【お試し版】ゲーデル、エッシャー、バッハの薄い本 #1


はじめに

「ゲーデル・エッシャー・バッハ (GEB)」という本をご存知でしょうか。

 「一生モノの一冊」「第二次人工知能ブームの中心的書籍」と評する向きもあれば、「結局何について語った本なのかわからない」とも言われる、大変な難読本です。
私たちはそのGEBを「ゆるく読む」という趣旨の「ゆるげぶ (GEB)」というコミュニティです。2017年7月に始まった「ゆるげぶ」は、月に一回二章ずつ読むというペースで読書会を開催しています。
 この薄い本は、専門家でない私たちがGEBについて書くということで、どう頑張っても専門的なガイドにはなり得ません。そこで私たちは素人であることを逆に生かし、「初心者へのわかりやすさ」と「ゆるい面白さ」を念頭に置いて本書を執筆しようと考えました。そのため、以下のような編集方針を持って本作りに臨んでいます。

・ エッセイ集にする・・・その分厚さや硬派な内容からはなかなか結びつかないのですが、原著はもともと「エッセイ」を書くつもりで書き始められたとのことです。ならばこの本はGEBについてのエッセイ、つまりエッセイ集のエッセイ集を目指します(「メタエッセイ」とでも呼びましょうか)。これこそ、メタ的な構成を好むGEBの同人誌としてあるべき姿だと信じつつ。

・ GEBと「不思議の環」を成す・・・GEBにおいて種々雑多なテーマを裏で繋いでいるのは「不思議の環」という円環的な概念です。そこでこの薄い本とGEBの間にも、この「不思議の環」的な関係を結びたいと考えました。すなわち、「読むとGEBを読んでみたくなり、GEBを読んだらまた読みたくなる」という関係を目指します。

こうした編集方針の上で、以下のような形で人のお役に立てる本になることを目標として私たちは執筆にあたりました。

   ・ GEBを知らなかったという方には興味を持つきっかけとして。
   ・ これからGEBを読もうとしている方には良いガイドとして。
   ・ GEBを読んだことがあるという方にとっては懐かしく思い出して
    楽しめる本として。

最後に、こんな活動をしている「ゆるげぶ」そのものに興味が湧いたという方がいらっしゃいましたら、私のFacebookアカウント(http://facebook.com/shumpei.shiraishi)までメッセージをください。ゆるくて熱いメッセージをお待ちしております(ハードル高っ)。

2017年10月1日
秋晴れの少し肌寒い日に、公園で遊ぶ子どもたちを眺めつつ
白石 俊平
(ゆるげぶ創始者の一人。この翌日インフルエンザA型が発症しました)


序文: ゲーデル、エッシャー、バッハを読むべき7つの理由


よしおか ひろたか
 この薄い本は、1979年に米国で出版され(日本語版は1985年)るやピューリッツァ賞を受賞し、科学書としては異例のベストセラーとなった「ゲーデル、エッシャー、バッハ Godel, Escher, Bach (GEBと略す)」という書籍について、あれやこれや記したものだ。

 GEBとはどのような書籍なのだろうか?。

 ゲーデルは20世紀の偉大な数学者である。エッシャーも同時代に生きた画家だ。バッハは18世紀の史上最も偉大な音楽家だ。では果たして、GEBは数学者と画家と音楽家についての本なのだろうか。

 著者のホフスタッターは、「GEB20周年記念版のために」という序文の中で、数学者と画家と音楽家についての本などではないとはっきりと書いている。「数学と美術と音楽が実は核心のところで同じものであることを明らかにする本」ということでもない。(GEB p.3)

 GEBは彼の言葉によれば「生命のない物質から生命のある存在がどのように生まれるかを述べようとするたいへん個人的な試みだ」という。「自己とは何であり、石や水たまりのように自己を持たないものからいかにして自己が生まれるか。「私」とは何なのか。(中略)GEBはゆっくりとアナロジーを組み立てることによってこうした問題に取り組む。」(p.5)

GEBは古くて、重くて、難しい。 
 GEBは随分古い本だ。GEBが出版された1970年代後半〜1980年代はまさに第二次人工知能(AI)ブームの最中。なぜ四十年近く前の「古典」をわざわざ読む必要があるのだろうか。
 クラウドも、IoTも、ビッグデータという概念すらなかった時代の著書を、なぜ現在(2017年)読まなければならないのか?GEBからは機械学習についても、ディープラーニングについても学ぶことはできない。
 簡単に理解できる代物でもない。難解で何回読んでもよくわからない。GEBを読むことが、現在の仕事に役立つわけでもない。
 おまけに、何か新しい知識を簡単に得られるということでもない。七百ページを超える大著だ。重さも一キログラムを超えている。とても気楽に読み進められるような代物ではない。

恋に落ちる
 私がGEBに出会ったのは、全くの偶然だった。 あるとき「スゴ本オフ」というイベントに参加した。スゴい本(略してスゴ本)をいっぱい読んでいる人も読んでいない人も、気楽に参加出来るイベントだ。下北沢のB&Bというおしゃれな書店で開催されたオフ会で、本棚の奥に隠れていたGEBを見つけて恋に落ちたのだ。その意味不明なタイトルに。そのサイズに。その重さに。その難解さに。

 ゲーデルもエッシャーもバッハにも興味がない。そもそもゲーデルなんていう数学者は聞いたこともない、名前も知らない。私は数学が不得意で、これまでずっと数学から避けて人生を過ごしてきた。音楽も苦手だ。楽器も弾けない。楽譜も読めない。絵心もない。デッサンもしたことがない。絵が上手くなりたい。楽器が弾けたら素敵だ。数学と和解がしたい。

 でもGEBを読んだからといって数学と和解できるかというとそんなことはない。楽器が弾けるようになるわけでもない。ましてやデッサン力がつくわけでもない。そんなことはわかっている。

 そんな私がGEBを読む理由はただ一つ、「恋に落ちた」ただそれだけだったのだ。GEBを読むべき7つの理由 コンピュータサイエンスや数学に関わる書籍である。私はそれらに対して強い関心がある。特にこの書籍は、それらのトピックに対して、極めて深い洞察と様々な見方で多層的に表現している。

 ゲーデルが発見した「不完全性定理」について述べている。数学は根本的に不完全でしかありえない、と証明したなんて最高にロックではないか。

 形式システムは実に興味深い。単なる記号列の操作が、気がつくと馴染みのある数論の世界と意味的にリンクする様は実にスリリングだ。

 知性とは何か、について考察している。人工知能がブームの昨今、知性や知能とはそもそも何か、についての議論は引きも切らない。そして1980年頃に出版された本書は、現在とはまた違った切り口から、知性について存分に述べている。大変興味深い。

 一生もので、役に立つ。先ほど「GEBは役に立たない」と述べた。しかしそれは日常業務や日常生活など、短期的なスパンで考えた時の話だ。私はこれまでの経験から、「すぐに役立つ本はすぐに役立たなくなる」という事を知っている。GEBはそういう意味では、「一生もので役に立つ本だ」と確信している。

 最後に、人生の意義がそこに記されているかもしれない。人生の意義なんて、本に書いてあるわけじゃないのはわかっている。しかしGEBの厚さ、広さ、深さ、難しさ。これと格闘しているうちに、人生の意義についての重要なヒントに出会う可能性は決して低くないと思う。

 GEBを読むべき7つの理由が実は6個しか挙げられていないことにあなたは気づいたと思う。最後の一つは、「あなたの理由」を記して完成する。そしてそれを記すためにあなたはGEBを読むことなる。それがGEBを読むべき7つの理由である。

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