん人は減っていった。

しかも、『オラタンVer5.2』のレバーは耐久力が低く、たびたび壊れた。特殊なパーツの筐体だから修理費もかかるし、手間もかかるし、ゲームセンター側としてはインカムの割に合うゲームではなくなり、次第にゲーム自体が撤去されていく。これは、当時ゲームセンターの店員をやっていて、複数のゲームセンターで情報交換していた私の周囲で起きていたことなので、限られた範囲とはいえ、確かなことだ。

初期の『オラタン』は『ストII』や『バーチャ』よりは下程度、「上の下」ぐらいの人の食いつきがあったし、事実としてゲームセンター側の期待度もそこそこ高く、セガ直営店だけでなく、わりと小さいゲームセンターにまで入荷された。雑誌などでもかなりページが割かれていた。しかし、瞬く間にブランドが下落してしまった。

バージョンアップで変化したオラタン

さて、そんな『オラタンVer5.2』の次に提供された『オラタンVer5.4』は、わりとバランスが良くなった。全体的に遠距離攻撃が弱くされ、近接レンジでダメージをとったときにリターンが大きくなり、攻め合うメリットが生まれ、0.01%の差で勝つゲームではなくなった。

このバージョンで強かったサイファーとドルドレイの2機は防御が硬かったため、この2機に対しては体力切れの勝負が続いた。だが、機体のバランスとしても「相性が悪すぎなければ、努力で差を埋められる」程度まで持ち直した。最初から、このバランスで出ていたら……バーチャロンブランドはいまだに大きな価値あるものとして残っていただろうに、と思う。

最終バージョンではさらに攻めゲーに

そして月日は流れ、さらにバージョンアップした『オラタンVer5.66』が配信される。これまでMODEL3というハードで動いていた『オラタン』だが、このバージョンからは、NAOMI基板と呼ばれる別のハードに移植されて動いている。

基板が変わるときにプログラムも変更され、バーチャロイドの衝突判定の計算方法が変わった。具体的には、これまで円形で計算されていたパーツの当たり判定が、四角で計算されるようになった。
下図はLight11さんの当たり判定説明の図から引用したイメージでそのままではないが、これまで円だったものが四角になると、角ばる分判定が大きくなる。

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そのせいで、ほぼすべての攻撃が当たりやすくなり、100%回避自体が困難となった。つまり、ゲームとしては「ダメージを受けてしまうから、受けたダメージより相手にダメージを与えないといけない」攻め合いのゲームにより近づいている。

バランスとしてもよりよくなっていたので、この攻め合いも成立したし、「0.01%を削り合って逃げきる」ようなゲームからは遠のいた。ということで、『オラタン』と言えば「逃げるゲーム」という印象を抱かれやすいが、それは一時期のバランスの悪さが生んだ印象で、現在は違うようになっているはずだ。

で、11月にセガからリリースされる『バーチャロンマスターピース』には、長いバーチャロンの歴史の中で研ぎ澄まされた、良いバランスの『オラタン』が収録されているはずなので……ぜひ、みなさん遊んでみて欲しい。

移植度が高ければ(※)。

※バーチャロンに関しては、プロデューサーの亙さんが「バランスはそのまま」「数値は変えていない」などと語るのだが、移植のたびに細部やバランスが変更されているのが現実で、彼のゲーム仕様に関する言葉は熟練プレイヤーほど信用しない。
とくに完全移植と語った『バーチャロンフォース』のバランス・仕様が大幅に変わっていた地獄は忘れられない。

あと、『バーチャロンフォース』のスタッフロールには、この記事に協力してくれた私の弟……むーみん(か、本名の寺島)でも載っているはずだ。
今月の記事としてはマガジン会員限定で「オラタンのノウハウで『機動戦士ガンダム エクストリームバーサス』の全国大会ベスト32に残った戦術」も予定しているので、マガジン登録よろしく、と宣伝して終わる。

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コメント1件

あー、なんというかまるで研究員が自分が制御も想定も出来ない化け物を生み出してしまった、みたいな感じですねえ……
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