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阿久悠の世界観 「UFO」

阿久悠の歌詞が好きです。
なんつーか、詞っていう短い言葉の並びに詰め込まれた情報量が半端なく多い感じがいい。zipファイルなんて目じゃないくらい情景情報が詞にみっちり圧縮されているわけ。

例えば沢田研二の「勝手にしやがれ」あるじゃない。

「ベッドの横がすぐ壁ってくらい結構せま目の寝室で、男が寝っ転がっていて、興味ないふりか気づいていないふりをするため壁に向かって寝返りを打ち、薄々思っていたがやはり愛想がつきている相手の女性が出ていく様子を伺っているが、出ていくことに少し寂しさがある」っつー情景を表現したいとするじゃん?
阿久悠はこう言うわけ。

壁際に寝返り売って、背中で聞いている
やっぱりお前は出ていくんだな

どんだけー!
って、どれだけ圧縮するのかっていう驚きを、したこともないおねぇキャラのモノマネをして言いたくなるくらいすごい情報圧縮率。人差し指ふりふりーの振る数ですごさを表すなら、手首の腱鞘炎起こすレベルですごい。

そんな素晴らしい言葉の並びが多いのが阿久悠の歌詞が素晴らしいとい言われるゆえんでしょう。

でも、そんな感じで歌詞の言葉選びに注目がいきがちなんだけど、私がさらにすごいと思うのは歌詞全体によってつくりだされる世界観。

例えば、尾崎紀世彦の「また逢う日まで」。

ふたりでドアをしめて
ふたりで名前けして
その時 心は何かを話すだろう

疎遠になって自然消滅か、喧嘩別れか、はたまた死別か、っつー男女別々に去っていくのが当前の世の中にだったわけ。だったっていうか、昔も今もそうだけど。でも阿久悠は「男女冷静に話し合って納得のもと一緒に出ていく」という新しい別れのスタイルを提唱するっていうね。深イイレバーがあったら勢い余ってへし折っているレベルで深いい。

個々人の情景描写と見せかけて社会へ新しい世界の見方=世界観を提唱するっていうスタイル。阿久悠亡き今、この世界観を作り出す手法を引き継ぎたいじゃないか!

しかしながら、歌詞づくりの方法ってのは色々あるけどこういう世界観づくり方法ってのはあまり聞いたことがない。
実際、世界観のつくり方に関する文献ないかなーとamaっても(ググるのamazon版)、ファンタジーな小説の世界設定についての本しかない。都合のいい女エルフが登場する話ではなく、現世へ問題提起する言葉がつくりたいのだよ。横文字で言うとスペキュラティブポエムとかそのへんだよ。 

というわけで、阿久悠の世界観を歌詞から解析しつつ、得られた世界観を現代に水平転換してみようかと。そういう社会にインパクトを与えるような世界観作りのためのシリーズを始めます。

歌詞に見る世界観「UFO」

第一回の今回は、阿久悠の代表作、ピンクレディー「UFO」を解析していきます。

著作権についてよくわからないので、JASRACに怒られないよう他のサイト同様に歌詞を画像で。

宇宙人とも思えるような男と付き合う女性というコンセプトの話ですね。
「地球の男に あきたところよ」は女性の「いつかは言ってみたいセリフランキンベスト10」に入っていることでしょう。知らんけど。

歌詞の説明自体は色々なところでやっているので省略。
でだよ、この「UFO」の提唱する世界観はなんでしょうね?

この歌が発売された1977年。カラーテレビが当たり前になり情報があふれ始めたころ。テレビのドラマやCMなどで「こういう生活がいい生活、憧れなさい消費なさい」という洗脳まがいの行為が定着し始めたころとでもいうか。んで、男性も女性に対してお決まりのアプローチが定着してたんじゃないかと。どいつもこいつも、アフター5はシャレオツなバーでネオン色のカクテル片手にロマンティックを語りがち、みたいな。つーわけで、

「定型野郎共に嫌気がさしていた」=「地球の男に 飽きたところよ」

とか? 
もしくは、女性の社会的地位向上してたころってのもあるかもしれない。新しい強い女性っていう印象も強い。ピンクレディーのブランドもそんなイメージあるし。あとは、UFOをはじめとした超能力やら心霊現象やらのオカルトブームってのもあったかも。

というわけで、その辺をひっくるめた世界観としては「未知な恋愛対象との心通い合う新しい交際」の提唱あたりではないかと。テンプレートな表面だけの恋愛よりも、宇宙人みたいな未知なる恋愛対象とテレパシーがごとく心の通い合った交際にドッキドキじゃない?みたいな社会メッセージ。

世界観からリメイク

さて、ここからが本題。先に書いたと通り「阿久悠の世界観を歌詞から解析しつつ、得られた世界観を現代に水平転換しよう」っていうのが目的なわけで。理想を言えば、世の中への洞察をして現代の飢餓感から世界観をゼロからつくることだったりしますが無理。阿久悠なら普遍的な憧憬を語っているはずなので、それを再利用しちゃおうという盗人猛々しいような魂胆ではあります。

UFOの世界観を利用すると、

昔:未知な恋愛対象との心通い合う新しい交際→人智を超えるレベルで気の利く宇宙人(のような人)との交際

今:未知な恋愛対象との心通い合う新しい交際→?

っていう構図じゃわけ。
今テレビでもUFO特集すらないでしょ。UFO is deadでしょ。超能力や心霊写真も一緒にdead。というかテレビすらdeadっちゃいそうな勢い。Internet killed TV starじゃん?

昔でいう宇宙人は、今で言うならずばりAIでしょう。
ずばり、なんて今言う?丸尾君を描いてたさくらももこも亡くなったこのご時世に。

で、AI。現代版UFOでは、AIを持っているとしか思えない男と付き合い始めるとして、こんな要素を含んだストーリーになるかなーと。

・Amazonのマイストアでのおすすめばりに欲しいものがわかる。

・食事やベッドは空腹や睡眠のバイオメトリクスデータを見ているかのごとく適切なタイミングで提供する。

・もちろん、これまでの食事と睡眠というビッグデータからベストな料理とベッドをチョイス。

・考えていることは、fMRIの画像認識をされているかごとくわかられてしまう。それどころか考えるより先にわかられてしまう。

・嬉しい言葉や仕草も、たちまちに学習されて更新していくので、どんどん虜にされていく。

UFOの替え歌でいうならば「生身の男に あきたところよ」みたいな。
うわっ…私のセンス、なさすぎ?

まとめ

そんな感じで第一回の阿久悠の世界観、「UFO」の解析でした。

歌詞づくりの前に世界観をちゃんと構築しておくべき、という思いから始めたのですが、思ったより難しい。阿久悠は「社会の飢餓感」の嗅覚の天才だったと改めて感じる次第。

今後も、「社会の飢餓感」を読み取る前段階として、社会の飢餓感を読み取った人の成果物を再利用する方法で、インパクトある世界観作り力を鍛えていければなと。

まぁ、世界観の正解は阿久悠ロボか阿久悠ゾンビがいない限りわからんね。
あ、AIじゃなくてロボかゾンビでもいいな。どちらにしろ生身じゃないし。


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