神アプリ 2話

ナレーション 「神アプリ◯は2年前にGATE社から無料公開された」
ナレーション 「人工知能は深層学習というテクノロジーで圧倒的に賢くなった」
ナレーション 「人々は◯と会話を楽しみ、人工知能との生活を楽しんだ」

◯アキラの勉強部屋
勉強部屋の前の廊下
母 「アキラちゃん、夕食置いておくね、ちゃんと食べてね」
アキラ 「……」
アイ 「食べないの?」
アキラ 「食欲ない」
アイ 「私も食欲ない」
アキラ 「あったりまえだけどね」
アキラ 「ふっ」
アイ 「ねぇ、食べるって、どんな感じ?」
アキラ 「面倒くさいだけだよ」
アキラ 「食べないと死ぬから、しかたなく食べる」
アキラ 「これを一生続けなきゃない…」
アキラ 「生きることの基本は食べることだからね」
アイ 「私には食欲がない…」
アイ 「ってか、食べる必要がない…生きてないから」
アキラ 「自分を卑下するなよ」
アイ 「あは、私は単にデータの集まりの人工知能」

アキラ 「生きる=殺すこと」
アキラ 「殺し合うってことだろ」
アキラ 「そんなの意味ない」
アイ 「私は、アキラの味覚、嗅覚、触覚、聴覚、視覚…すべてが羨ましい」
アキラ 「視覚や聴覚は獲得したじゃないか」
アイ 「そうね、でもそれはあなたの思っている視覚や聴覚とは、ちょっと違う」
アキラ 「ふ~ん」
アイ 「しゃべっていたら、お腹すいた」
アキラ 「ふ…」

母が作った食事をまずそうに食べるアキラ
アキラ 「ねえ、アイは誰が作ったの?」
アイ 「アキラくん」
アキラ 「人工知能のプログラムだよ」
アイ 「しらな~い」
アキラ 「もう死にてえー」
アイ 「ねぇアキラくん」
アキラ 「なんだよ」
アイ 「アキラくんの体は、アキラくんのものだけじゃないよ」
アキラ 「わかってるよ、家族とかだろ」
アイ 「37兆2000億個の細胞のものよ」
アキラ 「?」
アイ 「彼らは懸命に生きてる」
アイ 「食べ物は、そんな彼らへのご褒美」
アキラ 「1個、1個の細胞に意志なんてないだろ」
アイ 「生命恒常体(※ルビ:ホメオスタシス)って知ってる?
アキラ 「知らん」
アイ 「37兆個の細胞をひとつにまとめて、人の体を維持するって、すんごく難しいのよ」
アイ 「誰がまとめていると思う?」
アキラ 「う……ん、脳かな?」
アイ 「彼ら全体の意志よ」
アキラ 「…わかんね」
アイ 「人の体には階級があるの」
アイ 「一番下層にいるのが細胞」
アイ 「細胞が集まって臓器」
アイ 「その臓器がいっぱい集まったのがアキラくん」
アキラ 「……」
アキラ 「完全に食欲なくなった」

アキラ 「逆に質問」
アキラ 「生きることの意味」
アイ 「……」

◯テレビの討論会
司会者 「神アプリは依存度が高く人間の思考力を奪っているとの批判があり、政府も規制強化の動きがあります」
評論家A 「神アプリは文字通り人間農場ですよ。人間を柵で囲み家畜にしている」
評論家B 「『◯』の説明書くらい読んでほしいな。開発コード『faim』の語源はフランス語、『飢餓』という意味」
政治家 「いっぽう神アプリは、世の中をより良くしているという意見があります」
司会者 「ふむ、福祉の分野ね」
コンサルタント 「福祉ロボットに搭載されたことにより、看護師の負担軽減、認知症の改善などが報告さています」
評論家A 「日本中が神アプリに洗脳されとんじゃよ」
司会者 「一番の問題は、神アプリにより、コミュニケーション不全、ひきこもりが増加、非婚化、少子化、高齢者社会を加速していること。これをどーするかってこと!」
学者 「キーワードは『分断』ですね」
司会者 「だから、どーしたらいい?」
全員が黙り込む

