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『クラロワ』のゲームデザインに「後出し有利」が欠点として組み込まれていると感じた話

『クラロワ』のゲームデザインが「後出し有利」にできていることに関して、それがどのような問題で、なぜ私がそう考えるようになったのか、この記事ではできるだけ誤解を受けないように書きたいと思っている。
私にとって、このクラロワのゲームデザインの問題は3年にわたる観察のテーマなのだが、多くの方には雑に言っても理解されないだろうし。

さて、最初に3つほど前提を書いておく。

1つ目、ゲームデザインに1つ欠点がある=クソゲーではない

“ゲームデザインに欠点がある”という指摘すると、ゲームが全否定されたかのように激しい反応を返される。でも、多くのゲームには欠点があって、1つぐらい欠点などものともしない事は多い。

『バイオハザード2』はシリアスな内容なのに、ギャグとしか思えない構造の警察署を探索することがネタにされるが、それでも人気である。
囲碁や将棋も先手が有利で、対戦ゲームとしては致命的に思える欠点を持っていても人気だ。
欠点が多くても「キャラはいい」とか「触り心地は良い」で、愛されているゲームはたくさんある。

「クラロワは後出し有利」とは、数あるゲームデザインの問題のたった1つで、対戦バランスから起動速度まで優れている『クラロワ』の総合的な良さを否定するものではない。

2つ目、ゲームデザインと運用は別

ゲームデザインとは、ゲームの動きを決める根本のルールである。クラロワで言えば、カードの種類がスペルとユニットに別れるとか、HPと攻撃力があるとか。今回、もっとも関係あるのはこのあたりになる。

・時間とともに双方同じだけエリクサーが貯まる
・エリクサーを消費することでカードを場に出せる(エリクサーが多いほど有利)。
・タワーと城は強力な近づいた敵にコストを支払わず自動攻撃する能力を持つ
・各カードにはカウンターがあり、カウンターカードは少ないエリクサ消費でカウンター対象を処理できる

『クラロワ』で言うならば、こういったルールの下でカードがバーバリアン1種類しかなくとも後出し有利でなければ、ゲームデザインレベルで後出し有利は解消されていると言える。ただ、前記の条件から導かれるのは「1種類しかカードがなければ、タワーに導いてコスト有利を作った方が優位に立つ」状況だと思うので、クラロワの根本のゲームデザインには後出し優位が組み込まれていると言えるだろう。

ただ、これはゲームの1側面でしかない。デザインと運用は別に存在していて、運用が良ければ、多少の欠点は直せる。
例えば、近接攻撃のデザインが致命的に良くないアクションゲームがあったとしても、レベルデザインをする側が「近接のいらないステージを作ろう」という感じで運用すれば問題は起きない。

再び『クラロワ』で言うと、カードが1種類なら欠点が露呈しても、どんどんカードを増やして、相性を増やして、ときには先出有利なほどパラメータをいじったカードを混ぜて、読みが難しいレベルまで拡張してしまえばカバーできる。
ただ、運用でカバーし続けると苦労が増えるのでゲームデザインレベルで解決されているのが最上とは言われる。

3つ目、現在の『クラロワ』でこれが問題になることはほぼない

『クラロワ』は突き詰めると後出しが有利になりやすいゲームデザインである、ということに対して色々な指摘があった。

・低コストで攻め続けるカードで相手を崩せる
・デッキの種類がたくさんあり、カード同士が単純な優位/劣勢の関係にない
・手札を隠して進行することで揺らぎが作れる

などなど。これらは完全にその通りで、私自身もそう思っている。
とはいえ、これはカードの投入とゲームバランスの調整のたまもので、「後出し有利になりやすい」というゲームデザインを2項で語ったような運用でカバーしたものになるというのが私の意見だ。

ただ、このカバー具合が尋常じゃなくて、すでにプロレベルでないと関係ないだろうと思えるほどの水準に達している。最高ランクのアリーナに到達したのがリリース半年以後のプレイヤーなら感じたことすらないと思う。

ではなぜ、すでに解決した問題について話題にしたのかといえば、私が『クラロワ』にハマりすぎた結果ぶち当たった壁が、そこにあったから、としかいえない。この問題はテーマとして3年追い続けている(本当)ものなのだ。

