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S-228 ファルネーゼのヘラクレス頭像

石膏像サイズ: H.84×W.45×D.40cm(原作サイズ)
制作年代  : 190-210年頃(原作は紀元前350年頃のブロンズ像)
収蔵美術館 : ナポリ考古博物館
原作者   : リュシッポス(Lysippos B.C.390-310)
出土地・年 : ローマ・カラカラ浴場跡 1546年

古代ギリシャ神話の英雄ヘラクレスの彫像で、「ファルネーゼのヘラクレス」と呼ばれています。オリジナル作品は、紀元前4世紀頃にリュシッポスが制作したブロンズ作品ですが、そちらは現存していません。石膏像の原形となった作品は、古代ローマ時代の216年、カラカラ浴場に奉献するために複製されたもので、リュシッポスの原作を拡大したものと考えられています。1546年にカラカラ帝の浴場跡から発掘され、ローマの名門貴族ファルネーゼ家(教皇ポール3世などを輩出)のコレクションとなりました。 その後1787年に、他のファルネーゼコレクションと共にナポリに移動され、現在もナポリの考古博物館に収蔵されています。

強靭な肉体を持ち勇壮なエピソードに彩られたヘラクレスですが、この彫像では自身の棍棒にもたれかかって休息するポーズをとっています。左手を持たせかけている棍棒には「ネメアのライオン」の毛皮が添えられており、右手には「ヘスペリデスのリンゴ」を三個持っています。どちらもミュケナイの王エウリュステウスから与えられた「10の勤め」の冒険の成果です(ヘラの陰謀で狂気に陥ったヘラクレスは、自分の子と妻を死に追いやってしまった。その償いを神託に求めたところ、この10の勤めをすることを要求された)。刃物が通用しないネメアの獅子に対しては棍棒で殴って殺し、その毛皮を自分の鎧としました。ヘスペリデスの黄金の林檎は、百の頭を持つ竜ラードーンが守っていましたが、これを退治して入手しました。このような冒険をこなした後の、しばしの休息を取る姿を捉えた彫像なのでしょう。

現在ではほぼ欠損の無い状態に整えられているヘラクレス像ですが、これは研究者達によって段階的に行われた修復の成果です。頭部は、ローマ・トラステベレ地区の井戸の中から二つの部分に分かれて発掘され、胴体部分と接合されました。また両足はローマのボルゲーゼ家のコレクションとなっていましたが、1787年にこの彫像と接合されました。

発掘当初からこの彫像の名声はヨーロッパに響き渡り、Hendrik Goltzius(1588-1617 オランダの画家)などのナポリを訪れた旅行者の制作した版画によって、その姿が伝えられてゆきました。18世紀末になると、イタリア半島支配に成功したナポレオンは、ヴァティカン美術館のコレクションなどと共に、この彫像を熱望しパリへ移送しようと試みました。木枠による荷造りまで成されましたが、実際に移動されることはありませんでした。

ナポリ考古博物館収蔵 「ファルネーゼのヘラクレス」 ローマンコピー 原作は紀元前4世紀のブロンズ像 (写真はWikimedia commonsより)


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