教員養成課程の大学生が系統看護学講座を読んでみた話。~看護学概論編〜最終回

さて、今回も『系統看護学講座 看護学概論』を読んだ感想を述べていこうと思います。

突然ではありますが、今回で看護学概論編を最終回としたいと思います。というのも、今まで第1章の内容を扱ってきたのですが、これ以降の内容から新たな記事が書けるほど深堀されていないため、看護学の入り口のところだけ取り上げ、以降の内容はそれぞれの教科書を使用した方が適しているのではないかと考えたからです。

という訳で次からは看護管理編を書いていこうと考えています。
という訳で看護学概論編は最終回になりますが、これからもよろしくお願いします。

これは『系統看護学講座 専門分野Ⅰ 基礎看護学[1] 看護学概論』を読んで書いたものなので、実際に本を読みながら「この人はここでこう思ったんだな」って読むのが一番楽しめると思います。多分。

一応リンク張っておきます。

1. 科学的根拠に基づく看護とは

最終回の題材となるのは科学的根拠に基づく看護、言い換えるとEBN(Evidence Based Nursing)です。

名前の通り科学的根拠に基づいて行われる看護実践のことであり、どのような方法がより効率的・効果的であるかが科学的根拠に基づいて説明できることが現代では求められているといえるのではないでしょうか。

言葉の意味自体はシンプルですし、特に説明することの程でもないですが、この「科学的根拠に基づく看護」というもの、果たして手放しにこれが良いものとして認めてもよいものなのでしょうか。

結論としては良いものであると考えられそうではありますが、一度自分で考え直して論理的に導いてみるという活動をするべきであると考えているので、医療・看護素人ではありますが考えてみようかと思います。

2. 科学的根拠に基づく○○

まず最初にどうして科学的根拠に基づく看護というものが現れたのかということを調べてみることとしましょう。

看護に限らなく、科学的根拠に基づく実践をEBP(Evidence Based Practice)といいますが、そもそもこれは科学的根拠に基づく医療であるEBM(Evidence Based Medicine)から他の分野に広がったものであるそうです。

つまり近接分野である看護にも医療と同じように科学的根拠に基づく行動が求められるようになるのは当然のことと言えますね。

以上を踏まえると次に2点を考えると全体像が少し見えてきそうです。
・科学的根拠に基づく実践はよいものなのか
・科学的根拠に基づく実践は看護にも適用可能なのか

というわけでまずは「科学的根拠に基づく実践はよいものなのか」を考えることにしましょう。

2.1. 科学的根拠に基づく医療

「科学的根拠に基づく実践はよいものなのか」を考えるにあたってまず最初にその始まりとなった科学的根拠に基づく医療についてみていくことにしましょう。

科学的根拠に基づく医療が提唱された背景を調べてみると、どうやら発祥の地はアメリカ合衆国であり、日々進歩し続ける医療に対して臨床結果に基づく最新・最善の医療法の選択を行うために広まっていったようです。

これは実際に生じていた誤診を減らす役割や、実際に行った治療が最善のものであったかを評価するために使われるものであり、通常行われている診療行為を科学的な視点で批判的吟味を行うためのものとして活用されているようです。

またEBMは医療をマニュアル化することとして誤解されることもあるようですが、実際のところは目の前の患者にとって最善であるかの判断は治療者の経験と技術に委ねられているようです。
つまりエビデンスなどを収集してそれを実行するだけではなく、集めたエビデンスなどをもとに目の前の患者に最適なものを選択するという点において完全なマニュアル化とは言えないという訳ですね。

この話を聞いてEBMの流れの中にはプロジェクトマネジメントでいうところのテーラリング(個別の事例に合わせて集めた手法を調整すること)も含まれているということが個人的には興味深いですね。

またなんとなくPPDACサイクルにも似ている気がしますね。
PPDACサイクル
Problem:問題の設定
Plan:仮説やデータの収集方法の設定
Data:データの収集、整理
Analysis:データの分析
Conclusion:改善点・結論の考察

