戦争教室-僕たちは殺し合った-

俺が中学生2年の春、ひどい雨の日、社会の授業に先生が妙な物を持ってきた。
妙な物というのは藁半紙、学校でしか見ないあのシャープペンシルが引っかかる茶色く安っぽい紙だ。アレを小さく四角く切った物を煎餅の缶一杯に持ってきた。

ふと左を見ると隣の席の“アイツ”は今日も目を輝かせている。頭と人当たりが良く、なぜが俺とだけはソリが合わない嫌な奴。

社会科の先生がカードと呼ぶ藁半紙の束を配りながら「ちょっとみんなにゲームをしてもらいます」と言い、俺は(いい加減これをカードと認めるか)と思いながら束を解くと2種類の【資源】【労働力】と書かれた紙がそれぞれ十数枚。

触って確認すると【資源】カードの裏には【兵器】と書かれており【労働力】カードの裏には【兵隊】と書かれていた。
下らないと思いながらも一応授業だし、先生のルール説明を聞いておいた。

先生の説明したルールはこう
・全てのカードは机の上に置くこと、隠してはいけない
・最初は全て【労働力】【資源】を表にする
・10分に1回、計3回机の上の【労働力】カードの半分の枚数の【資源】カードが追加で配られる
・【労働力】【資源】は好きな時裏返せるが元に戻してはいけない
・裏返して【兵器】【兵隊】になったカードは1ペアで1つの【軍隊】として扱う

・軍隊を誰かの机に持って行くとじゃんけんが出来る、挑まれたら断る事は出来ず、負けた方は軍隊を1ペア破いて捨てる
・軍隊が無い人は手持ちの資源を全て奪われる
・ノートに書けばクラスメイトと条約が結べ、結んだからには守る事。
そして最後のルール
・資源の枚数トップ5人はジュースを貰える
・ワースト10人は教室の掃除
いきなり始まったゲームに俺は困惑しながらも子供ながらに3つ目のルール、条約がキモだと思い、誰より早く仲の良い男子に声を掛け5人組を作り、2人が偵察に向かった。

偵察の結果、チームを組み遅れた子や、絶妙なバランスを取る仲良し女子3人組がいる事が解り、数組の軍隊ペアカードを持って資源を奪いに行った。
が、ここでゲームの欠点に気付く。
奪われる側も、全て奪われるくらいならヤケクソで労働力も資源も使い果たそうとするんだ。
今思うと焦土作戦っていうのかな?
これには頭を悩ませ、そして交渉した。
「資源を集めているけど戦わずに済む方がこっちも助かる、資源を渡してくれないか?そしたら労働力は残せるから配布があるよ」
そうして最初の10分で資源40枚を確保した俺達は一気に軍隊を強化した。
“アイツ”の作戦に気付いていない俺たちは勝つ事しか考えていなかった。

最初の資源が配られた後、状況は一気に変わった。
“アイツ”のチームが教室を周り、資源カードと労働力カードを少しずつ回収していた。
回収されていたチームの残り資源を奪い行くと、アイツのチームが軍隊を持って現れ「俺達が代わりに戦う」と言った。

「防衛協定!」気付いた時には遅かった、しかも資源を奪って回った俺たちは恨まれている。作戦を練り直し、ジュースが1人1本である必要はない、水筒のコップで分けあえば1人で缶半分は飲める!
後から出来た別の5人チームと手を組み「連邦国」を作った。

でもアイツのチーム、というより作戦は完成していた。
ただの奪い合いゲームと思っていたこのゲーム、掃除係(=敗戦国)になりたくない人は最低限の資源を確保して戦わずにやり過ごせば十分だった。

アイツのチームの資源を見るとまだ勝てる枚数だ、今のうちに潰せとじゃんけんを挑んだ。
何度もカードを破き、このペースなら勝てる!そう思った時、防衛協定を結んだ弱色国の奴らが自らカードを差し出し始めた。

連邦国相手に戦うリスクより別の大国をぶつける方を選んだんだ。
俺達連邦国は敗北が見えていても、じゃんけんをやめられなかった。
そして3回目の資源配布と同時にゲームは終わった。
結果は俺たち連邦国の大敗、罰ゲームとして教室に散らかったカードの掃除をさせられる事が決まった。

そして最期の忘れもしない先生の言葉
「今あなた達が破いた労働力カードは戦死者です」
…クラスは静まり返った。
先生は続ける「戦争反対と言うのは簡単ですが、戦いたくない子も全員巻き込んだ戦争が起きました、止める手段はあったはずです、よく考えましょう」

結果として教室の掃除はクラス全員でやった、驚くほどあっという間に終わった。
その後皆で水筒のコップに分け合って飲んだ、一口だけのジュースはすごく美味しかった。

これが俺の体験した戦争教室。


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