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バスト目測者人口

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夏。大学2年生の坂本のもとに先輩からの招集がかかる。 「オダジョーを襲撃しよう」  突飛な襲撃計画の裏には、坂本と同学年の巨乳女子「逢沢晴子」の存在があった。流れゆく時間の中、腑… もっと読む
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バスト目測者人口【Chapter1:2年 夏】

バスト目測者人口【Chapter1:2年 夏】

 昔……といっても高校のころだけど、おれは「サモ・ハン・キンポー」と呼ばれていた。「動けない方の」という言葉もついていたけど、別にいじめられていたわけではないのだ。実際におれは物心ついたときから自分の腹に隠れてチンチンが見えなかったり、仲良かったりそうでもなかったりする人に胸とか腹を頻繁に触られるような体型をしていたってだけの話なんだと思う。どこにでもいるただのデブだったのだ。
 幼少期から他人を

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バスト目測者人口【Chapter2:1年 春】

バスト目測者人口【Chapter2:1年 春】

 高三の夏を迎え、地元にいても特にいいことがなさそうだと思ったおれは、友達数名と話し合った結果県外の大学に進学することを決めた。田舎だったのだ。でもかといって特別なにがやりたいとかもなかったので、ものすごく頑張ることもなく進学できる範囲で立地の良さそうな大学を選別してサイコロを振ることにした。人生の節目は、なにかを期待するものなのだ。おれは大学生になった。

 いざひとり暮らしが始まって一週間ほど

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バスト目測者人口【Chapter3:1年 初夏】

バスト目測者人口【Chapter3:1年 初夏】

 新歓を経て確実に変わったことがある。
 逢沢晴子が学内で顔を合わせれば挨拶をくれるようになったのだ。立ち止まってどうでもいい話をしてくれたり、食堂で隣の席をゆずってくれたりする。おれは混乱する。最初の数回こそ「新歓のときはありがとう~」程度だったのが、共通でとっていた外国語の授業において一回だけペアを組んだときになると、互いに英語で行った自己紹介の中でいろいろと教えてくれる。女子校出身であり、社

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バスト目測者人口【Chapter4:1年 夏~秋】

バスト目測者人口【Chapter4:1年 夏~秋】

 待てども待てども逢沢から連絡が来ないうちに夏休みが始まり、おれは二週間ほど実家に戻るが、大学の夏休みというものはとにかく長くてまとまった宿題もない。本物の夏休みなのだ。
 実家から戻るや否や、帰省せずにずっと寝て過ごしていたという宮崎と電車に乗って植物園に行き、帰りにサイゼリヤでご飯を食べるとそのままやつの部屋で『ランボー』シリーズを一気観する。そろそろ寝ようと消灯したときにはすでに窓の外はうっ

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バスト目測者人口【Chapter5:1年 秋】

バスト目測者人口【Chapter5:1年 秋】

「バストはアンダーとトップの差でわかるんだよ。アンダーは胸のふくらみのスタート地点ね。スタート地点といっても下のねずみ返しみたいになってるとこね。トップは乳首」
「トップは乳首……」
 古谷先輩が入手した、我が大学の三年の女子が出演していると噂のAVを男子寮の談話室で鑑賞していたら自然とバストの話になり、桑谷さんの話になり、計測方法にまで転がる。結局鑑賞していたAVはその場の潤滑剤としての機能さえ

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バスト目測者人口【Chapter6:1年 冬~春】

バスト目測者人口【Chapter6:1年 冬~春】

 おれは急激になにもかもが途方もなく感じられるようになって大学を休む。気がつけばそれが二日三日と続き、日常となる。
 さらに気がつけば秋は深まり、半袖で過ごすこともなくなって、おれは親父からもらったラコステのじじくさいセーターに袖を通し、ベッドで寝そべりながら読書をしたりDVDを観たりなにもせず時の経過に耳をすませたりして過ごすようになっている。SNSウォッチを行うことでみんなの動向はなんとなく伝

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バスト目測者人口【Chapter7:2年 春】

バスト目測者人口【Chapter7:2年 春】

 四月になりました。
 服を着替えてアパート前の駐車場に出ると、猫が中年男性のような声で鳴いているのを見つける。おれは部屋に戻って何か食べるものでも持ってこようと思ったが、思っただけで実際に戻らなかったのは、自分の部屋の冷蔵庫が空っぽなことを思い出したからで、ついさっき尻の左側のポケットから憶えのない千円札が出てきたということもあってそのままコンビニになにか買いに行こうとしていたところだったのだ。

