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【ティール組織検証#5】「議論と意思決定がフラットになるまで」組織改革リアルストーリー

2018年2月にヒエラルキー型からフラット型組織へと移行するプロセスで生まれた生々しいリアルストーリーを、当事者たちへインタビューしながら全7回で発信しています。(Work Story Award 2018「W学長賞」受賞ストーリー)

こんにちは!編集部のしのぶんです。
前回に引き続き、ヒエラルキー型→フラット型組織に変革したリアルストーリーの第5回をお送りします。

今回は、#2「経営層の我慢とメンバーの内発的動機」の続きで、マネージャーやメンバーの「内発的動機」を引き出すために経営層が「我慢する」というスタイルに切り替えた後、会議での議論や意思決定がフラットになっていったプロセスを紐解いていきます。

▼#2「経営層の我慢とメンバーの内発的動機」

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〈経営者が我慢することで、経営会議で何が起こったのか〉

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茂木 崇史
東京大学経済学部卒業。マッキンゼーアンドカンパニーに勤務後、株式会社リンクアンドモチベーション(東証一部上場)にて、ブランドマネジメント事業部執行役などを歴任。その後、東日本大震災をきっかけに2012年に独立。気仙沼に一般社団法人まちの誇りを設立し、復興に向けて地域や世代を超えたコミュニティを創造する活動を行う。人を起点にした地域活性事業を継続的に行うべく、2013年に株式会社BOLBOPを設立。

ーこれまでずっと「経営メンバーが答えを持っている」というスタンスで会議をしてきたとすると、いきなり「我慢して何も言わなくなる」と会議ってどうなっちゃうんでしょう?

シーンとしますね(笑)僕は月に1度の経営会議に同席するという形で「組織改革」の伴走をしていましたが、関わり始めた頃は「詰めるスタイルのマネジメント」だったので、健全な議論がなされていない印象でした。

健全な議論になっていない理由は、やはりマネージャー層が「怒られたくない」という気持ちで怯えてビクビクしてしまい、自由に言いたいことが言えない空気にあると思いました。そこで以前の記事でも出てきたように、経営層に「我慢してください」とお伝えし、少しでもマネージャー層が本音で話せるよう「それぞれが今抱えている悩みについて、まだ整理されてないモヤモヤした状態でも良いので話す」時間を設けました。

スタイルを変えて1〜2回目は誰かがモヤモヤを話しても、「シーン」と静かになるだけで終わっていましたが、「それもそれでいいのだ」という認識で進めていきました。3〜4回目には少しだけ会話の量が増えて、滞っていた空気が循環してきたような印象を受けました。

以前は会議中に笑い合うような雰囲気はありませんでしたが、徐々に笑いが増えて、「シーン」とした沈黙に対しても笑いが起こって次の議題へ行く、という場面も見られるようになりました。

〈意思決定を課題解決型から課題確認型へーアドバイス・プロセスの素地〉

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ーそうやって「モヤモヤを出す」ことで、意思決定のスタイルはどのように変化していったのでしょうか?

本音で話す雰囲気を醸成することで、意思決定のスタイルを「課題解決型から課題確認型へ」移行しようと試みていました。

課題解決型とは、担当者が課題を会議に持っていき、「解決策を持っている」ボードメンバーから「なんでできないの?」「なんで失敗したの?」と糾弾されながら、その場で問題を解決しようとするスタイルです。
メリットはスピードが早いこと、デメリットは「怒られたくない」と担当者が怯えるので失敗を隠そうとしたりして情報の正確さが失われること、担当者が自らの頭で考えなくなる傾向が強くなることです。

課題確認型とは、担当者がモヤモヤを会議という「場」に出し、各ボードメンバーが「どう考えると良いか」「本質的な課題は何か」などをアドバイスという形でシェアし、会議の場では適切な課題設定に注力します。課題が明確化したら、後は担当者が自ら解決策を探します。
メリットは担当者が自ら考えるようになること、あらゆる情報を元に適切な課題設定ができること、デメリットは課題解決のスピードが下がることです。

『ティール組織』でも「アドバイス・プロセス」という「誰でも関係者にアドバイスをもらいながら意思決定できる」方法が紹介されていますが、課題確認型の議論スタイルはまさに、アドバイス・プロセスの素地になっていったと思います。

ーなかなか大きな改革だと思うのですが、スタイルを移行した結果どんなことが起こりましたか?

