MTGスタンダードが流行らない理由

MTGスタンダードが流行らない理由についての意見を、今回メーカーが広く募っているということで、一ショップの店主視点でまとめてみた。



1.面倒臭い

いろんなゲームを同時期に遊んだり、ゲームサークルに所属した経験がある人はわかると思うが、人はより手軽に遊べる趣味に流れる。
20年前、すでに娯楽はたくさんあったが、MTGのスタンダードは、その中でも手軽に遊べる趣味であり、多くの人が他の趣味から流れてきた。

20年経ち、より手軽に遊べて刺激が得られる娯楽が溢れるようになった今、MTGスタンダードは相対的に手間のかかる面倒な趣味、という立ち位置になってしまった。
シーズン毎に最新リストを確認し、カードを買い揃え、メタゲームを考察し、デッキを作ってプレイする、という一連のプロセスが、他の趣味より面倒くさいものとなってしまった。
趣味の世界の、特にプレイ人口という意味では、「手軽さ」は「面白さ」に勝利する。



2.追加料金を嫌う
 
スタンダードのローテーションはゲームの面白さである。
ことMTGスタンダードでは、お金がかかるからやらない、と言われてしまうことが多いが、お金を払って面白いという体験を買うこと、道具が経年劣化したり、後により高性能な道具が出ること、これらは、趣味全般で考えればごく自然なことである。

一方、下環境のヘビーユーザーは、高額カードの購入にはお金を惜しまない傾向があるのに、その彼らの口から、スタンダードは金がかかる、という言葉が出ることが少なくない。
スタンダードは、ローテーションで価格が下がる可能性があり、長期的な資産にならない、ということを理由に挙げる人がいるが、スタンダードで一番高いTierデッキ1つを揃える金額で、土地1枚すら買えないレガシーと考えれば、スタンダードは絶対値ではるかに安いゲームである。
ローテーションやプレイ頻度による日割り計算を挙げる人もいるが、10年前ならまだしも、今はそれすら下環境の方が高い。

実はこれは金額の多寡やコスパではなく、スタンダードが追加料金がかかるゲーム性だから敬遠されている、という方が正しいと考えている。
日本人(に限らないかもしれないが)は、初期投資の大小よりも、追加料金がかかるという方式を嫌う傾向があり、それを「高い」と表現しているだけではないだろうか。



3.一度始めたら休めない

環境変化の少ない下環境は、自分のペースで休めて、一時カードを触らない時期があっても、復帰後にまた前のデッキや資産を使える。

一方でスタンダードは継続が大前提のゲームである。
3ヶ月休んだらついていくのが大変だし、1年休んだらもう新規で始めるのとあまり変わらない。

現在はチャレンジャーデッキというそのまま大会に出てもある程度戦えるレベルの構築済みデッキが年に1回出るようになったが、
正直構築済みデッキ自体が、環境変化が激しいMTGのスタンダードにそれほど向いている商品ではない。
(かなりのバリューがあるので、店舗にもプレイヤーにもうれしい商品ではあるが)
MTGスタンダードの休めない、続けられるかわからないので気軽に始められない、という点は、ユーザーに不安や負担が大きいと思われていると考えている。



4.フリープレイ向きではない
 
ショップに通っているプレイヤーには実感が沸かない人がいるかもしれないが、TCGを購入しているうち9割のユーザーは、家で友人や家族と遊んでいる。
ショップに通ったり大会に出るプレイヤーは、ユーザーのほんの一部でしかない。
数あるTCGやレギュレーションの中で、MTGの紙のスタンダードを友人や家族と家で始めて遊びたいだろうか?
20年前にはいたと思うが、今あえてそれをやりたいという人は少ないだろう。

MTGスタンダードは明らかに家で遊ぶフリープレイ仕様ではない。
競技性の高さはゲームの面白さにはなるが、購買層の中心には刺さらない。



5.プレイ環境や購入環境がない
 
大会の参加人数や調整仲間、プレイヤーの熱量。
ショップでそのTCGのレギュレーションがプレイされるには、これらの要件は必須である。
ただMTGは種類数も多く、知識も必要になるので、店側は取り扱いが難しい。
新規立ち上げの店舗では、MTGは取り扱わない、というケースも多い。
そうなれば、MTGスタンダードのプレイ環境は地域に根付かず、いくら新規ユーザーがアリーナで興味を持ったとしても、紙を手に取る機会が訪れない。
 
