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T-501 ヴェルヴェデーレのトルソ

石膏像サイズ: H.128×W.65×D.50cm(原作サイズ)
制作年代  : 紀元前1世紀頃
収蔵美術館 : ヴァティカン美術館
作者    : ネストルの息子、アポロニオス (Apollonios son of Nestor)
出土地・年  :  ローマ

この巨大な座像のトルソは、紀元前1世紀頃に製作されたローマンコピーと考えられています(原作は紀元前2世紀頃の古代ギリシャ?)。座っているポーズで高さが128cmですので、立ち上がった場合はゆうに2mを超える巨大な全身像となります。屈強な男性が、動物の皮を敷いた岩(?)の上に腰かけて休息しているような図像です。

動物の皮と、体格から、長い間この彫像はヘラクレスだと考えられていたのですが、近年の研究では必ずしもそうとは言い切れない可能性が生まれていて、研究者の間でも検討課題となっています。

台座正面の部分にサインが刻まれており、そこには「ネストルの息子、アポロニオス Apollonios son of Nestor」と書かれています。ただこの人物については、古代を伝えるいずれの文献にも記録が無く、製作者については現在でもはっきりしたことは分かっていません。近世まで、このトルソは紀元前1世紀頃のオリジナル作品であると信じられてきましたが、最近の研究ではさらに遡った紀元前2世紀頃の作品のコピー作品ではないかと考えられるようになっています。

発掘場所、経緯等は不明なのですが、このトルソが文献上に登場してくるのは教皇を輩出したこともある貴族のコロンナ家のコレクションとしてです。中世以降のイタリア半島で、最も初期に古代ギリシア文明を再発見した考古学者アンコーナのキリアコスが、コロンナ家のコレクションにこのトルソが含まれていることを示す文章を残しています。その後1500年頃から、このトルソのスケッチが流布されるようになり、古典・古代の復興(いわゆるルネサンス)のムーブメントを象徴するような存在となってゆきました。1500年前後には、Andrea Bregnoという彫刻家の所有物となりましたが、1527年のサッコ・ディ・ローマ(カール大帝の軍勢によるローマの大略奪)の際にもコロンナ家の宮殿に展示されており、ある程度の損傷の被害をこうむったという記録が残っています。

ヴァティカン宮殿に移動・収蔵された経緯については不明な部分が多いのですが、16世紀の中ごろにはヴァティカン宮殿内の”ヴェルヴェデーレの中庭”に設置され、アポロン像、ラオコーン像と共に展示されていたということです。

この彫像の上半身に”ひねり”の入ったポーズ、筋肉の様子は、盛期ルネサンスの巨匠であったラファエロ、ミケランジェロ、その後に続くマニエリスムの時代の芸術家たちに多大な影響を与えました。当時の教皇ユリウス2世が、ミケランジェロに対してこの彫像を修復し、腕、足、頭部を補足して完全な彫像にするようにという命令を下したところ、ミケランジェロは”このトルソの朽ち果てた姿は、十分すぎるほど美しい”として、その申し出を断ったという伝説が残っています。

ヴァティカン美術館収蔵 「ヴェルヴェデーレのトルソ」紀元前1世紀頃
(写真はWikimedia commonsより)


 

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