デザインと他者に関する随想

「プロダクトではなくサービス(体験)を」「モノ中心から人間中心へ」
これが昨今のデザインの主張であり、またものづくりに関わる概念(職種)同士の闘争において、デザインがより上位の概念であると宣言する野心でもある。

デザインは、その言葉が示す領域を大きく拡張することを目的として、エンジニアリングやマーケティング、企画開発……およそビジネスの設計に関わるあらゆる領域を蚕食し、己が領分の内にとり込んでいる。それは他の領域がもつ概念を奪いとるというよりはむしろ、周辺領域が別のスキーマで想定していたやりかたに、デザインという領分が先験的に持っていた「他者」へのアプローチを注ぎ込み、現状とは異なる別のしかたのものへと換骨奪胎していく。

産業革命から250年、顔の見えない他者以外にユーザーを想像する術を忘れてしまったものづくり――あるいはデザイン自身――の世界に、実在論としてではなく、唯名論的にユーザーを把握すること、単純にいえば、ある種当然の「他者を考える」ことを持ち込もうと取り組んできた過程が、「サービスデザイン」「人間中心設計」「UXデザイン」といった、スタイルではなくフレームワークとして語られる数々のデザイン概念として結実してきた。
「サービスデザイン」「人間中心設計」「UXデザイン」……フレームワークとしてのデザインは、前述の通りその根幹に「人間」を据えている。手前で考えた、自分の商品にとって都合のいい人間ではなく、好む好まず様々な反応を携え、身勝手で示唆に富む「他者」としての人間を想う。レヴィナスのいうような、全き「他者」に応答する責任を持つ主体としてサービス提供者を規定する。それが単純な評価軸で人間のモデル化を推し進め、結局のところベンダー側の論理に絡め取られてしまう場合が往々にしてあるのは確かだが、概観すれば、サービス設計の現場で語られる人間像は着実に進歩している。

デザインにとっての「他者」は、産業革命以降「画一的な人間」から「個別固有に存在しうる多様な人間」へと移り変わったのだ。フレームワークとしてのデザインは、その人間像の更新に貢献してきたといえるし、さらには、目の肥えた時代からビジネスを守る防波堤として流行している。
確かに、人は以前のように機能の良し悪しで判断するのではなく、それによって享受できる体験を評価することで商品の比較をするようになってきている。言い換えれば、きちんとユーザーのことを考えていない商品は売れにくくなっている。企業のCEOが会社の重点テーマを「デザイン」だと言う時代。そんな時代を前にして、デザインは「人間」という中心をあらゆる領域へ持ち込むことで、概念の誕生以来はじめての春を迎えているように、私には思える。

しかし、この先30年から向こうを見た時、果たして「人間」を取り扱うことが普遍的であろうか。「人間」を不要とするビジネスが可能ではないのか。デザインの中心がずっと人間だけなんてこと、あり得るのか。人間から離れたデザインが標準的なスキームになることだって、考えられはしないだろうか。たった数十年前までは、デザインの中心的な問題は、人間ではなく生産様式であったのに。

私はこう考える。
デザインがこれから応答する責任としての「他者」をトランスヒューマン、すなわち現在の人間からはみでた枠としての主体と想定する。それは人工知能かもしれないし、遺伝子操作で能力拡張された人間かもしれない。あるいは、シンギュラリティ以後の、なにがしかの人類未到達技術によるオブジェクトかもしれない。(シンギュラリティに現実味があるかは脇におく)
デザインにとっての他者が、人間だけでなく複数存在しうる……そういう未来について考えることはそれほど難しくない。例えば、今世界で最も本を読む主体は誰かと問えばおそらくGoogleと答えるのが妥当だろうし、それならば、Googleのための本を書いてしまって何が問題なのだろうか。機械学習をする主体のために情報設計することと、人間のために情報設計することの間に何の違いがあるのだろうか。

現在の人工知能を超える人工知能と向き合わねばならなくなった時、私たちは彼らとどのようなしかたでコミュニケートできるのだろうか。
デザインの歴史は、人とY(Yは任意のモノゴト)とのあいだの歴史、インタフェースの歴史であった。
遙かなる他者を思う時、デザインはX(Xは任意の主体)とYとのあいだのものへと拡張される。
その時デザイン――常に自己を更新し続ける、多様でとらえどころが難しいこの概念は、どのように変化するのだろうか。
「人間」という根本的な基盤が揺らいだ時、デザインには何が残されるのだろうか。

Photo by Fredy Martinez on Unsplash

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