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課題解決型を「昭和型」だとすれば、この課題確認型は「平成型」になるかと思いますが、最初は改革をしようとパワーをかけているので全体が「平成型」になろうとしている空気でした。でも、それも絶対的に正しいわけではないんですね。平成型を強制したら意味がないんです。

なので、徐々に「自由な選択として昭和型を選んでもいいよね」という空気になり、マネージャー陣の中で数名は「昭和型で詰められた方がモチベーション上がります!」という人も出てきました。そうやって、会議の中で「昭和型でお願いします!」「僕は平成型がいいです」と自由に選べるグラデーションを経て、全体的に平成型に移行していったような流れでした。

平成型では「成長を実感できない」「ぬるま湯に感じられる」という人もいたと思います。そういった中でも平成型のスタイルを取り続けたのは、意外とそれでも業績を維持できたことと、心理的安全性が明らかに高くなったこと、社員が自律して考えるようになっていったことが大きいと思います。

〈実際に現場でどうやって導入したのか?ー守破離で「課題確認型」を浸透〉

当時社外取締役の茂木の施策を、経営管理部として現場との橋渡しを行った近藤。どんな苦労があったのかを聞いてみました。

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近藤 香菜子
2012年新卒入社。経営管理部に配属され、アメーバ経営の浸透に従事。マネージャーとして経営会議の運営等も担当し、2018年には女性が自分らしく働けるよう応援するプロジェクト「racisa」の立ち上げに携わる。9月より産休・育児休業中。

ー具体的にどうやって「課題確認型」を浸透させたのですか?

まずは会議のフォーマットを変更しました。週に1度のマネージャーとメンバーによる会議では、「今の課題は何か?」について自然に考えられるようなアジェンダにして、課題が不確かでも詰めないように調整しました。

初めは「今の課題は何ですか?」という問いかけで進めていましたが、「課題」という言葉を使うと「ちゃんとした課題を発見して話さなければならない」というプレッシャーが働くことに気づき、途中から「モヤモヤ」という言葉に言い換えて使っていました。そうすることで、より多くの情報を出せるようになり、本質的な課題に近づけるようになったと思います。

ースムーズに浸透しましたか?

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それが、平成型には、より女性の方が馴染みやすいということが分かったんです。男性マネージャーは「解決したい」という気持ちが強くて、平成型に対してより「課題を解決してはいけないんだ」というモヤモヤを抱えやすいのだなと思いました。

経営会議では、ボードメンバーが「どこまで言っていいの?」というストレスを抱えていて、それが溜まりに溜まってガーッと課題を解決してしまう、という場面も何度かありました。

平成型を上手に使いこなしているマネージャーもいて、うまくファシリテートしたりゲームを取り入れたりしていて、そういったチームは雰囲気もすごく良くてどんどん数字の結果も出ていきました。

ーどんなところに苦労しましたか?

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言葉の一人歩きに対しては悩みました。課題確認型の目的って、「ミーティングを活性化して一人一人が当事者意識を持ってみんなでいい方向に向かっていくこと」なんですが、「課題解決型じゃなきゃダメなの?」という捉え方をしてしまう人もいて、逆に自由に話せなくなったり、会議がよそよそしくなってしまったりしました。

なので、そこに対しては「守破離」で対応しました。
・最初はとにかく平成型を浸透させて植え付ける
・ある程度浸透したら、「別に解決策言っちゃってもいいんじゃない〜?」と緩ませる
・各自が自分の内発的動機で昭和型でも平成型でも選べるようにする
社外取締役の茂木さんに相談しつつ、みんなと対話して空気を感じながら実行していきました。

〈当時のマネージャー陣はどう思ったかーストレスは減ったが課題もある〉

当時、特に平成型(課題確認型)に馴染むのが難しそうだった男性マネージャー達は、ぶっちゃけどう思ったのか?を聞いてみました。

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(左から)
藤田 浩光
2009年新卒入社。サイン工事の営業・現場管理を長年経験。サイン部門のゼネラルマネージャーを経て、現在はエネルギー部門のゼネラルマネージャーとしてソーラーカーポートの営業・現場管理まで幅広く対応中。

峯田 洋輔
2011年新卒入社。営業部門ではマネージャーとして看板以外の市場開拓を実施。現在は、一斉施工のプロジェクトマネジメント、社内成長支援、新評価制度策定等を推進中。

黒川 賢一
2013年新卒入社。施工管理部に6年間所属。マネージャーとして看板工事の新規/改修に携わるチームのマネジメントに携わる。現在は新規事業”ミルイタ事業部”を兼任。

ースタイルが変わってどう思いましたか?

