"たった一度だけ死者を見たことがある"(2014.4.5の日記)

夕焼けがベランダに差し込んできて足元がその色に染まっていた時いつものようにぼんやりしていた。

突然足元の向こうの夕焼けから人型が浮かんできた。
顔がはっきりとわかった時それはとても懐かしい人だった。もうすっかりと忘れていたんだけど今ごろなぜ。

死者に遭遇すると意外に怖くないというのはほんとうだったんだ。だからといって感慨深いものでもない。

懐かしい人はゆっくりと横切ろうとした。
特に金縛りみたいなのはなく寝転がったまま懐かしい人の腕を掴んだ。ちゃんと感触がある。
なぜか懐かしい人は視線を合わせようとしなかった。ただ部屋を玄関に向かって抜けていく時右手を少し上げてこちらにあいさつをした。それから懐かしい人は見えなくなった。

3年ぐらい前だったか今日みたいな穏やかな春の日にたった一度だけ、死者を見たことがある。

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