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シェンムー3 PC版EPIC STORE専売について思うこと

3Dオープンワールド系ゲームのはしりとして登場し、あの『Grand Theft Auto 3』などの源流ともなったという『シェンムー』。セガのハード、ドリームキャストの看板として開発された本作は全11章の壮大な構想があったが、セガがハードから撤退し、ゲーム自体も膨大な開発費が注がれすぎたことで開発が中断され、未完のままとなっていた。

『シェンムー』は最高のゲームではないと思っているが、ドリキャスで青春時代を過ごした私にとっては歴史を象徴する思い出のゲームではある。それが完結しないことは寂しく思っていたが……なんと現代によみがえり、クラウドファンディングで700万ドル(7億円)以上を獲得して『シェンムーIII』として開発されることが決まったのが2016年。
夢でも見ているのかと思った。

私自身も支援してリリースを待つことにしたが、鈴木裕さんのゲーム……特に『シェンムー』はこだわりと延期の歴史で有名なので、期待はしていなかった。が、そろそろ本当に出そうな気配が漂ってきた。
初代『シェンムー』のように延期をしつつも、予約が始まり(予約開始後に延期もした)PC版はEpic Gamesストアでの独占配信となることも発表された。

PC版がEpic Games Storeでの独占配信が決定いたしました!
Shenmue IIIは、Unreal Engine 4を採用して開発を進めており、今までもEpicさんからはとても良いサポートを受けていたのですが、Deep Silverさんとの協議の結果、皆さんにPC版を楽しんで頂く一番ベストな配信先として、Epic Games Storeとさせて頂きました。

で、このEPIC専売が一部で物議を醸しだしているが、私自身は「まあ、いいんじゃない」と思っていて、それについてTwitterで言及したところ、「Steamで出ないなんて詐欺だ、お前は詐欺に加担している!」ぐらいのDMをいただいたりしたので、ここで自分の考えを書いておこうと思う。
Twitterで短くつぶやいても誤解が生じやすいし、実際誤解されていると感じたので。

EPICは悪くないと思っている

もともと、この件について言及したのは「EPIC STOREが独占しやがって!」と切れている知人がいてそこに、「たぶん、EPICは悪くないぞ」と言うついでに世間につぶやいたものだった。
『シェンムーIII』は延期され、当初の計画より時間をかけて作られている。ゲームが延期するということは、金が溶けるということだ。開発規模によるが、『シェンムーIII』レベルで3カ月も延期をしたらおそらく億単位の金が溶ける。

「また延期したのか。クオリティーが上がるのはいいが、どこから金が出るんだろう?」

と思っていたが、おそらくそれはEPICだったということで、EPICには『シェンムーIII』のクオリティを上げる手伝いをしてくれたことに感謝はあれど、怒りはない。
責めるとすれば、EPIC GAMESではなく、延期してEPIC STORE専売にして支援を得るしかなかった(と予想される)『シェンムーIII』の開発陣を責めるべきだろう。

シェンムーIII・EPIC STORE専売化の何が問題なのか?

今回、『シェンムーIII』の問題点は、「PCではSteamで販売するとしていたが、EPIC STOREだけで販売することになった」という点だ。
かつて『エネミーゼロ』がプレイステーションからセガサターンにハードを変更して大変なブーイングを受けたが、そのときのように「遊ぶ予定でハードを購入した人が遊べなくなった」わけじゃない。
Steam対応しないが、スペックを満たしたWindowsマシンであればもちろん問題なく遊べる。
だから、ゲーム機をメインとするプレイヤーには、大きな変更ではないように思えるかもしれない。
だが、これは一部では大きなインパクトがあることはわかっている。

Steamは現在、EPIC STOREよりも機能面で優れている。
とくに実績とバッジ(EPIC STOREにはない)はコレクターがいて「俺のSteamの実績の中にシェンムーIIIが欲しかった」という実績ありきで遊ぶプレイヤーもいたりする。
また、Steamにはコミュニティ機能があり、プレイヤーが団結していて「Steamで出るなら応援してやろう」みたいな人々もいる。
EPICがテンセントに買われていることを嫌う人もいる。
そういった人には『シェンムーIII』がSteamで遊べる体験が重要で、「Steamで出ないなら遊ばなかった」と考えて残念に思うのは仕方ないところだろう。

これに関して、期待を裏切ってしまった『シェンムーIII』開発陣は責められる立場にある。もともと、Kickstarter実施時には「Steamで出す」と思えることを言っていたのだから。
現在はさらりと流しているが、開発陣はこうなった経緯について、詳しく説明する義務があるだろう。どちらかといえば、本来はEPIC専売になる前に語るべきことであり、それが炎上を加速しているのだろう(とはいえ、事前に行っても返金騒ぎになっていそう)。

一般的に、クラウドファンディングで得られる金は開発資金の一部でしかない(シェンムーIIIは大金を集めたが、それでも開発費としてはパブリッシャーなどの支援なしには足りなかったはずだ)。
だが、たとえ一部であっても、我々が投じた金が、なぜ予定通りに消費できずに足りなくなったのか、それは説明するべきだ。

クラウドファンディングに絶対を求めてはいけないと思っている

しかし、『シェンムーIII』を責めすぎるのも違う、というのが私の考えだ。クラウドファンディングは、不確定なモノであり、ゲームが完成しなかったり、完成したとしても当初予定していた形でないものが多くある。

