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妊孕性温存の方法別の妊娠率や出産率

妊孕性温存は、温存(凍結)の実施をしてから、融解して移植するまでに時間がかかる治療です。

そのため、治療としての結果の評価が通常の不妊治療に比べてとても困難です。

今回、フランスの研究で、大規模なメタアナリシスを行っているものがありましたので、紹介したいと思います。


E.Fraison et al.Human Reproduction, pp. 1–14, 2022

現在、がんの早期発見のための検査技術や治療技術の目覚ましい発展のおかげもあり、若年成人の生存率は80%を達成できるような状況となっています。
一方で、サバイブした後の生活の質を低下させないことが重要と考えられるようになり、目下妊孕性温存は注目を集めています。

最新のESHREのガイドラインでは、胚・卵子の凍結、および緩慢凍結法による卵巣凍結は確立された治療技術であるとされています。

米国では、卵巣凍結は欧州に比べて実施件数は少ないと報告されていますが、それでも卵巣凍結は確立された技術、とみなされています。

しかし、このように「凍結」というところまでの評価によって、確立、未確立という表現になっていますが、患者さんの立場から考えた場合、最終的なゴールはもっぱら温存ではなく、「出産」かと思います。このような妊孕性温存を実施した後の長期的な転帰を報告しているケースは少ないため、今回大規模な解析研究が行われたというわけです。

この結果によると、
受精卵および卵母細胞の凍結保存後の生児出生率 (LBR) は、それぞれ 41% および 32% であり、卵巣組織の凍結保存および移植後の自然妊娠での生児出生率および体外受精での生児出生率では、それぞれ 21% および 33% です。

細かな結果はたくさんあるのですが、簡単に紹介できる自信がないので、割愛させてください。

これらの数値を皆さんはどのように解釈されますでしょうか。
僕は受精卵も卵子も卵巣凍結も、妊娠・出産という結果につながっているんだなという安心感と、そもそもこれらを比較しても仕方がないんじゃないかなという部分の2つがあります。

まず、第一に、適応が全く異なります。
卵巣凍結に関して言えば、本来は緊急性を伴う疾患で行われるわけなので、卵子凍結や受精卵凍結では時間的に間に合わなかったり、その短い時間では十分な数の卵子や受精卵を得られない可能性があります。

卵巣凍結を行う患者さんの中には、全身への放射線治療を行う方もいます。
その場合、放射線治療が原因となって、妊娠率を低下させたり、流産率を高めてしまうリスクも当然あります。

自然妊娠といっても、現在、不妊症の半分は男性に原因があるとされています。卵子凍結後は、顕微授精を行っています。受精卵凍結の場合には、男性の精液所見が悪ければ、やはりICSIを行い補助しています。
そうした下駄を履いたような状態にどうしてもなってしまいますよね。

決定は患者さんの自由意志によってなされるので、受精卵凍結も卵巣凍結も行いたいという方もいらっしゃいます。
その場合、移植に際してのリスクが少ない受精卵から移植することにもなりますので、そうした観点でもこの結果を真正面から受け止めるべきかは難しいところだと思います。

いずれにしても、すべての妊孕性温存が一定の高い確率で、妊娠・出産につながっていることが、がん患者さんにとってののぞみとなっていくと信じています。


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