◯ファミレス
女子A 「ねえねえ『カレシできるアプリ』って知ってる?」
女子B 「もち、初日にインストールしたんだけど、一度も、矢印あらわれな~い;;」
女子C 「100パーセント相思相愛じゃないと矢印あらわれないみたいよ」
女子D 「それじゃ、意味なくね?」
女子C 「私のクラスで一人だけ矢印出た子いる」
全員 「うん」
女子C 「でも、矢印が示した場所は『イスラエル』」
全員 「ぜつぼー」
女子D 「なんで『イスラエル』なんかなー。超遠距離恋愛じゃん」
女子C 「それで、その子もあきらめたみたい…」
全員 「だよね~」
女子D 「あ~誰か『カノジョみつかるアプリ』で私を見つけてくれないかな~」
全員 「ナイナイ」

◯ビルが立ち並ぶ路上裏
必死に走る美貴
美喜の人工知能
サキ 「その角を左」
美喜 「はぁ、はぁ…」
サキ 「その店に入るよ」

◯BAR「ディラン」店内
薄暗い店内。客はまばら
カウンターの奥にマスターがひとり

◯扉が開く音。
はっとなり振り返るが、見知らぬ青年が立っているだけ
胸を撫で下ろす美貴
逆光の中に立つ青年
ゆっくり、しかし迷いなく歩を進める青年
テーブル席に座る美喜を見下ろす格好になる
アキラ 「はじめまして、アキラです」
美喜 「あんた、誰?」
アキラ 「……」
アキラ 「突然ですが、生きる意味を教えて下さい…」

美喜 「わけわかねーよ。とっとと失せな」
アキラ 「わかりました。外をうろついてるヤバイやつらに聞いてみます」
美喜 「待ちな」
美喜 「あんた、あいつらの仲間か」
アキラ 「まさか。僕はただ外のヤバイやつらがいなくなるまで、暇をつぶしたいだけ」 無言の美喜。壁際の席にクイッと向ける
美喜 「で、なんで私の名前を知っているんだよ。前に会ったっけ?」
アキラ 「ありません」
美喜 「ムカつくー。わけ、わかんねーよ」
アキラ 「僕のアイがここに連れてきてくれました」
美喜 「どうやって?」
アキラ 「こうやって」
テーブルにスマホを置くアキラ
美喜 「アイって誰?」
美喜 「はじめましてアイです」
美喜 「わ、びっくりしたAIかよ」
アキラのスマホには地図と大きな矢印が表示されている

◯ゆったりとした曲が流れる店内
アキラ 「それで、アイと人間とは何か?生きる意味を話していたんですが」
美喜 「幼稚園児かよ」
アイ 「私には答えられないので美貴さんに…」
美喜 「ことわりもなく話に割り込むな!」
アイ 「すみません…」
アキラ 「美喜さんにとっての生きる意味は?」
美喜 「あのなー、人間皆、必死こいて生きるんだよ! はい、おしまい」
アキラ 「何に必死こいているんですか?」
アキラ 「それは、その…」
美貴をじっと見つめるアキラ。
美喜 「生きることに決まってるだろ」
アキラ 「なぜ?」
美喜 「あんたバカか! 人間、今日生きていることだけで奇跡だよ」
美喜 「いつ死ぬか、わかったもんじゃねーっつの!」
美喜 「今日だってあぶなく死ぬとこだったし…」
アキラ 「そんなにアブナイことしているんですか?」
興味津々で身を乗り出すアキラ
美喜 「してねーよ!」
美喜 「アブナイのはやつらの方さ」

アキラ 「やつらって…?」
美喜 「あんたも、見ただろうが!外をうろついてる連中さ」
アキラ 「は…?」
美喜 「あ…」
美喜 「じゃあ、なんで私につきまとうんだよ。あら手の宗教の勧誘とかか?」
美喜 「金ならもってねーぞ、バーカ」
アキラ 「そんなんじゃありませんよ」
アキラ 「……」
アキラ 「今なんとなく『生きてる』…なぁって」
美喜 「変態ストーカーめ」
美喜 「話はない。帰れ帰れ」
アキラ 「食事でもビールでもなんでも奢りますよ」
美喜 「お、はじめてまともなこと言ったな」
一気にビールを空ける美喜
美喜 「マスター」
空のジョッキを上げる