有名どころで言えば、『オウガバトル』の松野さんが加わることで話題になった『アンサングストーリー』は容易に出そうにないし、JRPGで実績のある開発者が立ち上げた『Project Phoenix』は延期を続けた結果、当初予定していたプラットフォームが生産終了してしまっている。
しかしながら、ゲームのクラウドファンディングとは「開発するための金を注ぐ」ものなので、変更されても多くは返金はなされない。

私自身も10以上のゲームに金を投じているが、(延期を考えずに言えば)予定通りに出たものは『Armello』など3本のみ。開発費が足りずに予定されたプラットフォームすべて(多くはSteamのみになった)に出せなかったゲーム、予定した機能すべてはつけられなかったゲームが4本。残りはリリースされていないし返金もなされていない。
保証はないのがクラウドファンディングなのだ。

『シェンムーIII』のネームバリューから「クラウドファンディングの計画はそのまま実装されることが少なく、返金も難しい」ことを知らず投資ししてしまった方も多いことだろう(なんせゲーム系では史上最大の調達額だから)。だが、クラウドファンディング参加前にはそういった説明文が出ているし、投資者も同意したはずだ。
そして、全体から見れば(本当にリリースされるなら)宣言していたゲーム内機能をできる限り実装し、Steamに出ない程度の変更で出る『シェンムーIII』はマシな方である。

もちろん、最初の予定通りに出来上がるのが一番良い。だが、たいていはそうはいかず、何かの機能なり、期日なり、なにかが落ちる。
それは開発の見通しが甘かったり、予期できない開発上のトラブルがあるとそうなってしまうもので、今回はそれがSteamの各種機能になったわけだ。

シェンムーに非はあるが、責めすぎても仕方ないと思う

資金が足りずに完成度が低い『シェンムーIII』をSteamで遊ぶか、資金が足りて完成度の上がった『シェンムーIII』を遊ぶか選ぶなら、私からすれば後者が望ましい。
いまさら『シェンムーIII』が遊べるだけでも夢みたいなのに、クオリティを上げる方向で頑張っている(正直、最初に出てきたムービーはがっかりだった)ことを応援している。

一方、本来予定していたものが果たされないことには、詳細な説明がなされるべきだとも思っている。
ただ、クラウドファンディングで開発するゲームで当初の約束と変更されることは多くあり、Steamで出せなかったことは開発上の成り行きとしてあり得るし、詐欺というほどでもないと考えている。

怒る気持ちや、返金して欲しいと思う気持ちはわかる。だが、先ほど言った通り「詐欺」というのは大げさだし、騒ぎすぎると応援していたはずのゲームを開発する手が止まってしまうこともあり、「Steamに出さないなら妨害するぞ」という状況になってしまう。
『シェンムーIII』に期待して投資したはずが、そうなってしまっては本末転倒ではないだろうか。

それでも怒りたくば怒れ

重ねて言うが、怒っている人たちがいるのはわかる。
今、Steamで出ないで怒っている人たちは、先ほど書いたような価値が目減りしていて、悲しんでいるのだろうと理解している。

「出てくれるだけありがたい」

という心境の私と、

「Steamで素晴らしいゲームを遊びたかったんだ!」

という期待感のあるプレイヤーの認識は天と地ほどもあるだろう。
ただ、現実として、クラウドファンディングでは多くの場合で事故が発生し、予算が足りなくなることも多い。小さなゲームなら、開発者がパートで金を稼いで完成までこぎつけたりすることもあるが、『シェンムーIII』クラスではそうもいかない。
だから、EPIC専売になってしまったと推測される。

「シェンムーIII」には非があるが、そういった事情は一考してもいいのではないか、と思う。
本記事を見て、怒っている人のいくらかが「彼らは予算が足りず頑張ったのかもしれない。延期できずにクオリティが足りないゲームが出るよりはよかった」と思っていただければ嬉しい。

そういった事情も考えつつ、Steamで出ないことでゲームの価値がなくなったと感じるのであれば……ゲームというのは総合的な体験だから、怒って当然だと思うし、返金運動もすればいいと思う(ゲームの完成が遅れるかもしれないので、やめて欲しいけど)。

例えば、ある人が「自分にとってSteamのクラウドセーブ機能は大事で、ゲームを削除してもう1回インストールしてもセーブデータがあるから、昔プレイした感動がよみがえる」と教えてくれた。
そこで、私にもドリキャスで『シェンムー』を遊んだ記憶がよみがえり、そのプレイデータが再生できたらどんな素晴らしいことか、と思ってしまった。

『シェンムーが大事ですか、それともSteamが大事ですか」みたいな陳腐な言葉ではなく、2つが1つになって真のゲーム体験になることは往々にある。許せない基準は人それぞれだから「こんな事情もある」と言ったところで、「それを知ったうえで許せねぇ!」となれば、もう引っ込むときでしかないし、その怒りはバッカーとしてシェンムー開発陣にぶつけるべき正当なものだと思う。
あと、EPICが支援しているらしいから、EPIC STOREに「シェンムーの体験はクラウドセーブで完成される」と文句を言いに行ってもいいかもしれない。
結果としてEPIC STOREにクラウドセーブが速攻で実装されたら最高なんだけど。

最後の段落は20:50に追記し、最初のDM以外の意見について削除しました。


げーむきゃすと は あなた を みて、「さいごまで よんでくれて うれしい」と かたった。