伽藍堂

9月18日の第4回文学フリマ大阪(H-19)にて頒布予定のインディペンデント文芸誌『ハ…

伽藍堂

9月18日の第4回文学フリマ大阪(H-19)にて頒布予定のインディペンデント文芸誌『ハイドラ』の試し読みなどを公開しています。

最近の記事

【ハイドラ1試し読み】藍の揺籠(長篇連載第一回二〇枚)/セシル・パーソンズ(春川由基 訳)

The Blue CraDle Chapter 1:Rose is red   我が友、バミーに捧ぐ。 1-1  シンクレアは、地上は黒い山と灰色の海に挟まれ、上空は一年の大半を分厚い雲によって覆われているために、これ以上閉塞感という言葉が似合う街はないと感じさせるタイプの街だ。地図で見るとシンクレアは飛び去る鳥のような形をしているが、空高く自由を謳歌する鳥を思わせるような爽やかさなど、残念ながら一切見当たらない。そのため、ここに永住したいと考える人間は少ない。住めば住

    • 【ハイドラ1試し読み】接続不良(短篇三〇枚)/詭弁弄便次郎

       緊急ニュースが飛び込んだ。 「この黎明期に及びましては、天気も快晴、湿り気のある覚醒。おお、見事なきのこ雲、この大入道は、見た目にも、カビとシロップまみれの心に、冷徹で、それでいて熱情を離さない夏の到来を教えてくれますね。近頃はノウトミさん、バッドボーイやらジャンクガールやら、戦術的大量破壊兵器もずいぶん様変わりをしているとの事で……いやはや、時の流れは早いもの。私の娘ももう中学生になりますよ。最近はどこで覚えてきたのか、社会がどうだの、何の主義がどうだの、生は死に先行する

      • 【ハイドラ1試し読み】都市の眼差し――宙吊りになる人々(論考四〇枚)/森ミキ

         瀟洒な室内の窓辺に、一人の男が立っている。彼の衣装、室内の調度、バルコニーの手摺のデザインなどから、彼が典型的なブルジョワ階級の人間であることが窺える。しかし、彼がこちらに背を向けているために、私達は彼の表情や眼差しを永遠に知ることができない。  陽光の差し込むアパルトマンのバルコニーから、一体彼は何を見ているのだろうか。彼の表情も眼差しもわからないものの、彼が視線を投げかけている風景を、私達はその背中越しから覗くことができる。しかし、彼が見つめているのは、オスマンによ

        • 【ハイドラ1試し読み】舞城王太郎試論――現代日本文学のポスト・スーパーフラット(論考二〇枚)/二階堂市子

               一  舞城王太郎は一九七三年、福井県に生まれ、二〇〇一年に『煙か土か食い物』で第十九回メフィスト賞を受賞しデビューして以来、生年と出身を除くあらゆるプロフィールが非公表の覆面作家として、現在も活動している。ミステリ小説出身であるにもかかわらず純文学のフィールドに「越境」した最初期の作家であり、二〇〇三年には『阿修羅ガール』で第十六回三島由紀夫賞を受賞している。  本稿で私たちが注目するテクストは、舞城の作品として唯一「文壇」に認められたといってもよい『阿修羅ガール

        【ハイドラ1試し読み】藍の揺籠(長篇連載第一回二〇枚)/セシル・パーソンズ(春川由基 訳)

        • 【ハイドラ1試し読み】接続不良(短篇三〇枚)/詭弁弄便次郎

        • 【ハイドラ1試し読み】都市の眼差し――宙吊りになる人々(論考四〇枚)/森ミキ

        • 【ハイドラ1試し読み】舞城王太郎試論――現代日本文学のポスト・スーパーフラット(論考二〇枚)/二階堂市子

          【ハイドラ1試し読み】僕らが怪獣だった頃(対談一二〇枚)/藤井龍一郎+山本瓜子

           小説を阻害するもの、推進するもの ――「現代小説の方法」と題した今号の特集では、実作と理論の両面から現代における小説のあり方を模索するということで、まずはおふたりに四〇〇字詰原稿用紙五〇枚程度の短篇小説を執筆していただきました。本日はそれを踏まえたうえで議論していただきたいと思います。 藤井龍一郎 この特集のタイトルには元ネタがあるんです。中上健次に『現代小説の方法』という講演集があって、そこでは中上の文学観がつらつらと――本人が認めているようにあまり話が上手くないのでよ

          【ハイドラ1試し読み】僕らが怪獣だった頃(対談一二〇枚)/藤井龍一郎+山本瓜子

          【ハイドラ1試し読み】ランバージャック(短篇五〇枚)/山本瓜子

             一、  稲村ヶ崎駅に降り立つと、海の気配はもうすぐそこまで迫っていた。  小さなホームから緩やかに滑り出す緑色の車体を見送りながら、瑞季はショルダーバッグからとりだしたペットボトルの水を一口呷った。今朝、京都駅を出発するときに買った水は、すっかりぬるくなっていた。ひとつしかない改札を抜けると、正面にある商店の軒先に祖母の夏子を見つける。  夏子は簡素な木綿のワンピースに白のチューリップ帽を被ってそこに立っていた。おばあちゃん、と瑞季が呼びかけると、夏子は七月の日差しの

          【ハイドラ1試し読み】ランバージャック(短篇五〇枚)/山本瓜子

          【ハイドラ1試し読み】獺祭(短篇五〇枚)/藤井龍一郎

           一  俺達に明日がないってこと  はじめからそんなのわかってたよ (THEE MICHELLE GUN ELEPHANT/エレクトリック・サーカス)  寝覚めが悪かった。このところいつもそうだった。  うつ伏せになり枕元の目覚まし時計で時刻を確かめると午前二時を過ぎた頃だった。今日は早くに眠れたようだった。しかし、記憶が定まらない、いつ頃布団に入ったのか憶えていなかった。  雨が窓を叩く音がした。彼は腹に掛かっていたタオルケットを蹴り払い立ち上がった。天井の蛍光灯の光が

          【ハイドラ1試し読み】獺祭(短篇五〇枚)/藤井龍一郎