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マンション管理組合におけるカーシェアとの向き合い方

最近、MaaSって言葉を至る所で聞きますよね。
これがマンション管理組合に影響するところまで落ちてくるのはもう少し先だと思いますが、一方で移動手段という観点では、カーシェアがとてつもない勢いで普及しています。

カーシェアはマンション管理組合の利益とは財務面で相反するものとして位置付けられる一方、車を持たない居住者からは「入れてほしいサービス」の上位に顔を出すことが多いという悩ましいサービスです。

さて、当マンションでは駐車場契約率の減少に悩まされており、少しでも稼働を上げる施策の検討を行っていたのですが、

理事役員「駐車制限がかけられている区画を開けっ放しにするのももったいないので、カーシェアを誘致するのはどうでしょうか?」

という意見を頂いたことをきっかけに、カーシェアとどう向き合うべきなのか悩んできました。

ここでは当マンションの例より、管理組合におけるカーシェアとの向き合い方について記載していきたいと思います

通説「カーシェアはマンション管理組合の敵である」

マンション管理に携わられる方であれば、カーシェアは管理組合の財政面において敵だと見做すことが多いものと考えます。
その理由として…
A・カーシェアの導入・維持にはコストがかかる
B・カーシェアがあると、自家用車の使用頻度が低い人がそちらにながれて、駐車場の解約に繋がる
が挙げられます。

特に、Bについては、駐車場使用料を管理費の足しにしている管理組合にとっては商売敵とも言え、駐車場使用料の減少は将来的な管理費等の見直しに繋がるリスクにも成り得ます。
これは、多くの管理組合では管理費だけで必要経費を賄えてはおらず、駐車場使用料を財源の一部として補填することで、何とか運営している実態があるからです。
(この点は、スムログにてはるぶーさんが分かりやすくまとめられいますので、リンクを挿入させて頂きます)

マンションにおけるカーシェアの設置方法(契約形態)

クローズ・オープン

追記 「オープン型のデメリットには収益にかかる申告・納税の手間もあるはず」とのコメントをいただきました(その通りです)。当マンションでは他に申告が必要なものがあり、税務処理を折り込んでいたため、すっかり失念しておりました💦

一般論で語られるカーシェア導入に伴うコストは概ねクローズド型での契約時に生じます。
分譲時から「居住者専用カーシェア」が導入されている場合、多くはこのようなクローズド型での契約が管理組合に継承されています。
但し、契約条件は概ねよろしくない傾向があり、契約満了時(概ね5年目)の理事会役員はどうするか頭を悩ませることになります。
(分譲時は売主負担の車両も、更新時には組合がコストを払わなければなりません)

一方で、オープン型とは、端的に言ってしまえばカーシェア業者に駐車区画を貸し出し、賃料を得る駐車場の賃貸借契約のことです。
最近では、マンションでも空き駐車場の活用方法の一つとして採用されているケースが見られます。

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もちろん、当マンションで検討をするのであれば後者のオープン型です。

その検討にあたり、デメリットとして挙げた赤字の部分を、当マンションの環境に当てはまるのか再考する必要がありました。

カーシェアを入れると駐車場利用者の解約増って本当なの?

さて、先のデメリットにあった「③駐車場利用者の解約増」について、果たして「マンション内にカーシェアがあること」がその直接的な要因に繋がるのでしょうか。
この点において、以下の2点より考察してみました。

1.近隣のカーシェアに流れている可能性は?
これは、「うちのマンションにカーシェアがなくても、近くにそれなりにの台数の拠点があったら、結局そちらに流れて自マンションの契約は減っていくだけなのでは?」という視点です。
一例ですが、東京湾岸エリア(中央区「勝どき、月島・佃、晴海」、江東区「有明、東雲、豊洲」)のカーシェアスタンドと配備台数を見てみましょう。

【カーシェアスタンドマップ(2021年6月1日現在)】

カーシェア2

※補足※
① ここでのカウント対象はオープン型
  (事業者と契約していれば誰でも予約可)
② 設置個所は各会社のカウントベースに準拠
  (例・東雲1丁目のUR街区にはオリックスが9カ所)
③ 車両が登録されていない箇所は除外
  (例・有明ガーデンのタイムズは所属台数が0台なので除外)

【エリア別のカーシェア展開状況(2021年6月1日現在)】

エリア別

こうして見ると結構増殖していることが分かりますが、晴海や有明等「外部利用が可能な駐車区画が少ないエリア」では、カーシェアの展開が難しいことが伺えます。
また、晴海のタワマンは駐車場の空車待ちが続いていたり、近隣のコインパーキングも満車の時間帯が多かったりと、エリアの駐車需要に対して駐車区画が少ない状況がありそうです。
(余談ですが、「豊洲」と大雑把にまとめたエリアでも、スカイズやベイズがある豊洲6丁目は晴海や有明に特性が近く、カーシェアの展開が難しいことが伺えます)

