"消えた女の子" (2008.7.2の日記)



近所にbook martという新古書店があり時々覗いてみる。
ブックオフと同じくチェーン店なのだが明らかに閑古鳥状態で広い店内の中客は自分だけということもある。
100円コーナーの中で以前読んだことのある本があったので購入。

"四人はなぜ死んだのか(文藝春秋刊)"が出たのは99年頃だ。ということは今から10年近くも前になる。

この本は三好万季という当時中学三年生の女の子が書いた。

和歌山の毒カレー事件は当初、食中毒事件と報道された。
その後、青酸カリ事件となり、最終的にはヒ素が原因と判明した。
三好はその事件の被害者に、自分と一つしか年の違わない女子高生がいると知り、他人事とは思えず当時はまだ一般的ではなかったインターネットで(夏休みの自由課題として)この事件を追ったのだ。

当初はカレーで食中毒?ということが信じられなかったそうだ。殺菌作用が強いスパイスを使うカレーで食中毒があるのだろうかとハウスのHPなどで調べた(実際にはカレーに着く食中毒菌があるのだが和歌山の事件のように激的な症状ではない)。そしてこの線は早い段階から否定した。
次に青酸報道があった時、彼女はそれにも疑問を呈する(被害者の症状があまりにも青酸のそれとは違うからだ)。
ついに彼女はその症状がヒ素によるものだと断定する(彼女は報道されるより先に確信したのだ)。
三好はそこで死亡者が出た原因はヒ素はもとより、保健所、医者達の医療ミスだったと暗に示唆している。
つまりよく状況を吟味すれば食中毒ではないことは明らかで被害者の症状をよく見れば青酸でなくヒ素が原因とわかったはずだ。
前例がないからこのような結果になったと言う県立病院院長のコメントも批判している(ヒ素中毒専門の第一人者が同県立病院所属の医者だったのを院長は知らなかったことを)。

マスコミやテレビが見落とした事実を書いたレポートを彼女は雑誌社に持ち込んだ。
当時の編集者は驚きすぐに雑誌に掲載され波紋を呼んだ。ほんのわずかだが彼女は"時の人"となった。

その後三好万季はどうなったのだろうか。
今ではネットで物を調べるのは当たり前になり、その弊害さえも指摘されるようになった。新聞等と違って裏付け取材などが全くないネットの情報の弱ささえも表面化してきた。

当時からあった三好万季のHPは今も残っている。
ただ7、8年以上全く更新も何もされてない。

その後の彼女は高校進学したが中途退学している。
報道番組みたいなもののレポートなどもやったようだ。英国の大学などに留学したなどの情報もあるが真偽は明らかではない。噂の真相などでバッシングもされたようだ。
ネットの情報だけが全てではないが、彼女が今どうなっているのかわからない。
少なくてもネットの世界では彼女の存在は消えかかっている。彼女の本は100円になってしまった。

僕がなぜ最近この事件を思い出したのかというと、あるお笑いタレントの名前を知ったからだ。
その女性タレントはヒットエンドランというフレーズを口走る人だが、その女性と先のカレー事件の被害者の女子高生の名前が同じなのだ。
性は同じで名前のほうの漢字こそ違うが、やはりこの事件を思い出すのだ。
その女性タレントと亡くなった女の子の年齢もほぼひとつ違いなだけだ。
残された人々はテレビを見て思い出すかもしれない、いや思い出さないかもしれない。

ただ、同じ名前の女の子が10年前の夏に消えてしまったのはまぎれもない事実。
女の子は消えてしまったのだ。

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