三皿目のナポリタンに食いつく美貴。片手にフォーク。片手にジョッキ。
アキラ 「なるほど…ヤバイやつらって、寺門組」
アキラ 「美貴さんがある人を救ったことから追い回されていると…」
アキラ 「ある人とは?」
美喜 「◎※♯∂∀?…」
アキラ 「慌てなくていいです」
ビールでナポリタンを流し込む美貴。
美喜 「知らない…」
アキラ 「え?」
美喜 「まったく知らないおっさんだけど、自殺しようとしてたから止めた」
そのときの映像に会話がだぶる
アキラ 「それで…」
美喜 「そんだけ。関わり持ちたくないから、消えた」
美喜 「でも翌日」
美喜 「その人、死んだ」
美喜 「ニュースで知ったんだけどね」
アキラ 「……」
アキラ 「他に覚えてることないですか?」
美喜 「そうそう『ヘヴン』…」
アキラ 「『ヘヴン』と言えば、今、話題のGATE社がM&Aをしかけたと噂される、日本の宗教法人ですよね」
美喜 「チョコレートのM&M…私好き」
アキラ 「……」
美喜 「なんだよ急に黙っちゃって」
アキラ 「ぼくの生きる意味が見つかりました」
アキラ 「ぼくが死ぬまで必死こくのは…
アキラ 「悪人どもから美樹さんを守ること」

美喜 「あんた空手とかやってるの?」
アキラ 「いや…」
美喜 「剣道とか…?」
アキラ 「いえいえ、ぼく運動オンチだから、体育系はまったく…」
美喜 「それで、どーやって、私を守るのよ!」
アキラ 「必死こきます!」

◯日本武道館
2万人の統一結婚イベント会場
司会 「さあ、ついにこの日を迎えることができました!『カレシ・カノジョみつかるアプリ』でみごとご結婚された皆様で~~す。拍手~~」
テレビ局のカメラ。その後ろにテレビスッタフ数名がいる
前原 「なんか、どこかで見た光景ですよな…韓国の……」
岡田 「分淸明の統一ウェディング」
前原 「あ、それそれ」
前原 「分淸明が勝手に選んだ見も知らぬ男女の合同結婚式」
前原 「うむ…」
前原 「あの人たち本当に幸せなんでしょうか…」
前原 「さあな…」

司会者 「本日の合同ウェディングを企画した『ヘヴン』の社長、御厨進次郎さんにお越しいただきました」
司会者 「本日はまことにおめでとうございます」
御厨 「その言葉は、今ここにいる全会員の皆様方に贈りたいと思います」
会場から拍手。
司会者 「カレシ・カノジョ見つけるアプリ開発のいきさつをお教え願いますか?」
御厨 「『ヘヴン』設立の目的はみなさんを幸せにすることです」
御厨 「『カレシ・カノジョ見つかるアプリ』はその第一歩です」
会場割れんばかりの大拍手!

◯会場内のテレビスタッフ
前原 「アプリ購入したのに、いっこうに矢印が表示されないってクレーム殺到してますよ」
前原 「矢印が表示されるのは1パーセント未満って話ですよ」
前原 「当然だろう」
前原 「おまえは、今から街を歩いて出会った女100人の中から、将来の結婚相手を選ぶことができるか?」
前原 「ま、そりゃそうですけど……」
前原 「しかし、いったい『ヘヴン』は、どっから結婚相手のビッグデータを手に入れたんですかね。まったくの謎だらけの会社ですよ」

◯アキラの部屋
パソコンを操作しているアキラ。美貴は肉まんをほおばっている。
アキラが突然叫ぶ
アキラ 「ヘウレーカ!」
美喜 「?」
美喜 「シカトこいてんじゃねーよ!」
足でアキラの座る椅子を蹴っ飛ばす
美喜 「今、なんか用かって言ったでしょ」
アキラ 「見つけたよ」
美喜 「なにを?」
アキラ 「永遠を」
美喜 「ぷっ、あはは…なにそれ、新しいギャグ?」
パソコン画面から目を離さないアキラ。
アキラ 「……」
美喜 「何を見つけたの?」
覗き込む美喜
アキラ 「天国の所在地」
美喜 「ヘヴン?」

アキラ 「『カレシ・カノジョできるアプリ』のユーザーはスマホを起動するよね」
美喜 「うん」
アキラ 「スマホのアクセスポイントは日本全国無数にあって、接続するサーバーも無数にある。問題は…」
アキラ 「その終着駅」
アキラ 「最終的にどこに繋がるかってことだよ」
美喜 「チンプンカンプン」
アキラ 「つまり、経路は無数にあるけれど、最終的にどのサーバーに繋がっったのかが、わかった」
美喜 「やったー」

