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JR北海道の名技術第3回 TOTと貨物新幹線

 JR北海道は、近年JRグループの中でも特に経営難となっており、観光列車縮小や駅の一斉廃止、路線のバス転換の提案なども行われています。
 そんな同社はつい最近まで全国屈指の技術を持っていました。このシリーズではそんな消えたJR北海道の素晴らしい技術と今もある素晴らしい技術を解説します。

本記事は僕がブログを始めたばかり(2021年)に途中まで書いたまま放置していた記事を修正したものです。

開発経緯

 青函トンネルは北海道と本州を結ぶ唯一の連絡通路です。鉄道専用として国鉄時代に作られました。当初は在来線用として松前線と接続が考えられていましたが、北海道新幹線計画が決まると新幹線用に建設する計画に変わりました。
 莫大な建設費用をかけ、難工事の末ようやく完成したものの、北海道新幹線計画は一度凍結されてしまい代替として在来線用に転用されました(スーパー特急方式)。その後2016年に、ようやく北海道新幹線が開業。このトンネルは北海道新幹線に転用されました。
 しかし、新幹線開業後も貨物列車や観光列車などは引き続き青函トンネルを走らせなければなりません。2つ目のトンネルを掘るのも費用的には難しく、鉄道輸送船を復活させるのも非効率です。
 これによりこのトンネルは全国唯一の在来線とフル規格新幹線が併用するトンネルになりました。

在来線と新幹線は軌間(2本のレールの幅)が異なり、前者が1067mm(狭軌)で後者が1435mm(標準軌)です。それに合わせて車両のサイズ(高さ)も新幹線の方が高くなっています。

 こうして貨物列車と新幹線が仲良くいつまでも走り続けていく...と言いたいところですがこの方式には大きな問題があります。
 もし260km/hで走る新幹線と貨物列車がすれ違いをしたらどうなるでしょうか。貨物列車の方が風で脱線したり、貨物が落ちたりしてしまいます。そこで現在新幹線はトンネル内で在来線特急並みの160km/hに減速しています。これにより北海道まで4時間以上かかる計算となり圧倒的に飛行機と差がついてしまいました。
 そこでJR北海道は、貨物列車の安全性を高めることで新幹線と同じ位のスピード出させることでトンネル内のスピードを260km/hまで向上させられないかと考えています。
 そのために考え出されたのがトレイン・オン・トレインと貨物新幹線です。

新幹線、貨物列車、TOT、貨物新幹線の断面比較図
現行方式(左2つ)と新方式(右2つ)の比較

注:第二青函トンネル構想について

 2016年発行の「日本の鉄道 未来予想図」という雑誌には「非現実的な案が出たこともあった」とある第二青函トンネルですが、実際には具体的な案を検討している団体が存在します。
 2車線の有料道路と単線の在来線による2層構造で計画されており、特に自動車に関しては絶大な効果も見込めます。しかし事業費が7000億円となり、1億円と掲載しているサイトもあり、個人的には作るべきだと思いますがかなり困難でしょう。

トレイン・オン・トレイン(TOT)

TOT試作車の画像
Wikipedia-100yen様より

  当初はこちらの方式が有力と見られていました。この方式は、新幹線サイズの車両に貨物列車をそのまま収納する方式です。具体的には、中が空洞になっている大型の高速車両を製造し、車内にレールを引くことでそのまま在来線貨物列車を入れてしまうと言うものです。青函トンネルの両側にボーディングターミナルを建設してここで貨物列車をTOTに積み込みます。後述する貨物新幹線と違い、積み替えの手間がなく時間を短縮することができます。
 しかし、重心が高くなるため安全性に問題があり、さらに新技術のためコストも増大してしまいます。また、この方式を使っても貨物列車側があまり速度を出すことはできません。

貨物新幹線

 近年新たに考え出されたのがこちらの方です。これは貨物列車に直接貨物を載せると言うもので、文字通り時速200kmを超える高速な貨物列車です。コンテナの両脇を高い防護壁で覆うことで高速走行を可能にします。
 さすがに東北新幹線に貨物列車を走らせる事は貨物ターミナルの場所等の観点からも不可能ですので、奥津軽今別や木古内などで貨車の積み替え作業が必要になります。
 ですが、積み替え作業と貨車を大型車両の中に収納するのにどちらが多く時間がかかるのかは微妙なところです。それよりも安全性が高く高速走行が可能であることのメリットの方が大きいでしょう。

注:その他の貨物新幹線

 青函トンネルとは別件で普通の新幹線に貨物列車を作ってしまおうという計画も存在します。
 元々東海道新幹線建設時に計画され、貨物駅やコンテナも準備されましたが夜間整備の妨げになるなどの理由で実現しませんでした。
 しかし近年地方の在来線の廃止や経営分離により2030年を目処に再び貨物新幹線が検討されています。導入先は東北•北海道新幹線を視野に入れているようです。

現在の状況

 JR北海道は2020年までの実用化を目指していたようですが結局実用化せず。こちらも資金の問題により近年保留気味で、今後どうなるのかは分かりません。

既存のままの速度向上

 開業時は最高速度140km/hだった青函トンネル内の速度と2019年から16km/hに向上、2020年の年末年始には貨物列車とすれ違わない時間帯を設定することで210kn/h化しました。これにより7分の時間短縮となり東京〜新函館北斗間3時間53分を実現しました。さらに今後開業する新函館北斗〜札幌間は防音壁の嵩上げにより当初予定の最高速度260km/hから320km/hに変更され、東京〜札幌間最速4時間半を実現できることとなります。
 しかし新函館以南は貨物列車が走らない時間の設定は難しいため通常期は依然として160km/hのままで根本的な解決には至っていません。

個人的な意見

 個人的には貨物新幹線よりもTOT派です。日本全国で同じ貨車が使えるというのはとても効率的だと思います。ただ、青函トンネル以外も含めた貨物新幹線計画であれば良いと思います。鉄道の良さの一つである速達性を最大限に活かせます。
 ですが最終的には第二青函トンネルを掘った方が地域の発展に貢献するでしょう。

参考

伊藤岳志(2016)「新幹線高速化のカギを握る貨物専用新幹線構想」『最新版 日本の鉄道 未来予想図』pp11-12

草野作工株式会社『実現へ向けて「第二青函多用途トンネル構想」』, https://www.kusanosk.co.jp/trivia/土木の未来・美しい建設業/北海道の未来への提言/7589, 2023/6/13アクセス

鉄道計画データベース「第2青函トンネル」, https://railproject.tabiris.com/dainiseikan.html, 2023/6/13アクセス

Yahoo!ニュース「意外に身近にもある貨物新幹線の名残」, https://news.yahoo.co.jp/byline/nakamuratomohiko/20220926-00316788, 2023/6/13アクセス

JR貨物「貨物鉄道のサービス向上・利用促進に向けた課題と取組み」, https://www.mlit.go.jp/tetudo/content/001473648.pdf, 2022

JR北海道「青函トンネル区間における新幹線と貨物列車の共用走行について」, 2012
https://www.mlit.go.jp/common/000192889.pdf

JR北海道「北海道新幹線 速度向上の取り組みについて」,2020
https://www.jrhokkaido.co.jp/CM/Info/press/pdf/20201014_KO_speedup.pdf

新幹線、貨物列車、TOT、貨物新幹線の断面比較図
再掲:現行方式と新方式の比較
(Canvaにて制作)


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