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【せかくま#1】 企業、作り手が集う「くみぐま」誕生の背景

「この手があったか」

今年6月、東京ビッグサイトで開催された「東京おもちゃショー2018」で、東京のあるIT企業が作った商品が来場者たちを唸らせた。一見すると、バリエーション豊富なクマのぬいぐるみ。ただよく見ると、手や足、耳、頭といったパーツをバラバラにして、自分で組み立てることができる。

「人をつなぐということを考えたら、ぬいぐるみがバラバラになっちゃったんです」

そう話すのは、ぬいぐるみを考案したボノ株式会社の横山貴敏だ。「くみぐま」と名付けられたクマのぬいぐるみが今、さまざまな企業やクリエーターをつなぐ、新しいマーケットを生み出そうとしている。


《くみぐまについて》https://kumiguma.com/

くみぐまが生む、新しい出会い

神田川と新目白通りに挟まれた路地の一画にボノはある。印刷・製本工場をリノベーションしたオフィスは、路面沿いが大きなガラス窓になっており、ぱっと見はおしゃれな雑貨店さながらだ。

ガラスの向こうには「くみぐま」がいくつも展示されているのが見える。外からそっと覗き見ていると、横山さんが戸を開けて出迎えてくれた。改めてくみぐまを眺めてみると、耳や手足が革製のもの、体中に写真がプリントされているものなど、どれを取っても同じものが一つもない。

「くみぐまは、手足や耳、目や鼻といったパーツ一つひとつを誰もがオリジナルで作ることができるんです……とか説明するよりも、これを見てもらうとみんな『あー、こういうことか』って言ってくれるんですよね」

そう話しながら、横山が手に持つ「くみぐま」の胴体はガラス瓶でできている。横に置かれた展示解説に目をやると「株式会社大川硝子工業所」とある。

「これは駄菓子屋さんでよっちゃんイカとか飴がとかが入っていた、あの丸い大きな瓶を作っている会社が小さくリメイクした瓶なんです。それを作っている会社さんのくみぐま。くみぐまってこうやってパーツに自分たちの色を出すことで、いろんな企業やクリエーターのキャラクターを表現できる」

ずらっと並んだ22体の「くみぐま」がプラットフォームとなって、企業やクリエーターの作品やサービスを紹介するメディアの役割も果たしている。

見た目がぬいぐるみになるだけで、普段は興味を持たないような商品やサービスであっても「かわいいから」「クマが好きだから」といった理由で、手にとってもらえるきっかけにもなる。

ターゲットは企業やクリエーターだけではない。将来的には「地方に住むおばあちゃんが山で拾ったドングリを目や鼻のパーツにしてもいいし、例えばそれを道の駅で売ってもいい」と横山は言う。

くみぐまというプラットフォームにさまざまな人が集い、オリジナルのくみぐまをPRに役立てたり、思い思いにパーツを作って販売したり、単に遊んだり。「僕らはくみぐまを、誰でも参加できる産業にしたいと思って作った。いろんな技術やストーリーを持った人たちが気軽に参加できるプラットフォームにしたかったんです」

その構想の懐の深さゆえに、余白もまだまだ多い。横山は「ゲーム業界で言えば、ニンテンドースイッチみたいなハードが真っ白なくみぐま本体。それぞれのパーツがソフトのようなもの」と例える。

そこに集う人の数だけバリエーションが増えていく。パーツに秘められたストーリーから新しい出会いを生み出す。それが「くみぐま」なのである。

世界で愛されているクマで、人と地域をつないでいく話
#1 企業、作り手が集う「くみぐま」誕生の背景
【次】#2 なぜIT企業がぬいぐるみを作ったのか
#3 「場づくり」から着想したぬいぐるみ
#4 プラットフォームとして「誰もが参加できる仕組み」を
#5 事業化のきっかけとなった長野遠征
#6 「くみぐま」誕生
#7 「くみぐま」流行でなく定番に

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