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ポケモンBGMの名曲「228ばんどうろ」はどのようにして生まれたか

ポケットモンスターダイヤモンド・パールの道路BGMはバリエーション豊かで名曲揃いですが、そのなかでも「228ばんどうろ」は異質な光を放っています。

ダイパが発売されてから今年(2023年)で17年が経ちます。今更そんな昔の話なんて、と思われるかもしれませんが、今日はこの曲が生まれるに至ったポケモンBGMの変遷も踏まえつつ、この曲を紹介します。

ポケモンBGMはダイパでどう変わったか?

ダイパからゲームハードがDSに変わり、ポケモンBGMを取り巻く環境も大きく変わりました。最も大きな変更点は昼夜の導入でしょう。これまでもカセット内臓時計による時間経過の概念はありましたが、あくまでもゲーム内の見た目は一貫して昼でした。ダイパでは、DSの時間設定に合わせて昼と夜が設けられ、これに伴って昼と夜で見た目が変わる場所(つまり街や道路などの屋外エリア)にはBGMが2種類用意されるようになりました。

昼と夜のBGMの違いには以下のようなパターンがあります。

  • 調性の変化
    多くのBGMにこのパターンが当てはまります。昼は明るい調、夜は落ち着いた調が用いられます。曲単体で聴くとわかりづらいかもしれませんが、続けて聴くと一目瞭然でしょう。

  • 伴奏の変化
    旋律は同じですが、伴奏の構成が変化します。ソノオタウンなどがわかりやすい例で、昼はハープがゆったりとした三拍子のリズムを奏でるのに対し、夜は弦楽器のアルペジオが使われています。

  • 楽器の変更
    同じフレーズでも昼と夜で異なる楽器が使用されています。209ばんどうろの最初のメロディを例に挙げると、昼はあたたかみのある金管楽器の音が使われていますが、夜は涼しげな木管系?の音が使われています。

  • テンポの変化
    昼と比較して夜はゆっくりとしたテンポで曲が流れます。ヨスガシティやミオシティが該当します。

  • 副旋律の追加
    主旋律と対になる旋律が追加されます。コトブキシティ夜のサックスなどが代表的です。

  • 主旋律の変化
    主旋律が変化します。228ばんどうろのみが該当します。

  • 曲が違う
    完全に例外パターンで、昼と夜で全く異なる曲が流れます。ポケモンセンターのみが該当します。


2つ目の変更点は音源です。DSはGBAと比較してハードの性能が向上し、内蔵音源のクオリティも高くなっています。3DS以降のハードでは、あらかじめ録音された音源を流すストリーミング再生が主流になったため、内蔵音源を使用するゲームBGMとしては、DS期のゲームのBGMが最もリッチなBGMといえるでしょう。

そして最後にもう一つ忘れてはならないのが、これらのBGMを作曲するサウンドチームの顔ぶれです。ダイパからは佐藤仁美さんがサウンドチームに加わるのですが、この方の参加によりポケモンBGMには新たな風が吹きます。

ポケモンに吹くジャズの風

佐藤仁美さんがポケモンサウンドに与えた影響を一言で言えば「ポケモンにジャズを持ち込んだ」になるでしょう。その代表例であり、我々がダイパをプレイしていて初めて出会うことになるジャズ曲が「コトブキシティ」です。

コトブキシティ(昼)の楽曲はピアノ(電子ピアノを含む)+ベース+ドラムを軸に構成されており、ドラムが4ビートを刻み、ピアノがスイングのかかったメロディを奏でる様子は、まさしくピアノトリオのジャズをイメージしていると言えます。一方で、夜になると、ピアノの旋律の音色がよりリアルなものに変更され、サックスの副旋律が追加されます。昼の軽やかな雰囲気とは一転し、夜のジャズバーで音楽を聴いているかのような印象をもたらします。

余談ですが、コトブキシティのBGMは、ポケモンXYにも「一曲いかが?コトブキシティ」というタイトルでアレンジが収録されており、こちらはピアノ+ウッドベース+ドラムのピアノトリオ構成で、BGMという枠組みを越えて完全にジャズをやっています。こちらも大変すばらしいので是非お聞きください。

話を戻すと、ダイパではコトブキシティをはじめ、様々な場所でジャズテイストのBGMを聴くことができます。厳密には、それ以前から本編以外ではジャズのテイストを持ったBGMは存在しました(ポケモンコロシアムのパイラタウンなど)。しかし、本編ではポケモンらしさが重視され、これまではっきりとジャズの要素を持った曲はなかったように感じます。

ダイパのBGMを作曲するにあたって、佐藤仁美さんの影響があったことはサウンドトラックのブックレットでも語られており、ダイパでは他の作曲者もジャズテイストのBGMを作っています。ギンガハクタイビルやトバリシティがそれに当てはまるでしょう(どちらも一之瀬剛作曲)。

そして、その佐藤仁美さんによって作曲され、冒険の最終盤に訪れることになる道路で流れるBGMが「228ばんどうろ」です。

228ばんどうろはどんな曲か?

このBGMはチャンピオンを倒し殿堂入りした後に行くことができるエリア(228ばんどうろ、229ばんどうろ、230ばんすいどう)で聴くことができます。場所はシンオウ地方の地図でいうと右上のエリアで、そこには起伏に富んだ豊かで厳しい自然と屈強な野生ポケモンやトレーナーたちが待ち受けます。そんなフィールドで流れる、1ループ1分にも満たない曲が228ばんどうろです。

228番道路の位置

先述の通り、228ばんどうろはダイパのBGMの中で唯一、昼と夜で主旋律が異なる曲です。正確には、昼の228ばんどうろで流れる副旋律が、夜の228ばんどうろでは主旋律になります。また、調性も異なり、夜のBGMの方が落ち着いたイメージをもたらします。つまり、昼夜を聞き比べた時に、最も変化に富むどうろBGMがこの228ばんどうろになります。

228ばんどうろではまず、丸サ進行に似たコード進行で短いイントロが流れ、曲のテイストが示されます。曲はざっくりと前半・後半に分けることができますが、昼は一貫して金管楽器が主旋律を担当し、その裏ではピアノが副旋律を担当しています。一方で、夜の228ばんどうろでは、昼に副旋律を担当したピアノが表に出てきて主旋律となります。このピアノのフレーズは昼と夜で同じですが、調性が変化することによって副旋律として聴こえていたフレーズが主旋律らしく聴こえるというのが絶妙な仕事になっています。フレーズを一通り吹ききると曲はループに入り、短いアウトロ(イントロと同じ)の後、再び旋律が始まります。

使われているコードを見ても、ジャズやポップスで用いられる複雑なものが使用されており、今までのどうろBGMとは一線を画すつくりになっていることがわかります。昼夜の変化と新しい作風の2つの要素をふんだんに取り込んだ228ばんどうろこそ、ダイパBGMを体現する曲なのではないかと私は感じます。

おわりに

本稿では、228ばんどうろについて、ポケモンBGMを取り巻く環境変化を踏まえて解説しました。解説には一部個人的な解釈も含まれますが、228ばんどうろの理解、ひいてはダイパのBGMの理解に繋がれば幸いです。

皆様はどちらの228ばんどうろがお好きでしょうか?私は僅差で夜の方が好きです。

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