京大講演(3)「野生の研究シーン」

その1その2と研究者を演出するノウハウとリスクについて
お話しさせていただいたが、実は僕はTV関係者ではない。
商業映像ではない現場で研究者の演出を続けるのはなぜか。

ここ数年の僕の興味は「野生の研究シーンをつくる」ことだ。
そのために「憧れ」を演出する必要があると考えている。

※なぜ研究シーンがいいなと思ったのか、などについては
以前の記事(「研究シーン」を考える)をご参照ください

野生の研究者とは、
「プロアマ問わず、生き方として研究する事を選んだ人」のこと。

僕も含めた彼ら野生の研究活動が、もっと広がったら楽しいと考えている。
具体的にはこんな感じ。

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【バンドがたくさんあるみたいに研究会があっていい】


例えば高校や大学のサークルで、軽音楽なんかだと
3〜4人組のロックやパンクのグループやら2人でテクノをやったり
ガールズバンドがあったり様々だ。

そんな感じで「拡張現実ブラザーズ」やら「地質学チーム」やら
「ガールズ宇宙研究」やらいろんな取り組みがあったらいい。

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【小規模ライブみたいにたくさん発表があっていい】

たくさんの研究活動を発表する場所も多様にあればいい。
教室や講堂で粛々とやるだけではなく、
ライブハウスで研究発表したっていい。
スポットライト浴びながらデモ発表をしたっていいはずだ。

そしてそれを見に来る人も、
・自分と似たようなテーマで研究してる人を見に来た人
・これから研究を始めたい人

だけじゃなくて、
・研究をしてないけど面白いから見てる人
・特定の研究者がカッコいい(かわいい)から応援したい人
・友達がやってるからついてきただけの人

など多様な楽しみ方ができればいい。

さらに、彼らがアクセスできる情報もいろんな種類がたくさんあれば面白いと思う。

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【多様な楽しみ方ができるメディアがあるといい】

過去のエントリーでも書いたが、
研究をする人だけでなく、様々なレイヤーで研究を身近に楽しめるように
「場所」「コミュニティ」だけではなくて「情報」も豊富にあると
いいなと思う。

例えば○KBのようにかわいい女子研究グループの「LAB48 ライブ発表DVD」
なんてあったっていいじゃないか。
しかも特典はなんと実験データのエクセルCD-R!
ほしい!いや別に欲しくないかも!

通称”現代の魔法使い”こと落合陽一さんは、自身の「魔法使い感」を
演出するファッションに気を配っているように見える。
落合さんに憧れたら、きっと格好からマネをしたくなるだろう。
個々の好き嫌いは問題ではなくて、多様にあればいいと思うのだ。

そしてとても大切なのは、
そうした盛り上がりによって経済が動くということだ。
たとえばクマムシマンモデルの顕微鏡(すごくつよい)が発売されたり、
東急ハンズの科学コーナーが異様に拡大されたり、
秋葉原のパーツ屋がクリスマスにごった返してもいいじゃないか。

ここまで完全に妄想だが、つまり言いたいのはこういうことだ。

研究する人ってカッコいい
研究する仲間がいるのは楽しそう
研究したらモテそう

こういった単純だけど強烈な「憧れ」こそが
研究の世界に足を踏みいれる第1歩になる。

そういうアプローチも必要だと思うのだ。

初学者向けのイベントとか、かしこまった講演会とか
会議室での交流会などが行われるのはよいことだと僕は思う。
だけどそれはすでに「学びたい」人向けのものであって、
「そんな世界があるなんて全然知らなかった」という人を
振り向かせる必要があると思うのだ。

最初は「なんとなくやってみた」でよい。
やってみて、うまくいったらきっと「勘違い」する。
その勘違いを正しい言葉で否定する事だけは絶対にしてほしくないのだ。
なぜなら、「勘違い」すれば「続ける」ことができるからだ。

研究を続けていけばきっと高い壁に当たる。
そこで初めて努力して乗り越えるか、戦略を変えるか、
いっそ止めるかを悩めばいい。
それはまた別の環境の話で模索中だが。

とにかく京都大で僕が言いたかったのは
まじめなだけではリテラシーなんてあがんないよ、ということだ。

そもそもリテラシーというのは「識字率」みたいなことで、
その分野を理解して使えるかどうか、というような使われ方をしているが、
仮に特定の研究者に憧れて姿形からマネを始めた人だって、
その時点で彼の研究分野に少なからず興味をいだいていると思うのだ。
これだって立派なリテラシーの向上なんじゃないかな。
裾野が広がるとはそういうことだと僕は考えている。

【次回】
京大講演(4)憧れと熱狂、ブームという自然災害 
憧れを演出することで生まれてしまうリスクとは

【目次】
京都大学で講演してきました

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