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バスト目測者人口【Chapter8:2年 夏②】

バスト目測者人口【Chapter8:2年 夏②】

 しばらくブランコで揺れながら、ジャングルジムの頂に腰掛ける古谷先輩を眺めていた。引くに引けなかった部分もあるのだきっと。ブランコを囲むポールに腰掛けたタケヒコが「ねっむ。おれ明日朝から教習所なんだけど」と言うが、みんなほかの誰かが反応してくれるだろうと思っていて、静かな夏の夜が小さく響き続けるだけだった。
「古谷先輩って童貞らしいよ」
 なぜか宮崎がそう漏らした。腕を組む高橋がおれの反応を待って

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バスト目測者人口【Chapter9:2年 夏③】

バスト目測者人口【Chapter9:2年 夏③】

 それから逢沢を見かけない日々が続く。
 その間に大学では瞬く間に織田城太郎と彼女の噂が広まり、どういうわけか逢沢側へのバッシングがほとんどで、おれは佐藤ふみ花という女のことを思い出す。今回の件なんて格好の燃料だ。逢沢晴子は超がつくヤリマンだの、メンヘラだしちょっと慰めてやればやらせてくれるだの、そういう浅薄な脳みそから垂れ流されるような噂の数々の根源には彼女がいるはずなのだ、という根拠のない憶測

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バスト目測者人口【Chapter10:2年 夏④】

バスト目測者人口【Chapter10:2年 夏④】

 わからんわからんわからん。

 翌週の水曜日、おれは大学の駐輪場でゴリラバットに消火器を噴射し、殴られる。
 やつが食堂で「逢沢はヤリメン」と発言したのをすぐ後ろで聞いていたのだ。ヤリメン? セックスばかりに精を出すサークルのことをヤリサーと言うので、この場合のヤリはたぶんそのヤリなのだけど、メンってじゃあなんだ? イケメンのメンではないだろうから、残るはManの複数形かメンヘラのメンで、どちら

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バスト目測者人口【Chapter11:2年 夏⑤】

バスト目測者人口【Chapter11:2年 夏⑤】

 藤木梨花がズビズビいってるのは、泣いているからだろうか?
「わたしさっきまで晴子と飲んでたんだ」
「うん」
「で、聞いたの。最近の様子とか。大丈夫かどうかだけでも確かめたくて」
「うんうん」
「いつもの晴子なんだよ。お酒も久しぶりだってずっと笑ってんの。ただやっぱりどこかで無理してる感じでさ。あ、違うな。もう無理してるとかじゃないんだよ晴子の場合。それがもう当たり前の、無意識でも出せる反応ってい

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バスト目測者人口【Chapter12:2年 夏⑥】

バスト目測者人口【Chapter12:2年 夏⑥】

「もしもし? ごめん、起きてた?」
「いま起きた。なに」
「いや急で悪いんだけどさ。前園さんを飲みに誘えないかな。できれば彼氏も一緒に」
「あ~。ん? つまり、そういうこと?」
「まあそうだけど」
「だよね」
「テスト期間も終わったことだし、お疲れ様会という名目で誘ったらどう? 呼べないかな」
「いや、普通にくると思うよ。少なくとも佐藤ふみ花よりは全然きてくれる」
「じゃあ誘ってほしいんだよね。メ

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バスト目測者人口【Chapter13:2年 夏⑦】

バスト目測者人口【Chapter13:2年 夏⑦】

 会場である居酒屋『風林火山』のまだ誰もいない予約席でおれとタケヒコはテーブルの中央やや右寄りに座る。カップルとは向かい合う形にならなきゃとは思うが、真正面で対峙すると警戒とまではいかなくとも人は緊張して守りに入ってしまうとかなんとかテレビかネットで見たような気がしていたのだ。タケヒコに話すと「あ、おれもなんか聞いたことある」と言った。
 個室内の壁を見ながら「あんま飲み過ぎないようにしよ」と自分

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バスト目測者人口【Chapter14:2年 夏⑧】

バスト目測者人口【Chapter14:2年 夏⑧】

 「オダジョーだって被害者じゃないの、って話でしょ?」と続ける中山くんを宮崎が見つめる。
「被害者って言うと?」
 中山くんの真っ赤な顔のうえで、溶けかけた目がうつろに濡れているが、おれ以外にもそれが気になって仕方がない人はこの場にいるのだろうか?
「いや、さっきから聞いてたらオダジョーが一方的な悪者みたいになってるけど、正直おれ、女の側にも問題あると思うよ」
「ああ、論旨がフェアじゃなかったかも

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