そうなると専門店の出番となる。
MTGは取り扱うショップが少ない代わりに、専門店やMTGに力を入れたショップが多い。
だが今や専門店からもMTGスタンダードは敬遠されているようだ。
大会に人が集まらない上に、製品やスタンダード用のシングルカードを置いても儲けが薄い、もしくは赤字のリスクがあるからだ。
大半のショップの利益の中心は、下環境の中古カードの売買と、(現在違法性が指摘されているが)オリパやくじであり、スタンダードはお荷物だと思われているかもしれない。
営利企業である以上仕方がない部分があるのもわかるが、紙のスタンダードに力をいれていなければいずれメーカーが存続できなくなるのも事実。
ショップは積極的にMTGスタンダードを、それこそ「スタンダード」として推すべきだろう。
 
下環境のプレイヤーは、決してメーカーやショップへの帰属意識は高くはない。
製品を買う必要がなく、ショップ大会の必要性も薄いからだ。
メーカーやショップを支えてくれるとは限らない。
帰属意識の高いスタンダードプレイヤーとがっちり組むのは、利益面さえクリアできれば、ショップにとってメリットは高いはずだ。
そのためには、メーカー、ショップ、プレイヤー、すべてが意識を改めないと、不人気から脱却は難しいだろう。



6.解像度の高さによってライトユーザーが入りにくい
 
20年以上前、インターネット常時接続が普及していなかった時代、情報を得る方法は、月1発刊のゲームぎゃざの記事くらいしかなかったはずだが、地方の公民館の月1の非公認大会でも100人集まり、そのほとんどがコピーデッキを握っていた。
つまり、インターネットの普及により情報の共有速度が早まったかと言われれば、実はそれほど大きな差ではなかったと言える。
 
問題は情報の深さにあり、昔よりも高度な解析がなされ共有されるようになった。
インターネット黎明期からMagic Onlineはあったが、日本語化され基本無料で遊べるようになったMTGアリーナの登場で、より試行が簡単になった。
ただその結果、その情報量と深みへの到達の速さに対応できるのはヘビーユーザーだけとなってしまい、ライトユーザーにとって今の現状は、早口で大量の情報をまくし立てられているのと同じではないだろうか。
 
MTGはただでさえ他のカードゲームより多様で複雑なテキストを持っているわけで、
加えて、スタンダードは昔より収録カードを増やされカードプールが広大なこと、カードパワーの上昇により各カードパワーの上限と下限の差が少なくなり、構築で通用するカードの可能性が底上げされ、どのカードでも構築で使われ得ること、これらの情報量の多さはヘビーユーザーはより熱中できるだろうが、ライトユーザーには優しくはない。

最初から解像度の高い情報にさらされることによって、ライトユーザーが浅瀬からゆっくり環境に入るというような余地がなくなっている。
難しそうだからMTGはやらない、どうせやっても勝てないだろうからやらない、で終わってしまっている。



7.やらない理由が作られている
 
自分の使っているデッキに禁止カードが出てモチベーションが下がったから辞めた、というのはわかる。
ただ、禁止カードが出るからスタンダードはやらない、と外から言っている人は信用ができない。
そういう人は禁止カードが環境からなくなってもスタンダードをやらないし、そもそも禁止カードなんて出なくてもやっていない。
他の理由があるのに、禁止カードというメーカーを責めやすい、ディスりやすい理由がていよく使われているだけだろう。

まず、禁止カードが出たところでゲーム性そのものは損なわれない。
全員その禁止カードを使えない、という構築ルールは同じなわけだし、禁止の過程や理由に賛否両論はあったとしても、あくまでゲーム性を改善しようという措置であり、それによってゲーム性が損なわれたから辞める・やらない、というのは理屈としておかしい。

禁止によってある日価値が暴落するリスクがあるから、というのもよくわからない。
強いカードはメタられるし、対策カードが出る可能性もある。
せっかく買った高額カードがデッキから抜けたら、禁止になったのと損失という意味では実質同じだろう。
使われなくなれば価格は下がる可能性もあるわけで、高額カードの下落要因は別に禁止だけではない。
下環境でリーガルなら、禁止での損失はむしろ徐々に使われなくなっていくケースより少なくて済むこともあり得る。