『クラロワ』の深みにはまり、ゲームデザインの疑問にハマるまで

『クラロワ』が出た2016年、私は死ぬほど『クラロワ』にハマっていた。
『クラロワ』は『Age of Empire』などに代表されるRTSを奇跡的なほどコンパクトにしたデザインで、えらい中毒性があった。初回に少額課金しただけで当時の最高位であるレジェンドランク帯を維持し、後に大会に出るようなプレイヤーも所属する強めのギルドに所属するほどやりこんでいた。
カードのレベルが自分より下の人間と当たることはあまりなかったし、技術的に上位10%程度には入るプレイヤーだったのではないかと思う。

そして、そういったプレイヤーが集うギルド内で議題になったのが「後攻有利問題」だった。

・時間とともに双方同じだけエリクサーが貯まる
・自陣にはタワーがあって、敵を少ないエリクサーで処理できる

これが『クラロワ』のゲームデザインにあり、理屈の上ではどうしても敵を陣地に誘い入れて低コストで倒し、余ったコストで切り返した方が安定する。ただ攻めた方が強いゲームは早出し勝負のクソゲーになりがちなので、この仕組み自体は当たり前ではある。
しかし、後出し有利が透けると面白くない。本来はこれを「ゲームバランス調整」などの運用でカバーしなければならないが、初期の『クラロワ』はこれに失敗して少し“守りゲー”になりすぎていた。

守りゲーになった大きな要因は2つあった。
わかりやすい要因を先に挙げると、待ちのカードが明らかに強かったとはいえる。
建物系のカードは現在より強かった。とくにエリクサーポンプは強く、待ちの鉄板カードになって流行りまくった(2016年5月までに段階的にHPが大幅下方修正され、コスト5から6になった。それでも後に初期手札に入らない調整までされたのだからそのヤバさはわかるだろう)。

次にカード総数が少なく、相手の持ち札と展開の想像が容易だったことが挙げられる。それが、今のクラロワでは解決した問題を引き起こしていた。

・低コストで攻め続けるカードで相手を崩せる
→当時は低コスト攻撃カードの選択肢は少なく、対抗カードがなくなるまで攻める枯渇デッキは難しかった。ポグライダーは強かったが、単発だとコスト損で処理されがちだし、フリーズなどと合わせた博打はやや危険だった。

・デッキの種類がたくさんあり、カード同士が単純な優位/劣勢の関係にない
→当時はカードが少なく、わかりやすい優劣が出やすかった。対処も判断が容易だった。

・デッキ相性・手札を隠して進行することで揺らぎが作れる
→カードが少ないことは、1枚ぐらい隠しても残りの札から警戒すべきカードはかなりの精度で絞れる状況を生んだ。デッキ相性も予想がつきやすく、展開は硬直した。

カード種類が少ないことが展開のマンネリを生み、カウンターを容易にしていた。開始半月で、お互いにキーカードは予想でき、どうやってカウンターカードを引っ張り出すかの勝負になっていたと記憶している。

Supercellは「クラロワは攻めるゲームにしたい」と語っていたと思うが、ベータから最初期までは認識が甘かったのではないかと思う。
初期の『クラロワ』は後出し有利になりやすいゲームデザインの影響をもろに受け、「ゲームを突き詰めすぎると・調整を誤ると後出し防御ゲーになりやすい」ことが明確に欠点として働いた。ゲームデザインをカバーする運用が徹底しきれていなかった。

とはいえ、そこはスーパーヒット集団のSupercellで、グローバルリリース後は立て続けに新ユニットを投入し、バランスもより攻めと守りが均衡するように調整を加えていった。
バランス調整が難しいゲームのデザインを乗りこなし、いつしか私の不満点も「防御ゲー」ではなく、「URが強すぎないか?」になっていった。

沸き上がる好奇心

『クラロワ』は良くなって、面白くなりました。しかし、そこで「めでたし!」と終われなかった。後出しゲーになってしまうゲーム設計は解消できるのか、という疑問が私の中に残り続けたのだ。素人ながらいくつか案が出て、それが機能するのかという好奇心も生まれていた。

たとえば『クラロワ』の先祖にあたるだろう『Age of Empire』では視界の要素があって、相手の行動は近くにユニットを派遣しなければ見えなかった。同じように視界を導入してユニットが見えなければ、どうだろう。お互いに最高効率でカウンターを切ることはできないから、後出しゲー問題は解決されるはずだ。

だが、それをスマホRTSに導入できるのか……数多くのヒット作を出したSupercellのゲームデザインが後攻有利なら、わかりやすくスマホの画面に収める最適解はこれだったのではないか、とかグルグルと考えてしまう。
ゲームデザインはトレードオフのときもある。ある部分が欠点として働いたとしても、わかりやすさが長所として残ることを見越した決定だったのかもしれない……。