EBMを通してみてみるとプロジェクトマネジメントなどでも見られるような活動がみられますね。
というわけで次は医療からさらに適用範囲を広げた科学的根拠に基づく実践、EBP(Evidence Based Practice)を見ていくことにしましょう。

2.2. 科学的根拠に基づく実践

EBPは医療分野以外にも教育や心理学、政策決定などさらに広い分野へと適用範囲を広げたもののようです。
Wikipediaをざっと見てみると他に図書館情報学や立法、さらには警察活動やデザイン、保全活動などにも及ぶようです。

つまり集合としてEBMよりも大きいものであるということですね。

全体としてはEBMと同じように科学的根拠を基に意思決定を行っていくものであり、経験則や伝統とは相異なるものであるということができます。

この段階でEBPをgoogleで検索してみると既に看護における実践に関する例が多く出てくるため、現代において科学的根拠に基づく実践といえば看護が筆頭であることがうかがえますね。

3. 科学的根拠に基づく看護を再度見てみる

これまでは科学的根拠に基づく実践がどのようにして発展していったのかを物凄くざっくばらんに見てきました。

という訳で次は科学的根拠に基づく実践は看護においてなぜここまで執り行われてきたのかについてみていくこととしましょう。

ざっとWikipediaに目を通したところ、そもそも看護に限らず科学的根拠に基づく医療のルーツの1つにナイチンゲールのクリミア戦争での営みがあるらしく、現代の看護学というものの源流もナイチンゲールにあるためにこのような関係性になっているものと思われます。(ざっと目を通してまとめたものなので間違いがあれば訂正のコメント等よろしくお願いいたします。)

つまり、看護において積極的に科学的根拠に基づく実践を採用しているというよりは、現代の看護学はこの科学的根拠に基づく実践を前提として展開されているといえるのではないでしょうか。

したがってこの科学的根拠に基づく看護が良い看護であるかということは現代の看護そのものについて見直すための看護哲学の分野であると言えそうですね。

ここでナイチンゲールは看護とはどういった営みであるかと述べていたかを振り返ると、1つに「患者の生命力の消耗を最小にするように整えること」であるというものがありました。

この目標を達成するために、必要な手段として科学的根拠に基づく看護を実践しているというのであれば、なるほど確かに科学的根拠に基づく看護はいいものと言えそうです。

前述したように科学的根拠に基づく看護の元となった科学的根拠に基づく医療では誤診を減らすために用いられていました。専門家の判断であってもある程度の分散が生じることが知られているため、客観的なデータである程度その分散を減らそうとすることは1つ有効な手段と言えますし、これは看護についても同じと言えそうです。

つまり患者の生命力の消耗を最小にするための働きかけ、すなわち最適な手段を探索するための手段として科学的根拠に基づく看護は良い看護の手段の一つであると言えそうです。

3.1. ちょっと反論を考える

とはいえ全く反論の余地がないかと言えばそうでもなく、例えば科学的根拠に基づく教育(EBE:Evidence Based Education)の場合は割と反論の意見も多く見受けられます。
それらでよく言われることもふくめて少し科学的根拠に基づく看護も批判的に見てみましょう。

まず1つ目が「科学的根拠ばかりを重視してしまい、目の前の患者が疎かになる。看護は目の前の患者を大切にする営みであるべきだ。」というものが考えられます。
これはEBEでよく見る論調の転用です。

あまり看護でこれが言われているのを私は見たことがないですが、これに対する更なる反論を考えてみると、すでにこれは答えが出ていますね。

そう、テーラリングです。

つまり最終判断などは当然その専門家に委ねられますし、当然目の前の患者に適した形で実行する必要があるわけです。

そのため科学的根拠に基づく看護は一概に目の前の患者を無視した実践であるとは言えないということがわかりますね。

次に考えられる反論としては「科学的根拠は覆る可能性がある」というものです。
当然科学には反証可能性が残されているため、果たしてそれが本当に最適な手段であるといえるかは確実には言えないということですね。

これに対しては科学的根拠に基づく実践の目的としては客観的に示されているデータを基に最適なものを選択するという手法、つまりその実践を行う人の主観ではないという点が重要なことであるということから反論ができそうです。所謂説明責任だとかインフォームドコンセントとかに必要ということですね。