下環境でも禁止カードは出るし、下環境には再録という大きな暴落要因もある。
禁止カードの存在は、スタンダードをやらない理由としてはあまりに中身がない。
ゲーム性の評価とは関係なく、やらない理由として利用されていたり、禁止カードがあるカードゲーム、ということでのディスりで盛り上がれるエンタメになってしまっている。
メーカーはそういうすきをそもそも与えるな、というのは、まあその通りではあるかもしれないが。



8.やらない理由がエンタメ化している

禁止カードに代表される、ゲーム性やプレイ環境の都合に一切言及せず、それをやらない理由に挙げる行為は、メーカーへのディスりや誹謗中傷(場合によってはショップや経営者、イラストレーターなど)がエンタメ化しているからだと考えている。
お金や時間を投資してそのゲームを遊ぶよりも、そちらの方が手軽にできて刺激を得られ、何より無料である。

やってもない人がそのようなディスりで快楽を得て、それを聞いた人はネガティブな印象を持ち、人気のなさにさらに拍車をかけるという悪循環が存在していると考えている。



9.スタンダードは安い

スタンダードのカードは安い。
人気がないのだから受給の面から考えれば当たり前だ。
だが巷ではスタンダードは高いというデマが蔓延している。
 
スタンダードをやっていない、現在の環境を知りもしない人間が、ディスるという快楽のために、環境にあるたった1枚の高額なカードを指差し、「スタンダードはこんなに高いんだ!やっている奴は馬鹿どもだ!」と揶揄して、みんながそれに納得してしまっているという、地獄のような状況が今のスタンダードである。
 
安いから、ユーザーの損失を補うために、スタンダードのパックはいくつかの種類に分けられ、一部のパックに下環境のカードを入れられている。
そして今度は、「スタンダードのパックなのに、スタンダードで使えないいらないカードが入っている!」と喚き散らす人が出てくる。
何故パックの種類が分かれているかも、どういう意味で入っているかも、トレーディングカードの意味も、ブースターパックの意味もわかっていない奴が、さらに足を引っ張る。

MTGスタンダードは、外にも内にもとにかく敵がいて、イメージを最悪にしている。
人気が斜陽なゲームではこういうことが起こり得るのだろうが、これでは新規は入りにくいだろう。
デマを訂正し、デマを流すやつを許さない毅然とした態度、これが必要ではないだろうか。



10.MTGアリーナの登場はプラス

無料で紙のスタンダードと遜色のないゲームがプレイできる、ネットゲームMTGアリーナの登場は、メリットデメリットを考えると、メリットの方がはるかに大きいと考えている。
MTGアリーナがあるから紙のスタンダードがやられなくなった、という人がいるが、MTGアリーナでやって紙もやりたくなった、という人もいるわけで、前者のようなプレイ人口も、その宣伝役や下地になっている可能性もある。
紙の大会に向けての調整の調整として、より紙のスタンダードに熱中できるツールとして、役立っている場面は多々あると感じるし、何よりMTG初体験の人や興味のある人に、無料のアプリがあると勧められるようになったので、ショップからティーチングの手間を大幅に軽減してくれた功績は大きい。

なお、アリーナがあるから紙をやらない、と言ってる人は、アリーナがなくてもやっていない人なので、プレイ人口はマイナスには作用していないと考える。



11.広告が弱い

MTGは毎回セット、ゲームの背景となる世界観とオリジナルストーリーが作り込まれていて、そのストーリーが、映画ばりのショートムービーで映像化されており、それは大変クオリティーが高い。
ただそれを観て、日本人がMTGのスタンダードをやりたい、ということには繋がっていない。
 
日本人がプレイするきっかけにするのは、世界観の実写化ではなく、対戦アニメや、日本の絵師により描かれた女性キャラクターカードや、日本の有名イラストレーターや漫画家とのコラボだろう。
他にない硬派なMTGのイラストに惚れてプレイしている人がいるというのは十分わかるが、不人気である理由も同時にそこにあるわけで、不人気であるこの期に及んで、それらに迎合する邪魔をするのは、足を引っ張っていることだと自覚してほしい。
日本人絵師とのコラボは、新規層は確実に興味を持っている。

