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ぬくちゃんとちっくんの冒険のようなもの。

見たことのない街。
奥にはまだ作られていない真っ白な景色が広がっている。
そこから先は行けないらしい。
後ろから話しかけてくる男。
『よお、ちっくん』
見たことない男だが俺のことを知っているらしい。
『あ、そうかここでは顔も体もちょっと違うんだよ。わかんないかな俺だよ』
目を細めてしばらく見て記憶が蘇ってくる。
『ああ、ぬくちゃんか。そうだ、またここにきたんだった。にしてもなんで違う奴になってんの?』
『厳密には違う奴ではないんだけどな、そういう意味ではちっくんも全然違うよ。』
「強制排除」という文字が目の前で点滅して空間が歪む。ぬくちゃんらしい男は「またか」という表情でぐにゃりとしていた。
そこでゴーグルを脱ぎ捨てて現実に戻った。
「ぬくちゃんこれ凄いけど怖いよ、んで記憶がない所からはじまるの何とかならないの?』
疲れきって椅子から立ち上がれずぬくちゃんに抗議した。
『なんでだろうな。俺はすぐ記憶が戻るんだけど。ちっくんには合わないのかな。それじゃ意味ないよな』

『おーい、うまくいってるかね?』
『おー、川上さん。それがなかなかうまくいかなくてね。飲んでくかい?』
『そうしよかなっと』
ボロボロのソファーに腰を下ろした。

川上さんは、近所で「未来人」と言う蔑称で呼ばれている。
馴染みのスナックで少々飲みすぎた川上さんは『俺は未来からきたんだ!そのうち仲間が迎えに来るんだ!」
とか言って以来バカにされ続けている。
川上さんはこれから起こる事がわかると言うがそのことについては教えてくれない。
それがまたみんなからバカにされるネタになる。
『未来からきたんだったらこれから起こる事教えてくれよー』
そのような事を言われると川上さんは決まって『未来の事を教えたらこの世界がおかしな事になるから教えられない。』
それでまたバカにされる。
川上さんは酔っ払い過ぎたあの夜を悔いて、今では外で飲む事は無くなった。
で、ぬくちゃんのところにたまに飲みに来る。

『川上さんからもらった設計図どおりやると金がかかりすぎるからさ、なんとか手に入るものとか、家にあるやつを何とか代用して作ってんだけどさー。結構時間かかりそうだなぁ。完成したら、さくらにもすぐ会えるんだけどなぁ』
『まあ、焦りなさんな、こういうのはじっくりと自分と向き合って完成させるものだからさ』
『今はちっくんが実験台になってくれてるよ。』
実験台になったつもりは無いけどまあ暇だしいいか。

『川上さんが設計図を書いたんですか?』
『ああ、ぬくちゃんいい奴だから教えてあげたんだ。誰にも言うなよ。』

『川上さんは未来人なんだよ!』
すげーだろ!みたいな顔でぬくちゃんが言う。
『知ってるよ』
あまりに素直な顔で言うぬくちゃんを見て、なんか信じてない自分が恥ずかしくなってきた。
『知ってたんだ!すげーよな!』
『そーだなー』

そのあとぬくちゃんは川上さんと難しい話をしてた。
『この部品さえあれば何とかなると思うんだよね。けど代わりになるものが見つかるかどうか。』
『確かにこの部品はこの時代で手に入れるのは無理かもな。』
川上さんもぬくちゃんも難しい顔をしている。
『まあ、何とかなるでしょう!飲もーよ川上さん!』
『うーん、、、そうだな先に飲んでてくれ。』
川上さんだけはまだ設計図と機械を真剣な顔で見比べていた。
『未来だったら簡単に手に入るんだけどな、、』

1週間後まだ実験は続いていた。
おんなじことの繰り返しだ。
『この状態でもさくらちゃんと会えるんじゃない?』
『さくらにもしもの事があったらと思うとまだこの空間に招待なんてできないよ。』
俺はもしもの事があってもいいのかよ。

