かききまなみ12ヶ月連続CD制作企画

”都会に憧れて岩手から上京してきた座敷童子”、かききまなみ。
17年10月~18年9月にかけて、「12ヶ月連続CD制作企画」を完走させた。
音楽を制作するだけではなく「CD制作」だということがとにかく凄い。音楽作ってネットにアップして終わり、ではない。CD-Rの白い盤面にマジックで適当にタイトルを書いただけというものでもない。音楽を作り、CDの歌詞カードを作り(ジャケットイラストまで全て自作!)、盤面印刷をして、しっかりとひとつの作品として仕上げる。そして、毎月ライブの物販やM3(同人音楽即売会)などで発表していく。これを、12ヶ月連続で。とてつもない労力がかかること。まさに自分との闘い。自主制作でこれを完遂させるというのは本当に凄いこと。
そして、そうやって産み出された作品が、どれも素敵なものばかりなのである。



10月:「ようこそおばけの世界へ」
不穏なイントロから始まる、ハロウィン風であり和風でもあるホラー曲。幼い雰囲気の歌声が、仄暗い世界を描くための武器になっている。


11月:「都営地下鉄幽霊線」
ミドルテンポで落ち着いたトーンだけどとてもキャッチ―。かききポップスの代表作。ライブでよく披露されてて、可愛くてすぐに覚えられる振りが楽しいのでライブハウスでみんなで踊ろう。


12月:「夢見たシンデレラ」
幼少期への追憶の歌。日本の田舎の景色と「シンデレラ」のモチーフが溶け合う様が見事。この作者には珍しく歌謡曲っぽさがあるのが面白い。


1月:「ぼくの理想のエターニティー」
永遠性への憧れが強く表れた、かききまなみ哲学そのものといった曲。ドラムンベースのリズムと刺すような電子音と繰り返される言葉による陶酔感。


2月:「黄泉がえれ祭灯」
思い出の景色がこの世から消えていくことへの深い悲しみ。この作者の中でも特に重く激しい曲調で、それが語られている。


3月:「神話」
M3春で発表された2曲のうちのひとつ。プログレッシブかきき曲!壮大な太古の記憶の物語を、BPMと拍子の変化が生み出すダイナミックな疾走感で描いている。


4月:「ふういん」
M3春で発表された2曲のうちのひとつ。「神話」の壮大さとは打って変わった、ミニマルなピコピコサウンド。可愛い曲調なのだけれど、自身でもどうにもならない自身を歌った、とても単純だけれどもそこに怨念を感じさせる歌詞。


5月:「わたしの知らないアンノウン」
とっても陽気なチップチューン、だけどなんだか自嘲気味な自己紹介ソング。そのギャップがすごい。おそろしく脳内リピートしてしまうタイプの曲。


6月:「郷愁病」
ピアノとヴォーカルのみの、シンプルな曲。わらべ歌のような懐かしさのあるメロディとピアノの伴奏、繰り返される言葉。郷愁が語られるのだけれど、懐かしいからただ美しいのではなくて、怨念のように残る悲しさが描かれているからこそ、美しい。(個人的に12ヶ月企画でいちばん好きな曲です)


7月:「来世に期待しよう」
しっとりと落ち着いたトーンの曲。「今世は失敗だ」「来世に期待しよう」などというワードが並んでいてネガティブな歌かと思いきや、実はそんな今を救済する歌だった。歌詞が秀逸。


8月:「みえる子だぁれ」
”座敷童子”かききまなみの自己紹介ソング。内省的な「わたしの知らないアンノウン」と対をなすように、とても大きな視点から音楽家としての自身を描いている。ピアノアレンジが美しい。


9月:「ノスタルジック≒ホラー」
12ヶ月連続リリース企画を締めくくるのは、とても完成度の高いチップチューン。心地よい音色、耳に残るメロディ。思い出と今が交錯する仄暗い世界。これぞ、かききまなみ。



12ヶ月で産み出されてきた、バラエティに富んだ作品群。とても素晴らしいと思う。
そして、これはまだかききまなみという作家の進む道の過程でしかない、という所に恐ろしさまでも感じる。
この経験の先に、どんなものが産まれてくるのか。
これからどんどん広がっていくであろうかききまなみの世界が、本当に楽しみだ。

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