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韓国で「Produce X 101」に出会う。あるいは、偶像〈アイドル〉という努力の物語について

前提

6/7〜6/10、韓国は済州島に旅行してきた。食い物は辛いが美味いし、風景はどこか日本的な印象残しながらもどこか異なる趣で、思わず目を奪われた。
満喫した旅行であったが、中でも印象的だったのは韓国のTVである。早々にホテルに帰り、酒を飲みながらひたすらTVを眺めていたのだが、今回の旅行をガイド的に案内してくれた友人(ソウルと日本で仕事をしている)が逐次解説してくれたおかげで非常に興味深かった。
その中で、2泊の夜のうち結局2晩ともに観続けていたのが「Produce X 101」という番組であった。

Produce X 101

「Produce X 101」とはアイドルの公開オーディション番組である。第1シーズンとなる「Produce 101」が2016年に放映されてから第4回目にあたり、友人曰く大層人気の番組だそうだ。

公募によって集められた男性アイドルの候補生(芸能事務所にすでに所属している研修生、個人参加、国籍の違うものまでいる)を、番組と連動した視聴者投票によってふるいにかける。週ごとに足切りがあって、特定の順位に満たなかった候補生はそこで番組から脱落、そして最後まで残った数名をアイドルグループとしてデビューさせるというものだ。
雑に「Produce X 101」のオーディション形式をまとめれば以上になる。詳しくは韓国アイドルの情報を紹介するブログなどを参照されたい。また現在のところ、AbemaTVで全番組無料視聴できるので、気になる方は実際に観てみるとよいだろう。

それはスポ根ドラマとして

私が済州島で見たのは、順位が決められる投票の開示だった。
彼らは足切りの順位内(その日は60位まで)に名前を呼ばれることを、緊張した面持ちで待っている。先週と比べて順位が落ちて、複雑な心境を吐露する者、逆に順位を伸ばして喜ぶ者、弟のように慕う仲間の順位を案じる者など、候補生にはそれぞれドラマがある。カットで差し込まれたレッスンや日常シーンがそれを強調する。例えばトレーナーによる厳しいダメだしを受け、それに悩む者がいる。ひとり悩む姿を見かねた仲間(かつライバル)に励まされ、ひたむきに練習する。そして成長した姿をトレーナーに褒められ、さらなるステージへ意欲を燃やす……言葉はわからないのだが、彼らの戦う姿に思わず吸い込まれてしまった。

オーディションというシステムを友情と努力によってサバイブし、勝利を目指す。要するに、これはスポ根なのだ。候補生たちの頑張る姿を見て、自分も頑張ろうと感じる、あるいは自分がなにか頑張れそうもないが故に、候補生の頑張る姿を見て感情だけをシンクロさせる。

誰かの頑張る姿を見るのは気持ちいいという、シンプルな物語。それだけに、非常に強い。

努力という物語

「Produce X 101」を観ながら、アイドルについて考えていた。
さきほど、「誰かの頑張る姿を見るのは気持ちいい」といった。アイドルファンがなぜアイドルが好きなのかと問われると、外見が好み、歌が踊りが好きはある程度前提だとしても、「頑張ってる姿を応援したくなる」と答えるのがよくある。

頑張ること。どうにも不思議な言葉である。例えば——ビヨンセでもレディー・ガガでもなんでもいいが——歌って踊れるアーティストを思い浮かべてほしい。彼/彼女らは頑張っているから好きという人はほとんどいないだろう。「努力」というファクターは重要ではない。彼/彼女らはパフォーマンスを求められていて、それに応えるかどうかで評価されている。
しかし、特に日本のアイドルにおいては「頑張ること」が前景化している。自身が冠の番組では舞台裏や稽古シーンといったものがよく流されるし、SNSも同様だ。さらにいえば、彼/彼女らは、概して踊りも歌もそれほど上手ではないにもかかわらず大人気だったりする。その世界で消費されているもの、ファンとアイドルの間で取引されているものは「頑張ること」だろう。

「Produce X 101」に戻って考えてみても、先述の通りここには努力しかない。
韓国のアイドルはパフォーマンスに対する要求値が非常に高く感じられる。その分強烈な「頑張ること」が必要なはずだ。「Produce X 101」は彼らがまだアイドルの卵であることもあいまって、努力のドラマに多くの時間が割かれている。故に「頑張ること」の純度が高く、強い情動性をもってそれに触れてしまう。そこで示された努力の痕跡は、彼らを着実に「頑張ること」を織り込んだ存在として——「頑張るが故に応援したくなる」存在として——視聴者に印象づける。
努力という物語が、人の形をとった偶像として。

彼らは投票で選ばれるからアイドルになるのではなく、
偶像〈アイドル〉になるから投票で選ばれるのだ。

まとめ

今までの考えについては、差し当たり以下に集約されるだろう。

アイドルとは、努力という物語の偶像化である。


Photo by Seungjun Yeo on Unsplash

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