外務省の「外交アーキビスト」から、国家の未来と学知の未来を想う

 どんよりした午後。寒さのせいか朝起きたら、頭痛と右耳の詰まりや腫れが酷くて、予定していた作業に参加できなかった。それで、重苦しさを抱えながらつらつらとニュースを拾い読みしていたら、讀賣新聞に上がっている「外務省に歴史専門官…「領土」や「慰安婦」助言」という記事を見付けた。鈍色の寒空に相応しい、何か不穏なものを感じさせる記事である。
記事ではまず以下のように述べられている。

 外務省は今年から、外交史料に関する高度な専門知識を持つ「外交アーキビスト」の育成に乗り出す。外交交渉で過去の経緯や歴史認識が争点となった場合などに、的確に助言できる人材をそろえ、外交力を強化する狙いがある。

(以下、出典:https://www.yomiuri.co.jp/politics/20190214-OYT1T50152/)

 要するに、外務省が新たに歴史問題の専門員を置く、ということである。この「外交アーキビストは、外交史料を収集・管理し調査研究する外務省の職員で、外交や政策立案で助言役となることを想定している。」ということらしい。つまり彼等は外交史料を扱う職員で、その知見を生かして外交政策に提言を行う。史料を扱うということは、そのプロフェッショナルであるところの歴史学や政治史で博士号を取得している専門家などが就任するポジションではないか、と普通は考える。ところが、記事は次のように伝えている。

 外務省は今年1月、特定の国・地域や分野について高度な専門知識を持つ「専門官」の認定制度で、「外交アーキビスト」の区分を新設し、省内で志願者の募集を始めた。従来、史料の収集・管理や調査研究に重点を置いていた「外交史料」の区分の職務内容を広げ、名称を変更した。志願者の知識や能力を評価し、認定者を増やしていく方針だ。
 外交アーキビストに対しては、外交史料館(東京都港区)に所蔵する史料(幕末以降で約12万点)の調査研究だけでなく、外交交渉など実務経験を積ませる。喫緊の外交課題に関わる史料を正確に読み解き、効果的な助言をすることができる人材の育成を目指す。

 つまり、外務省職員から志願者を募るというのである。記事が述べているように、「外交史料」を扱うための学問的な専門性は考慮されておらず、外交交渉などの実務経験から史料を読み解くことを重視されていることが分かる。史料を扱うというのに、専門的な教育を受けていない実務家に省内で訓練を施して担当させるというのは、私には非常に奇異に思えた。しかし次のように、その理由は直ちに理解される。

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