昨今インフォームドコンセントが重要視される中で看護師にも実行責任だけでなく説明責任が求められるようになっているのであれば、確かに科学的根拠に基づく看護なしに看護実践は不可能といえるでしょう。

これらを踏まえるとやはりEBNは現代の看護においては必要不可欠な手段の一つであるといえるでしょう。逆にいえば科学的根拠に基づく看護を上回る重要な看護の手法が現れた時こそが現代の看護から次の看護への転換点になるといえるのではないでしょうか。

4. 余談

さて、こういった科学的根拠に基づく実践を行うためには当然必要となるものに「論理的思考」というものが挙げられます。今の世の中ではクリティカルシンキング(批判的思考)などと言って義務教育の総合的な学習の時間でも取り上げられているなどと騒がれたりしていますが、実は案外昔からやっていることだったりするんじゃないかなと思っていたりします。

じゃあどこで取り上げてたんだよって話だと思いますが、内容としては小学校の「道徳」なんじゃないかなと思っていて、「いや待て、そんなことやった覚えないぞ?」と思う方もいると思いますが、道徳の内容って道徳だけで取り上げられているわけではないんですね。実は各教科の中で道徳の要素が散りばめられていて、それを道徳の時間にまとめ上げるという形式になっています。

そして算数に散りばめられた道徳の要素として、算数の目標である「日常の事象を数理的に捉え見通しを持ち筋道を立て考察する力」は道徳的な判断力として育成すべき力であると最新の学習指導要領解説では述べられています。

一応1つ前の学習指導要領解説を確認したところ同様の記述が存在したため、少なくとも私と同年代かそれより下の世代の人間はこの科学的根拠に基づく実践に必要な力の下地はつけられていることがわかります。

現役の看護師の中ではあまりこれらの教育を受けた世代はまだそれほどいないと思われますが、これから先看護における科学的根拠に基づく実践がより発展していけばよいなと考えています。

以上、道徳的な判断の看護の話でした。

5. あとがき

本当はもっと更新頻度が高い予定でしたし、もっとたくさんの内容をとりあげる予定でしたが、読書メモを見返したところここから先はより専門的な内容であったりしたためにこういった形で何か記事を書くことが大変だと判断したため、看護学概論編についてはここまでとすることにしました。

とはいえ今回の内容からまた新たな疑問が湧いてくるわけです。

「では看護はどのようなマネジメントがなされているのか?」

という訳で次回からは看護管理編を書いていきたいと思っています。

とりあえず看護管理編を書くにあたって事前にオペレーションズ・リサーチなどの内容を軽く身につけたり、PMBOKの内容についておさらいしておきたいと思っているのでいつ始めるかは未定ですがそちらも見てくださると幸いです。

以上を持ちまして看護学概論編を終わりにしたいと思います。ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

追記

多忙のため看護管理編は打ち切りとなりました。申し訳ございません。

6. 参考文献

茂野香おる.系統看護学講座 専門分野Ⅰ 基礎看護学[1] 看護学概論.第17版,医学書院,2019,384p,
「根拠に基づく実践」『ウィキペディア日本語版』最終更新日 2019年1月22日 (火) 14:20 UTC
URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A0%B9%E6%8B%A0%E3%81%AB%E5%9F%BA%E3%81%A5%E3%81%8F%E5%AE%9F%E8%B7%B5
「根拠に基づく医療」『ウィキペディア日本語版』最終更新日2022年8月18日 (木) 14:55 UTC
URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A0%B9%E6%8B%A0%E3%81%AB%E5%9F%BA%E3%81%A5%E3%81%8F%E5%8C%BB%E7%99%82
「Evidence-based nursing」『Wikipedia:The Free Encyclopedia』最終更新日 2023年1月28日(日)22:01 UTC
URL:https://en.wikipedia.org/wiki/Evidence-based_nursing
小学校学習指導要領(平成29年度告示)解説特別の教科 道徳編 平成29年7月 文部科学省




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