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国内で非上場株を組込んだ公募投資信託が可能に

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB221A20S4A120C2000000/
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記事にある通り、投資信託協会が定める自主ルールが改正され、公募投資信託において非上場株を組入れることが可能となりました。
これまでも制度的に組込みが禁止されていたわけではありませんが、公募投信に求められる時価評価などの厳しい規則により、事実上、非上場株の組入れは困難でした。
ここで非上場株として考えられるのは、上場していないすべての株式会社の株式です。スタートアップ企業に加え、知名度が高い大企業であっても上場していない企業なども考えられます。
公募投信でこれら非上場株が組入れられることで、これまでベンチャーキャピタル(VC)などでなければ投資できなかった、大きな成長の可能性を秘めたスタートアップ企業への投資が個人投資家にも可能になります。
また昨今、金利上昇によってIPO市場やVCからの投資が縮小していることが言われていますが、上場前の企業にとっても資金調達の手段が拡がります。

組入れ比率は15%まで

非上場株を組入れることが可能にはなりましたが、1本の投資信託の純資産額の15%が上限となっています。
非上場株への投資で投資家が背負うリスクを抑える、投資家保護のための制限となります。
非上場株は、上場された株式と違い、流動性がありません。流動性とはつまり、買いたいときに買えて、売りたいときに売れる、ということです。
上場株は、東京証券取引所などの取引所が定める一定の基準をクリアした会社の株式取引を、取引所が仲介してくれます。
一方、非上場株にはこのような取引をする場がありません。かつて、日本証券業協会においてグリーンシートという非上場会社の株式を公平・円滑に売買する制度がありましたが、マザーズなど新興市場が創設され、スタートアップ企業が上場しやすくなり流動性が上がらなかったことなどを背景に、2018年に廃止されました。
これを引き継ぐ形で東証により2015年に株式コミュニティという制度が一応作られていますが、こちらも流動性は上がっていません。
ちなみに株主コミュニティは、趣旨としては地域の未上場企業の活性化が掲げられており、スタートアップ企業の株式の流動性円滑化とはやや異なっています。
これらの制度で課題となったのは、買いたい人と売りたい人が相応に集まらないと生まれない流動性という問題に加え、株式の発行企業の情報開示や健全性の担保の問題です。
上場企業は、取引所に上場することで幅広い人に株主となってもらえる代わりに、財務や経営の健全性が確保されているか厳しい審査を受け、また上場後も開示を求められます。
それに対して非上場企業の健全性をどう担保するのか、組入れる非上場株式を選び、幅広い投資家に提供することになる運用会社に課される課題となります。

非上場株が15%ですので、それ以外の85%は通常投資信託に組入れられる、上場株や株式インデックス・債券など何でも考えられます。
これらは通常、非上場株に対して流動性が高く、すぐに換金が可能なので、小規模の解約にはすぐ対応できるでしょう。
しかし極端なケースを考えると、50%の解約が一度に出た場合、非上場株以外をすぐに換金して返金したとしても、残った資産は30%が非上場株となってしまい、15%の上限が守れません。
こうしたことから、いずれにせよ非上場株の流動性は課題となります。また、非上場株が時価評価された価格付近で売買できないと、時価評価に沿った解約分の換金が出来ないため、時価評価の算出にも正確性・実効性が求められます。
購入・解約に対する制限を通常の公募投資信託より厳しくかけるなどの対応や、そうした非上場株の投資に関するリスクを適切に投資家に説明できる態勢づくりが今後の課題となりそうです。

米国での先行事例

このように、制度の改正は喜ばしい一方で、ハードルが低くなったとは言い切れない非上場株の公募組入れですが、海外での先行事例は見られます。
IPOの準備を進める「レイターステージ」にあるスタートアップ企業などは、健全性や情報開示の体制を整え始めている会社ですし、IPOすれば売買の流動性が上がるので、比較的組入れやすいと思われます。

今後はパッシブ運用に限らない運用の選択肢の多様化が期待される

近年、パッシブが運用の中心となっていました。
これは特にリーマンショック後の、世界的な低金利化や中央銀行による過剰流動性の供給により、株も債券も長期にわたり右肩上がりに値上がりしてきたことが背景にあります。
下手に売買を繰り返すよりも長期で保有を続けることが最も運用パフォーマンスが良いため、アクティブ運用の付加価値が認められない時期が続きました。
もちろん長期保有は運用の肝であり、当社も推奨する運用スタンスです。
しかし現在は各国で進んだ利上げにより経済が減速を始めています。またそれと同時に、各国の中央銀行による過剰流動性の吸収も進められており、右肩上がりしてきた時期から市場の環境は変化しています。
そのような中、パッシブ運用以外の、アクティブ運用やオルタナティブ運用といった選択肢が、投資家に付加価値をもたらす機会は増えていくと思われます。
非上場株の組入れが可能になったことで、投資家の運用の選択肢が多様化する一助となることが期待されます。