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その一瞬を大切に...鮎の話

毎年、一年のうちに、何か新しいことを始めたり、成し遂げようと思っている。自分が前に進んでいるような気がするから。

料理教室やキッチンカー、レシピ開発&提供、他には踊りをやってみたり(パレードでたり)、語学や文章の勉強、一人フェス、有り難くご依頼頂くものなど、とりあえず自己満足でしかないが、毎年モチャモチャ何かしらかチャレンジしてみる。同じような一年は、飽き性の自分には退屈でつまらない。


今年も鮎の季節が始まった。鮎は資源保持のため遊漁期間が決められ、だいたい11月から5月は禁漁期間。鮎の解禁に合わせて、郷酒でも鮎料理を始めている。

鮎は香魚とも書くように、爽やかな初夏の草のようなみずみずしい香りがする。炭火で皮はパリッと、ふっくら焼かれた鮎の、ホロホロほどける繊細な身とワタのほろ苦さは格別な初夏の味だ。脂の乗った秋の落ち鮎、子持ち鮎もそれぞれに美味しい。

鮎は1年しか生きられないという。だから、年魚とも呼ばれているとか。その一年を燃やし尽くして、その後は私達に口福を招いてくれる。なんて健気な。ありがたく食べよう。

私の田舎では、鮎よりニジマスやイワナやヤマメを食べる気がする。あまり鮎を食べた記憶がなかった。でも、田舎の観光地やお祭りなどで串に刺さって炭火で焼かれている鮎は、なんとも美味しそうで、「川魚は泥臭くてそんなに美味しくないよ」と親に止められても、食べたがった。焼きたての魚にかぶりつくワイルドさが楽しかったのだろう。


和食は季節の食材を大切にしているけど、和食に転職して、鮎の季節もとても大事にしていることを知った。

鮎の塩焼き、鮎の甘露煮、稚鮎の天ぷら、鮎そうめん、背ごし鮎の洗いなど、鮎懐石が組めるくらい様々な調理法で鮎を楽しむ。鮎のひれは焦げやすいので、焼くのが大変。

特に、鮎の甘露煮や鮎そうめんは、鮎を白焼きしてから炊く上に、煮崩れないように取り扱いに気を遣う。でも、そんな調理手順の一つ一つに気を配ることで見目麗しく美味しい和食、料理を作る技術や心構えが身につくので、おろそかに出来ない。お客さんも喜ぶし、ゆくゆくは自分の糧になるのだから、何気ない調理過程の一瞬一瞬が実は大事。他の仕事だってきっとそういうことはあるだろう。 


蓼食う虫も好き好き、というが、蓼とは、鮎と相性が良く、和食では蓼をペーストにして合わせ酢にした蓼酢とともに鮎の塩焼きを供する。蓼の独特のピリ辛加減が鮎の繊細な旨味を引き立てるのだ。

鮎の一生を思う。もし、自分にあと一年しか無いとわかったら、一瞬一瞬を大事にするだろう。何気ない時間がかけがえのない瞬間になるだろう。丈夫な身体はいつまでももって欲しいけど、無茶をせず、朗らかにまっすぐ、今日も厨房に立とう。

鮎の炊き込みご飯

ご飯3合を研いで、ザルに上げておく。鮎2本焼いておく。出汁500cc、醤油、酒各大さじ3を合わせて、米とともに炊飯器に入れ、上に焼いた鮎を乗せ、生姜の千切り1かけ分を散らして普通に炊く。



おいでくださりありがとうございます。 不器用な料理人、たぬき女将が季節の食材、料理、方言にまつわるよもやま話を綴っています。おまけレシピもありますよ。