日本ではMTGの広告が大量に展開されているが、それは新規層には届いていない。
日本の大物Youtuberが実際にプレイしているというような、月並みだがそんなインフルエンサーとのコラボが一番刺さると思われる。
もしくはMTGにはこんなに高いカードがある、誰もが知る絵師とコラボしていると、TVで特集されるか。
どれも陳腐だが、新規にアプローチする広告はほんとそういう陳腐なのでいい。
その中から、ゲーム性の面白さを知った人を取り込むのが結局は一番てっとり早い。
 
これを言ってしまうと身も蓋もないが、多くの消費者は、転売益とインスタ映えとギャンブルにしか興味がない。
巷で売れてる商品は全部それである。
MTGは、芸術的な真面目な広告を作っている場合ではないのだが、面白さを伝えるアプローチも本当のところ意味はない気がしてくるので、ここはあまり突き詰めてはいけない。



12.グランプリの消失と、プロプレイヤーとの乖離
 
グランプリがなくなって数年経つ。
誰でも出られる数千人規模の大会は、プレイヤーの目標になっていたし、一般人が対面の大会で勝ち上がってプロになれるチャンスがあることに夢があった。
グランプリがなくなったことへの不満はよく聞くものの、MTGやスタンダードの人気低下に繋がったかまではわからない。
ただ、プロプレイヤーへの道が閉ざされ、既存のプロが文字通りの職業プロになったことで、一般プレイヤーと意識が乖離してしまったという側面はある。

特に団結のドミナリア環境ではそれが顕著で、この一般プレイヤーに面白さで好評だったこの環境は、プロはお気に召さないらしい。
店舗大会で遊ぶ一般プレイヤーとっては、相性差による三すくみがはっきりしている中での店内メタの流動、コンセプトの薄いジャンクデッキ、カードパワーの叩きつけ、これらの要素を遊び尽くした「楽しい環境」だった。
一方、職業プロにとっては、可能な限り勝率の高いデッキを握りたいという意識が強く見られた。
コンセプトの極めて薄い環境、マナフラマナスクが発生しやすい環境、相性差に左右される環境、これらは、安定して高い勝率を求められる職業プロに「つまらない環境」と評された。

グランプリやプロプレイヤーの存在がどの程度影響を与えたかはわからないものの、数年前のMTGスタンダードとは取り巻く環境が大きく変わってしまったことを示している。



まとめ

MTGスタンダードが、面白さに反して人気のない理由は無限に出てくるが、今回自分が重要だと思った点をいくつかピックアップしてみた。

ちなみに、リリースされる商品が多過ぎだとか、印刷の質だとか、そういうのはコレクター気質のユーザーが気にするだけで、スタンダードのプレイ人口にとっては些末なことで、影響を与えていないと考えている。
リリースされるSecret Layerやマスターズを次々に買ってしまって、スタンダードで遊びたいのにカードを買えずにプレイできない人、
をモデルケースと想定しているのなら、いくらなんでもユーザーを馬鹿にし過ぎだろう。
 
 
スタンダードの不人気について、メーカーを叩く人が多いが、自分はメーカーはよくやっていると思っている。
今回の兄弟戦争でも、改善に取り組んでいる点が随所に見られた。

むしろ矜持を失っているのは大手ショップの方だと思っていて、
普段からスタンダードを推さずに、中古カードで利益の取れる下環境を安易に推しておきながら、メーカーの下環境のカードや、直販のSecret Layerを刷る行為を叩くなど、言語道断だと考えている。

スタンダードを推し、下環境は添えるだけ。
かつてはこれがメーカー・ショップ・ユーザーのすべての関係性で利益となるMTGの王道の形であり、それぞれが矜持とすべきだったはずだが、失われてしまった。
誰が最初にバランスを崩したかはわからないが、今は三者すべてから失われてしまった。

スタンダードの人気を取り戻すには、それぞれがこれの形に回帰するように努めることだと考えている。
 
というわけで、うちはスタンダードを積極的に推しています。
スタンダードをやらない人を悪く思うことはありませんが、貶めて他のゲームやレギュレーションをアゲようとする輩や、デマを流してディスろうとする奴は許しません。


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