峯田:
恐怖はなくなりました(笑)素直に話せるようになったので、本質的な課題を見つけやすくなったなぁと思いました。

黒川:
平成型に変わった直後は、経営会議での決まり文句が「で、今の課題なんなの?」になったんですよね。それはそれでプレッシャーでした(笑)

藤田:
確かに(笑)でも、笑いは起きるようになりましたね。あとは欠点を指摘されることが少なくなりました。全体が「強みを伸ばす」という意識にシフトしていったように思います。

ー会議や意思決定のスタイルが変わったことで、現場の混乱はありましたか?

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黒川:
スタイルは変わっても数字目標はあったんですよね。その数字を担保するために、メンバーとの会議で「いかに自ら気づいてもらうか」ということに主眼を置いて一生懸命やってましたが、無意識のうちにメンバーに解決策言っちゃってたかもなーと思います。

藤田:
平成型の浸透を担当していた近藤から「藤田さんはすぐ解決策を言っちゃうからな〜」と言われて、「そんなことない、必要だから言ってるんだ!」って言い返したことがありました(笑)だって、メンバーとの会議の目的って一緒に課題を明確化して解決策を一緒に探すことじゃないですか。そのために必要だと思ったら言ってましたね。

峯田:
僕も振り返ってみると、目標達成への気持ちの強さから解決策言っちゃってましたね。

ー皆さんは、昭和型と平成型どっちを選んだのですか?

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藤田:
僕は「昭和型」の代表みたいな立ち位置だったと思います。「昭和型もその人が自ら選んでいるならそれはそれじゃん!」と思っていたので。ただ、部署が新しい事業部だったので、僕自身もそんなに明確な解決策を出せる状況じゃなかったんですね。なので、実態は平成型だったなぁと思います。

黒川:
昭和型です!僕は断然そっちの方が成長を実感できるんですよね〜。だから全体が平成型に一気に変化した時、違和感を感じるというより、「何も気づきがない」という感覚でした。これまではボードメンバーがバシバシ意見を言ってくれていたのに、平成型になったらこれまでのようには言ってもらえなくなってしまいましたから。

峯田:
俺は正直どっちを選んだのか記憶が曖昧なんですが、とにかく昭和型は怖かったんですよね。だから平成型の方がマシだな〜とは思ってました。

ー平成型、ぶっちゃけどうですか?

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黒川:
個人の成長スピードは遅くなった気がします。自ら気づける人はどんどん伸びるけど、そうじゃない人はゆっくりになる。成長格差がどんどん開いていきそうだなとは思いましたし、実際その傾向はあると思います。

藤田:ぶっちゃけ、課題に対する意思が強ければ、昭和型だろうと平成型だろうと、関係ないなとも思うんですよね。無理やり平成型にして、無理やり課題を出させようとするのってなんか違うと思っていて。だからその内発的動機の部分がちゃんとついてこない限り、平成型(課題確認型)を本質的に使いこなせてることにはならないだろうと思います。

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峯田:
恐怖がなくなったことで現場から情報が上がるようにはなりましたね。当時は「怒られるのが怖い」という自分の気持ちにすら気づいていませんでしたから。ただ、何も言わなくなることでの成長の阻害になっているかもしれないなとも思います。「詰めないこと」を意識しすぎることによって、適切なフィードバックもしにくくなってるのが今の課題だと思います。

黒川:
最初は「平成型にするぞ」みたいなプレッシャーがありましたが、その感じは徐々に抜けて行きましたよね。「で、今の課題はなんなの?」みたいな感じもなくなってきましたね。

藤田:
平成型も昭和型も、「どっちが正しい」って無いと思うんですよね。それぞれにメリットデメリットがあります。ただ、総論で考えると、今の時代には平成型が合っているのだろうなと思います。社員のストレスは明らかに減っていますね。

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取材・文・構成・編集・デザイン/蓮池 しのぶ 撮影/熊谷怜史

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