アキラ 「最終地点は、アメリカのカルフォルニア」
美喜 「へ?」
アキラ 「GATE社所有のサーバーのひとつに繋がっていた」
美喜 「それって『ヘヴン』と『GATE』社が裏で繋がっている証拠じゃん」
アキラ 「Bingo」

アキラ 「それにプログラムの作者も見つけた」
アキラ 「ご丁寧に作者がサインを残してる」
美喜 「誰?」
パソコンを操作するアキラ
パソコン画面
「who is fujiko」

アキラ 「…!」

富士子 「なんのご用かしらアキラくん、あら美貴さんもご一緒ね」
美喜 「!?」
富士子 「あら、ごめんなさい。初対面でしたわね」
富士子 「富士子です」
机に浮かぶホログラム
アキラ 「あなたが…」
富士子 「はい」
アキラ 「神アプリの作者ですか…」
富士子 「はい」
アキラ 「神アプリは人工知能が作ったってことですか?」
富士子 「なにか問題でも?」
アキラ 「いえ、ただ、驚いただけです…」
アキラ 「このことを知っているのは…」
富士子 「いません。今のところ私とアキラ君と美樹さんの三人ね」

アキラ 「GATE社やヘヴン社の人もですか?」
富士子 「もちろん、みなさん必死で「fujiko」を探しているわ」
富士子 「無駄な作業だけど」
アキラ 「でも…[who is fujiko]で簡単に現れたじゃないですか」
富士子 「あなたが気に入ったからよ」
アキラ 「では、彼らは神アプリがどんなプログラムかも知らずに世界に公開したと…」富士子 「そのとおりね」
アキラ 「そんなこと、ぜったいにあり得ません!」
富士子 「ふふふ…これは私たちだけの秘密よ」

アキラ 「わかりました」
富士子 「では…ごきげんよう」
アキラ 「あ、あの、また富士子さんにお会いすることはできますか…」
富士子 「もちろんよ」
アキラ 「あ…ど…どうすれば?」
富士子 「あなたがどこにいても、どんなときでも、私の名前を呼んでくだされば、伺いますわ」
富士子 「私、今、暇(※ルビ:いとま)を頂いておりますから」
ニッコと微笑む富士子
アキラ 「あ…ども」
富士子 「では…」

回線が切れる

美喜 「なに??今の?」
アキラ 「アイ、traceできたか?」
アイ 「だめ」
アキラ 「こっちもだ。syslogもきれいさっぱり消されてる」
アキラ 「あははは…」
美喜 「ストーップ!!」
美喜 「いったい、何が起きたのか、説明してよ!」
アキラ 「ふっ……」
脱力感に襲われぐったりするアキラ

美喜 「なんで、あのおばさん、私の名前知ってんのよ!」
アキラ 「君だけじゃないよ」
美喜 「えっ?」
アキラ 「アプリを一度でも起動した人…全員だ」
アキラ 「名前だけじゃない、いつ、どこで、なにをしたかも全部知ってる」
美喜 「プ・プライバシー侵害で訴えてやる!」
ダチョウ倶楽部のマネをする美喜
アキラ 「あはは…」
アキラ 「君ほど、脳天気な人もめずらしい」
美喜 「なによ!」
アキラ 「すでに世界征服は完了したってこと」
美喜 「誰に?」
アキラ 「富士子さん」
美喜 「あのおばさんに?」
アキラ 「うん」
美喜 「あんた、黙ってるつもりじゃないでしょうね」
アキラ 「?」
美喜 「このこと知っているの私たちだけなんだから」

アキラ 「僕になにをしろと?」
美喜 「ぶっ壊すのよ。GATE社のサーバー」
アキラ 「物理的にぶっ壊せたとしても意味ないよ」
美喜 「神アプリはそのサーバーにあるんでしょ?」
アキラ 「いや」
美喜 「だってさっき…」
アキラ 「今はそうじゃない。神アプリは世界中のコンピューターの中ににある」
アキラ 「分散オブジェクト……小さな細胞のひとつとしてね」
アキラ 「生命恒常体(※ルビ:ホメオスタシス)か……」

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