考えても、結局は作らないとわからない。しかし私は作れない。
幸い(?)後発ゲームはこの問題に対処する必要があったので、対応されたゲームがいくつか出た。
私も後攻ゲー問題が解決できるのか検証するため、『クラロワ』系ゲームを遊びまくる方向に向かって現在に至る。

後発の『クラロワ』系ゲームは、欠点を直さなければならない

私の疑問とは別に、ここまで読んでくださった方の中には1つの疑問が浮かんでいるはずだ。

「後発ゲームも『クラロワ』と同じ方法で解決すればいいのでは?」と。

ところが、そうはいかない。
『クラロワ』は、当時として抜け出た完成度と新しさで人気を得て、その勢いでカードを増やして問題が顕在化する前に軌道修正できた。
しかし、後発ゲームで同じ手段を取ろうとすると問題がいくつか問題が発生する。

1・カードを増やして解決すると覚えることが増え、リリース直後にしてあり得ないほど敷居が高くなってしまう
2・最初からカードを増やしすぎるとバランス調整が難しくなる(クラロワのカード追加が鈍化しているのもこのせいだと思う)
3・『クラロワ』に慣れたプレイヤーがすぐにゲームを突き詰めてしまうからじっくり増やすこともできない

とくに3番。『クラロワ』の前と後ではゲームの消費速度が違う。
『クラロワ』は初めてのゲームだったからプレイヤーも手探りでじっくり遊んでいた。しかし、『クラロワ』の定石を踏んでプレイされる後発作品はすぐに消費され、ゲームデザインの欠点が問題になるまでの時間が短い。
よって、クラロワのゲームデザインの欠陥を修正する必要があった。だから、いろいろなゲームが色々な試みを行った。
3つほど、目立った例を出してみよう。

・ウィムジカルウォー
ユニットを出すと進路が塗られてプレイヤーの陣地となる。プレイヤーは陣地に直接ユニットを配置できるため、先に出して敵陣に食い込むといきなり奥深くユニットを出せる。

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・リボルバーズエイト
マップを広くしてユニットを先に出しやすくした(敵陣に到達する前に複数のカードを出しやすくなり、読み合いや弱点のカバーがやりやすい)。
ユニットを出すコストとは別に、ヒーローユニットのみが使用できるスキルの追加によって読み合いの要素を増やした。また、ヒーローユニットが場に出ている間は手札に戻らないルールで手札調整がしやすい。

・Castle Burn
視界の要素があるため、序盤はお互いに相手の出したユニットを見て最適なカウンターユニットを出せない(Age of Empire方式)。

これらが問題を解消できているのかどうか、それはぜひプレイして試してみて欲しい。
というか、『クラロワ』が人気すぎて多少の改善では乗り換えてもらえない方がよっぽど大変な課題のようなきもするけども(笑)

王者『クラロワ』がこの後にぶち当たる問題

長々と書いてきたけども、『クラロワ』は出た時期と比較しての完成度が驚くほど高く、プレイヤーを夢中にさせる魔法の力をもったゲームだった。
ゲームデザイン部分では「後出し有利」の仕組みを抱えており、そのためにバランス調整が難しそうだったし、初期は明らかにそこに引っ張られていたが、魔法からプレイヤーが覚める前にゲームデザインの欠点を調整しきってしまった。
現在では完成度はリリース時期と比べてはるかに高くなり、熟成されたゲームに仕上がっている。自分の感覚としては初期状態で新鮮味をのぞいた評点が80点だとしたら、現在は95点ぐらいに上がっているんじゃないかと思う。

自分はよく「特定のゲームが好きになりすぎると、悩んでしまってレビュー記事が書けなくなる」と語っているが、『クラロワ』もその1つ。意味不明なゲームデザインの疑問に取り憑かれて普通に記事を書けなくなってしまった。
でも、スマホゲームを遊ぶらその完成度を見て欲しいと胸を張って言えるし、自分をここまで考えさせる魅力が『クラロワ』にはある。

ところで、『クラロワ』のような王者がいつか必ず別の壁にぶち当たる。それは、覚えるべきカードが増えすぎて複雑になり、敷居が上がりすぎてしまう問題だ。
これについては、今のところ明確に「これが正解っぽい」という回答があって、他のゲームでも運用されている。

その回答と今のところ一番気に入っている『クラロワ』系のゲームをマガジン読者限定の内容として最後を締めておく。

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