新人研修の思い出

もうすぐ4月なので会社の新人研修の思い出でも話そうかと思う。

新人研修って言っても、この話は私が入社2年目で受けた新人研修の話です。ほら、新人研修って新人と若手社員が一緒に研修を受けたりするじゃないですか?私は若手社員として、新人と一緒に研修を受けたのです。

新人研修のテーマは「宇宙船が事故で動かなくなった。18人が乗っているが、救命艇が7人しか乗れない。誰を助けるか?」っていうテーマで、チームに分かれて話し合った後、話し合いの結果を発表するっていうやつだった。チームと言っても、うちは中小企業だったので人数が少なく、2チームに分かれただけで、私のチームも確か5人くらいのチームだったと思う。私はチームの中で一番年上だった。頑張らなければ。年上だし。

宇宙船に乗っている18人には、「年齢」「職業」「その他性格など」の簡単なプロフィールがあった。例えば「48歳 会社経営者 男性 国内有数の企業を経営している」とか「18歳 学生 女性 看護学校の生徒」とか「24歳 無職 男性 妻子あり」とか「55歳 国会議員 男性 最近当選した国会議員」とか。

例えばこれが漫画やアニメの世界だったら、7人しか助けられないとかじゃなくて全員助けたりするんだけど、なにせ新人研修なので、そういう話ではないのだ。7人しか助けられないのだ。あとの11人は死ぬのだ。

私がこの時うっすらと思い出したのは子供の頃に見たアニメ「南国少年パプワくん」。南国に住む少年パプワくんの物語。ある日パプワくんが浜辺で緊急招集をかけて友達を招集するのだ。パプワくんのもとに集まる動物たちとお魚たち。しかし、チョウチンアンコウくんの様子がおかしい。なぜならチョウチンアンコウくんは深海の生き物なので、浜辺に来ると息ができないのだ!ついに亡くなってしまうチョウチンアンコウくん。パプワくんは「チョウチンアンコウくん。君の死は決して無駄にはしないよ――」と言い、チョウチンアンコウくんをアンコウ鍋にして美味しく食べるのだ。――というブラックユーモアなんだけど。

私が子供の頃このアニメを見て学んだことは「人の死は決して無駄にしてはいけない」ということだ。では、このテーマで助からない11人の死が無駄にならない方法はないだろうか?もし死が無駄にならないとしたら、それは「なんて悲惨な事故なんだ」「こんな事故は二度と起こしてはならない」と、後世に教訓として代々伝わることじゃないだろうか。「なんて悲惨な事故なんだ」と後世に伝わるということは、事故は悲惨であればあるほど良い。つまり、「立場が偉い人」「心の優しい人」が亡くなれば、悲惨な事故として後世に代々伝わるぞ!という結論に達しましてね。

各自チーム内で自分の意見を話してください、って言われたので、意気揚々と「立場が偉い人と、心の優しい人に、積極的に死んでもらいましょう」って提案したら、みんなの私を見る目がヤバい奴を見る目だった。「いや、悲惨な事故のほうが後世に『こんな事故を二度と起こしてはいけない』という教訓として伝わるじゃないですか?」って言っても、みんなの私を見る目が変わらない。年下にあんなに冷たい目で見られることってあるの?悲しくなって、ふと研修の講師の顔に目をやったら、講師もヤバい奴を見る目で私のことを見てた。

そもそもこういう研修って「人は多様な考えを持っている」「そういう考えをまとめてよりより意見を出す」っていう研修だと思うけど「多様な意見の一つを拒否する」とかあるの?多様性の一つを受け付けないとかあるの?マジで?

悲しかった。ただただ悲しかった。普通の感性をもった普通の人間になれるものならなりたかった。

という悲しいお話。

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