テクシーさん #1

-未読メッセージ-

現在、時刻は22:00ちょうど。

スマートフォンの未読メッセージは3件。

平日の夜にしては少ない方だ。

PC作業の手を止め私はメッセージを確認する。

この時間になると残業で帰りが遅くなった女性が仕事場から連絡してくる。

平日は10件はゆうに越す。

(22:45 梅田駅。距離は徒歩約15分。)

(23:30 梅田駅。距離は徒歩約10分。)

(23:45 梅田駅。距離は徒歩約20分。)

「今日は割と近くだな。」

私はそのメッセージ1つ1つに返信していく。

[22:45 かしこまりました。青いキャプ、青いパーカー、背が高く右手に懐中電灯を持っている男にこう言ってください.....]

[23:30 かしこまりました。いつもご利用ありがとうございます。私はいつも通りの服装でお待ちしております。念のため、こう声をかけてください.....]

[23:45では少しお待たせするかと思います。電車を1本遅らせるか。人目の多い改札付近でお待ちください。 23:55には参ります。そして青いキャプ、青いパーカー、背が高く右手に懐中電灯を持っているの男にこう言ってください.....]



『........「一緒に帰りませんか。」と。』


私はシャワーを浴び、歯を磨く。必要ならばヒゲも剃る。女性に不快な思いをさせないことに細心の注意を払う。

香水などはつけない。人工的な匂いは相手に余計な想像を抱かせる。私はmillefioriのセンディットカードをクローゼットに掛け、ほのかに香りが香るだけに気をつけている。

いつも通りの服を着て、履き込んだ革靴で外へ出る。

雲のない空に、大きな月が満ちている。

中崎町を横切り、東通りの裏路地を抜け私は梅田駅へと急ぐ。

平日でもこのあたりは人通りも多く、飲み屋のキャッチ、カップル、サラリーマンが肩をかすらせながら通りを歩いている。飲み屋に風俗、ガールズバーにハッテン場。夜の世界を風呂敷に包み、ぎゅっと絞った残りがこの梅田である。

約束の時間5分前に阪急梅田駅の改札に到着。

昔はタバコで時間を潰していたが、今じゃメントスがお口の恋人だ。

日本の電車は優秀すぎて、ほぼ定刻に電車はホームに滑り込む。

遅れることはあっても早く来ることはまずない。


私がこのサービスを始めて約6か月。

今じゃ固定客も付いてきた。

サービス内容はいたってシンプル。

帰り道、一緒に帰りましょう。

治安がいいなんて昔の話、日本の夜は今じゃ犯罪に巻き込まれることが珍しくない。

特に女性は一人の夜道に不安を覚える人が多いだろう。

その不安が誰かと一緒に帰ることで解消されるなら簡単なことだ。

毎日タクシーなんて利用していたら給料日までもたない。

私にメッセージをくれれば、梅田駅から徒歩圏内なら一緒に自宅近くまでお供します。


SNSで少しづつ認知を広めてきたがまだまだ足りない。

利用料もキャンペーン中を銘打っており、無料だ。

マネタイズは今後の課題だな。

月学、定額、利用する時だけ。

料金設定も難しい、広告、マーケティング、アンケート。

あーどうやったら利益生むのかな.....

とりあえず、女性の不安を解消できているみたいだから、人の役に立っているという点だけが気持ちを楽にさせてくれる。

あーどうしよう、どうしよう。お金を稼げるようになるには......

「あのー.....もしかして...」

気づくと榮倉奈々を思わせるショートヘアの女性がそばに立っていた。

私の服装を確認するように上から下から目を配らせる。


「.....一緒に帰りませんか?」


私は帽子をかぶりなおし、一息ついて返事をした。

「もちろん。私でよければ。」

(22:45 梅田駅。距離は徒歩約15分。)

yumiさんが今日の最初のお客様。



つづく


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