『そういえば川上さん最近来ないね』
『ああ、そういえばそうだな、忙しいのかなぁ。ちょっともっかいやっていい?』
『結構疲れたよぬくちゃん。付き合ってやるけどさ。』

何度もやったけどうまくいかなかった。
『やっぱりここの部品だなぁ。これさえあればたぶんうまく行く。』
ぬくちゃんも久々に落ち込んでいた。
『まあまあ少し休んで酒でも飲もうぜ』
『そうだな、少し集中しすぎて疲れた』
小さい冷蔵庫から冷えた発泡酒を取り出して何となく乾杯してごくごく飲んだ。お互い疲れてるからか身体に染み渡っていく。
冷蔵庫の発泡酒を全部飲んでぬくちゃんお手製の酒を飲んだ。ベロベロになって気がついたらボロボロのソファーで眠っていた。

翌朝と言うか昼前吐き気で起きる。
トイレでげーげー吐いて外の空気を吸いに玄関から外に出た。
つるつる頭で眉毛もなくスーツを着た男がダンボール箱を持って立っていた。
『川上から預かったものだ、本来ここにくる事すら許されないが、信頼のできる人物だと川上がしつこいので我々も納得してここにきた。ぬくちゃんとはお前の事か?』
『俺じゃ無いけど、おんなじくらい信用できると思うよ。』
『なら、ぬくちゃんにこれを渡してくれ。』
『わかったよ。あんたらは?』
『余計な質問には答えられない。我々がここで何かを答える事で何かが起こる可能性がある。では失礼する。』
車種はわからないがこの辺では見ない古いタイプの車で去っていった。

『ぬくちゃん!ぬくちゃん!』
何度か揺すって何とか起こした。
『んー?どしたー?』
『いや、なんかつるつるのやつが来てたぶん未来の人なんだけど、なんか色々言ってこれ預かった』
段ボールをぬくちゃんに渡した。
乱暴に段ボールを破いてぬくちゃんは
『この部品だ!この部品が足りなかったんだよ!どうしたのこれ!?』
『いやだからつるつるのあたまの、、、』
『まあいいや、これで絶対完成するよ!』

見たことのない場所。
目の前には草原が広がっていて
ぬくちゃんの家だけがポツンと丘に建っている。
と、さくらちゃんが目の前に急に現れた。
『お父さんからもらったゴーグルもらって付けたらここに来ちゃった。何ここ?』
『ぬくちゃんは家に居ると思うよ。』
ぬくちゃんが家から出てきた。
『お父さん!』
さくらちゃんは走ってぬくちゃんの所に。
こうなると俺の出番は無いんだよな。
目の前にある「退出」ボタンを押して現実に戻った。
ゴーグルを外す。
なんか寂しいけど、むすめに嫉妬するのは気持ち悪い。
1人でなんとなく発泡酒を空けて今後の事に思いを馳せていた。
自分ができる事は少ない。
少ないというか、得意な事は曲を作ることくらいだ。

『お邪魔するぞー』
川上さんだった。
『あれ?未来に帰ったんじゃ無いの?』
『いやぁなんかこっちの世界の方が慣れてるし楽しいからさ戻って来ちゃったよ』
二人でなんでか思いっきり笑って
『じゃあ一緒に飲みますか』
勝手にぬくちゃんの冷蔵庫を開けて冷えた発泡酒を『くうっー』とか言いながら飲んだ。
そして未来の事をいくつか聞いた。
その事は絶対秘密なのでここでは語れないが一応幸せな未来が待っているらしい。
色々あるらしいけど。
まあ、俺が結婚できたとしてその子供が犯罪者にならなければきっと幸せに暮らせるだろう。
まあとりあえずは世界に幸せになるチャンスはまだ残ってるってことだ。
君が今手を伸ばしてギターを手にするだけでも未来は変わる。
君が今、筆に手を伸ばしても、好きな女の子に気持ちを伝えても、好きな女の子に恥ずかしい歌を聞かせても。
指をひとつ動かしても。
未来は君の手の中にある。
と思うよ。

サポートしてもらえたらすっごい嬉しい。内容くだらないけどね。