"赤い接吻"(2010.4.13の日記)

"赤い接吻"  (2010.4.13の日記)

若林志穂という女優がいた。
"いた"というふうに過去形なのは既に彼女は女優業を引退したからだ。
自分と同世代になるその女優、まだ引退する年齢でもない。彼女に何があったのだろうか。

自分は時々"あの時テレビに出ていた女優、歌手などは今現在どうしているのだろうか"と思うときがある。特に同世代にあたる人を見て自分が今どんなところにいるのかその対比としてみることもある。

若林志穂はあまり主役にはならない、どっちかというと脇役のほうが多かった。
美人に間違いないのだが、派手さもなく優しいその顔立ちからは一歩引いたイメージが強かった。妹というよりもお姉さん役の方が合っているだろう。あの"高校教師"で主役の真田広之を裏切る婚約者という役は意外だったがそれも普段がとてもおしとやかで優しいイメージだったからこそ、そのギャップがよかったのだろう(お詫びと補足:その後ウィキペディアで高校教師の項を見ると婚約者の役は渡辺典子、教育実習生役で横恋慕する役が若林志穂でした。随分前に見たきりなので記憶が混濁したようです。申し訳ありません)。主役にはあまり抜擢されないが美人の女優、自分の中のカテゴリーに他には戸田菜穂がいる(ただ戸田菜穂は派手なイメージがあるが)。好きな女優のタイプでもあった。

2001年8月、東京都世田谷区である殺人事件が起こった。
若林はその日、稽古場に向かう途中だった。
すると目の前に刃物を持った男が立っていて突然の出来事に若林は恐怖におののき、それでも逃げるように走った。そこで銃声が聞こえ、それは(その犯人に)刺された警官が男に発砲した瞬間でもあった。

事件は刃物を持った男が警官に撃たれ死亡、警官も男に刺されて死亡という結末に終わった。刃物を持ってうろついていた男に警官が職質をしようとした結果の出来事だった。
刑事ドラマでよくある、犯人が逃げて近くにいる人を人質に、という感じに似たようなことを若林は実体験したのだろう。

それから彼女はPTSDに陥り苦しむことになる。
道を歩いていてもそのことがフラッシュバックをして、睡眠薬の大量服用、リストカットなどをしてしまう。自分の体験したことに対して、周りの人間が理解してくれないという思いや感情の高ぶりなどで友だちがやがて一人減り、ついには誰もいなくなった。

それでも女優業は復帰したそうだがその間も彼女は治療を受けていたのだという。
そしてある共演者が地下鉄の線路に落ちてそのまま帰らぬ人となったのをきっかけにPTSDが悪化、体調を崩して引退となった。

おそらく彼女にとって安らぐ場所はどこにもなかったのだろう。

若林は、"演技することなんてできない。本物の殺人事件を見てしまったから。本物を越えることなんてできない"と言葉を残して2009年5月に引退している。

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