これらのエリアでは、カーシェアの導入検討は自家用車の整理に繋げる「駐車需要調整」の方に重きが置かれそうです。(が、そもそもこれらの大規模タワマンなら最初からカーシェアのサービスは導入されていそうな気がします)

さて、私の居住エリアに置き換えてみると…やはりカーシェア増殖地域でした。

続いて、用地別の展開状況を見てみましょう。

【用地別のステーション数・台数】

用地別2

なんと、マンションのカーシェアステーション数は、一般の駐車場(月極、時間貸)のそれに迫っています!(正直意外でした…)
細かく見ていくと、その多くは小規模マンションが1台だけ区画提供しているケースが多いのですが、一方で東雲ではURが大量に供給しています。
このことは、「外部利用者がセキュリティエリアを経由せずに駐車区画にアクセスできる」ようなマンションでは、今後、オープン型のカーシェア導入が加速する可能性があることを示唆しているものと考えます。

1件目のマンションでは「カーシェア? そんなの入れたら駐車場の稼働率が落ちるので却下」と一蹴したのですが、当マンション近辺ではカーシェアが増殖していて、うちが入れようが入れまいが関係ないんじゃないかと思い始めてきたのでした。


2.最初から車を持たない選択をされている方が増えているのでは?
当マンションは徒歩10分以内に最寄駅がある他、5分以内に山手線駅へのバスが頻繁に走っているバス停があったり、大通りで少し立ち止まっていれば流れのタクシーを拾うことができたり…と、交通の面では苦労しないエリアです。
そのため、「最初から車を持たない選択をされている方が増えているのではないか?」という仮説があります。

早速駐車場解約者の動向を調べたら…はい、こういうことでした!

こういうこと2

駐車場だけではなく、見事に駐輪場契約数も減っていました!ジーザス!

このパターンが仮に年間10件あった場合、駐車場使用料=管理組合の収入は年間300万円(※)減少し、管理組合の財務的には大きなインパクトがありますよね。
※ 計算例:月額2.5万円×12ヶ月×10台

検討結果:どちらにしても駐車場稼働率は落ちる

先の状況を踏まえると、当マンションにおいては、
・売買が行われると駐車場契約率は落ちる
・カーシェアは近隣にボコボコ増えている
・マンション内カーシェアの有無に関係なく、車を持たない人は勝手に増えていく環境がある
ということが導き出せたため、カーシェア導入検討申請を止める理由はなく、検討を進めることになりました。
(まぁ、当マンションの駐車場を眺めていると、高そうな外車やSUV、クーペとかが並んでて、「この人たちがカーシェアの車両グレードで満足するとは思えないなぁ…」と思えたのも大きいのですが…)

なお、カーシェアを導入するためには、駐車場を外部の第三者に利用させることになりますので、お住いのマンションで駐車場の使用が標準管理規約ベースであれば、この部分を第三者が利用できるような内容に加筆・修正する必要があります。
これは管理規約の変更になりますので、一般的には特別決議(「区分所有者数の4分の3以上」かつ「議決権の4分の3以上」の賛成)での承認が必要となります。

管理規約・駐車場png

(出典)マンション標準管理規約(単棟型)

全てはMaaS時代で生き残るために

今回はカーシェアという一つのサービスを入れるという話に過ぎませんが、ここでの内容を少し掘り下げていくと以下の通りです。
① 駐車場稼働は自然減のフェーズに入っている事実を受け入れる
② 駐車場使用料に依存した管理組合運営から脱却を目指す
③ 一時的な補填策として、自家用車以外の車両を自マンションで受け入れる
④ 例え、カーシェア等の駐車場稼働率と競合するサービスであっても、受け入れていく

今後、MaaS関連サービスが本格展開すると、移動手段の選択がより簡便になることから、それこそ自家用車を手放す流れがさらに加速するのは間違いないでしょう。
(駐車場使用料に依存している多くのマンション管理組合においては、その時に管理費の値上げという形で影響が見られると思います)

このMaaSの時代において、ただ競合サービスに駐車場稼働を食われるだけなのか、もしくは車両基地として駐車区画の提供を通じて受益者となるかはその時の管理組合・理事会次第です。
しかし、MaaS時代=マンション駐車場撤退戦の中においても後者の可能性を少しでも残すことで、MaaS時代で生き残りに繋げられれば良いなと思い、苦しい中で議案作成を行ったのでした。
(言うても居住者の4割以上が車を保有している環境でしたので、可決のハードルはそれ相応に高い議案だったんですわ…)




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