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松の木の気持ち

ずいぶん昔、義父が庭に松を植えると言い出した事がある。
我が家は庭付き一戸建てなので植えられないわけではなかったが、義父は、いろいろ雑多に草木を植えるタイプだったので、流石にスペース的に無理じゃないかと思ったが
「小ぶりな松だから」
「邪魔にはならん」
と義父は言い張り結局、松を植える事になった。
不思議な事に、決まってからは素早く話しが進みあっと言う間に我が家に松がやってきた。
しかしやって来た松を見て私は
「え?」
「嘘だろ?」
「全然、小ぶりじゃないじゃん!」
なかなか、立派な松が我が家の庭のほぼど真ん中に鎮座したのである。
いやいやこれには無理がある。
なにしろ我が家の間取りからして、ちょうど仏間が、庭に面しており掃き出し窓を開けると日差しと風が入るようになっていたのだが、まずい事にこの松が植った事により風通しが悪い上に、日も陰る。
うんこりゃ不味いでしょ…
そう感じてわりと早くに、義父の体調が悪くなった。
持病をいくつか抱えていたので、最初はそのせいかと思ったが、病院で何度検査をしても異常無し。
なんだか私は嫌な気がして、ポツリと家族にこぼしてしまった、
「あの松が良くないんじゃないかな…」
そして、私が発言してから、また素早く事が運び、あっと言う間に松が撤去されたのである。
その後、さもありなんというぐらい不思議な事に義父の体調はあっと言う間に回復した。

思えば、あの松には悪い事をしてやろうなどという気概はなかったと思う。
松に気概などあるのか?と問われるとなんとも言えないが。あの松にとって我が家の庭が狭すぎたのだ。
あの松はどこか小高い山の上に悠々と聳え立っているイメージが最初からあったのだ。
どうか今頃、あの松に相応しい場所に、あの松が聳え立つことが出来ている事を願わずにはいられない。


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