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バリ島の竹ガムラン・ジェゴグとスアール・アグンの思い出

日本では名作アニメ映画AKIRAの劇伴や、その作曲と演奏を担った芸能山城組でよく知られる竹のガムラン、ジェゴグ(Jegog)。竹らしい丸く優しい音色、相反して音の格闘技とも呼ばれる強くて激しい演奏、ガムランらしい複雑なポリリズム構造が魅力です。民族音楽として世界的にも評価され人気があります。

ジェゴグはガムラン文化圏の中でもバリ島西部ヌガラ地方特有のものです。オランダ植民地だった時代に一度廃れていますが、現代ジェゴグの祖であるイ・クトゥッ・スウェントラ氏による地道な調査と研究によって、奇跡的に再興されました。スウェントラ氏はスアール・アグン(Suar Agung)という楽団を率いて世界中で公演を行い、ジェゴグの存続と普及に尽力されました。

そんなジェゴグですが、自分が初めて体験したのは、2012年バリ島の繁華街クタでした。

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ガン見してるのが自分です(笑)

知識としては知ってたけど、生で聴いたその音は圧倒的で、一瞬で惹き付けられてしまいました。その頃はプラザバリというショッピングモール内でスアール・アグンが日本人向けディナーショーをやっており、かなり気軽に聴けて、それくらい日本人観光客には人気でした。しかしプラザバリの閉館とともに消滅してしまい…。バリ島自体の日本人人気がちょっと下降気味だったこともあるかもしれません。

その2年後の2014年、どうしてももう一度生のジェゴグを聴きたくて、スウェントラ氏とスアール・アグンの本拠地があるサンカルアグン村まで行きました。

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自分はクタに滞在していたんですが、楽団の方の迎車に乗りウブドで他のお客さんも拾い、そこから悪路をバンに揺られまくって計4時間弱。ヘロヘロでスアール・アグンの拠点(というかスウェントラ邸)に到着すると、スウェントラさんが流暢な日本語でめちゃくちゃ気さくに出迎えてくれました。

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スウェントラさんとのツーショ。この記事の一番の目的はこの写真の自慢です(笑)

軽く談笑したあと、90分ほどの公演を鑑賞しました。

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スアール・アグンの公演はとてもオープンでフレンドリーで、演奏中の下に潜り込んで音を聴いたり、背後に回って観察できたり(上の写真、演奏中です)、簡単な竹の打楽器を借りてみんなでアンサンブルをしたり、教わりながら実物で演奏させてもらったり。途中スコールが降ってきて、楽器の保管櫓にみんなで移動して、狭いので席の前後に楽団を配置して演奏されるというレアな体験もしました。

音に関しては言わずもがな、以上に絶対現地でないと味わえない質感でした。編成中最大サイズの楽器、名前がまま”ジェゴグ”なんですが、それが出すサブベースの音域と、それが面で来るボディーソニックこそジェゴグサウンド最大の特徴です。

ベテランおじいちゃんが木で組んだフレームの上で並べて吊られた竹筒を2キロくらいあるバチでブン殴ってるんですが、およそ人力で出してるとは思えない低音が低い振動が来ます。自分も叩かせてもらいましたが、ヘタクソなりに叩いた振動が筒にすごい共鳴して前にぶっ飛んで行くのがわかりました。(そしてすぐ腕がパンパンになった)

加えておそらく竹の乾燥具合と大気の湿度で、ここの地域でないと出せない豊かな響きがあって、とても濃密なサウンドでした。

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音が凄すぎてこの記事を書くまで印象が薄れてましたが、楽団の奥様方や子どもたちの素朴なバリニーズダンスも合わせて、本当に貴重な体験ができたんだな〜と思います。ウブドの宮廷ガムランとは全然違う。

その後、2016年には日本ツアーがあり、自分も目黒のホールで鑑賞しました。

ホールで着席観賞という、あまりジェゴグらしくない環境でしたが、これはこれで楽しかったし、日本に来てくれたのが本当に嬉しかった。さすがにステージに上ったりはできなかったので、つくづくヌガラまで行ってて良かったと思いました。

実はこの公演の二年後、 スウェントラ氏は癌で逝去されました。本当はまたヌガラまで行ってお会いするつもりだったんですが叶わず、自分は日本公演で見たのが最後の姿になってしまいました…。

そんな親日家のカリスマ団長の逝去とコロナ禍もあり、じゃあ現在のスアール・アグンがどうなっているかと心配していたところ、やはりかなり苦しい状況のようです。

以前スマラ・ラティの支援配信の記事を書きましたが、今月下旬に同じような形で支援のための配信が企画されています。

詳細については上記リンク先を読んで頂くとして、支援の話抜きにしてもヌガラのスウェントラ邸からの配信というのは、前例がないとても貴重な機会だと思います。ほんと、あそこ観光エリアではないので行くだけでも大変ですから…。ジェゴグに興味がある方は是非参加してください。

無くなっていい文化なんて一つもないですが、スアール・アグンとジェゴグはバリ・ガムラン文化の中でもひときわ希少な形態なので、なんとしても存続して欲しい。この記事を読んで興味を持たれた方は、力を貸して頂けるとと嬉しいです。

最後にCDの名盤を一枚紹介しておきます。

キングレコードということもあり、ジェゴグらしい低域の質感まで感じ取れる、とても音質のいい収録音源です。

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