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ディズニーランドのインタラクティブミュージックがすごく凄い

動的な音楽演出「インタラクティブミュージック」オタクのgeekdrumsと申します。オタク視点から見たディズニーランドの音楽演出、とくにエレクトリカルパレードで感動したので語彙力が尽きるまで解説しようと思います。

こちらの記事が含まれる、インタラクティブミュージックの連載はこちら。
どの記事も単体でお読みいただけます。


ゲームでは「フィールドで音楽が鳴ってる」って当たり前すぎるんですが、現実世界でそのような体験ってなかなか無いですよね。自分がゲームのそういった演出の話をすると、よく「ディズニーランドの音響もすごい」という話を聞くので、前から気になってました。

ただ、行った人に「エレクトリカルパレードの音楽演出ってどうなってるんですか?」と聞いても、あんまり具体的に答えてくれる人はいなくて、皆さん「なんかちゃんと合ってますよ」みたいな曖昧な回答しか得られず、まぁ「ゲームみたいに動的に変化するわけじゃないし、難しくないのかな」などとたかをくくっていました。

結論から言うと「エレクトリカルパレードの音楽制御、やばすぎるやんけ。聴いたこと無いぞこんな手法!?」と耳からウロコが落ち続ける体験をしました。

音楽に合わせて進行するパレードと言ってしまえば簡単なのですが、とにかくすごい。見たことない工夫だらけでした。

※自分はまだ1回しか見ていないので、間違っている認識もあるかもしれません。ディズニーランド常連の方でもっとお詳しい方がいらっしゃいましたら、ご指摘いただけると幸いです。


「フロート」スピーカーと「配置」スピーカー

公式サイトの表記

によると、パレードを移動する一個ずつの車?は「フロート」と呼ばれています。それぞれのフロートから音楽が奏でられているので、
これを「フロート」スピーカーと呼ぶことにします。

それ以外にも、ディズニーランドには園内のあちこちに自然にスピーカーが配置されており、パレード以外の時はその場所にあった音楽を流していて、パレード中はパレード用の曲を同時に流しています。
これを「配置」スピーカーと呼ぶことにします。

大前提として、パレード時はこのフロートスピーカーと配置スピーカーが、すべて完全に同期して、いろんな曲のパーツを再生しています。


音速が有限な世界

現実世界で音楽演出をする上で、まっさきに心配になるのが「音速」です。

ゲーム世界ではどこで出た音も一瞬でプレイヤーに届ける事ができますが、現実の音速はたかだか340m/秒程度。何十メートルにもおよぶパレードでは、50m離れた所から聞こえる音が0.14秒くらいズレるという大問題が発生します。

しかし、実際体験してみるとこの心配はほとんど杞憂でした。50m先で鳴っている音はそんなに聞こえません。それよりも、目の前で鳴っているフロートスピーカーからの音量が結構大きいので、それより遠いフロートからの音は(実際音速の分ズレていても)無視できるレベルになります。


世界観の違うフロートスピーカーによる音楽変化

フロートはそれぞれに違った世界観を持っています。トイ・ストーリーだったりミッキーマウスだったりアナと雪の女王だったり美女と野獣だったり。

当然ながら、これらの多彩な作品はそれぞれ違った音楽性があるので、全部のスピーカーが同期しながらも、それぞれの作品に合ったアレンジが施されて、まったく違った空気感が味わえるようになっています。

フロートごとのアレンジ変化による縦の遷移
ピーターパン→トイ・ストーリー

↑の動画だと、アレンジというかもはや別曲みたいになってますが、ちゃんとベースにエレクトリカルパレードが鳴っていても違和感ないように同期して流れています。

同じような「アレンジの変化=縦の遷移」を使った演出はゲームでもよく用いられており、馴染み深いものでもあります。

ゲームの場合は常に1つのBGMが鳴っているのに対して、パレードでは「常に複数のBGMが重なっており、いい感じに音が距離減衰する間隔を保ったまま音源が移動する」という方式で現実世界でこれを実現しています。


場所によって違う時間軸を見る「パレード」

「パレード」と「音楽」は、どちらも時間に沿って進んでいく性質がありますが、「パレードをしながら音楽が進む」というのは、考えてみると意外と面倒なことがわかります。順を追って図解してみます。


まず、フロートはそれぞれ違うアレンジの曲になっており、これを単体で見ると、同じ曲をずーっと繰り返しているだけになります。


しかし、見ている人にとっては、フロートがAから順番に現れてはクロスフェードしていって、順番に展開していく一つの曲のように聞こえます。
(この意味では、手法は縦の遷移だけど一方通行で進んでいくので、横の遷移の演出のように聞こえる、という奇妙な表現ができます)


さらに、パレードは見ている場所によって進行度が違ってきます
先頭のフロートではようやくイントロが始まったばかりなのに、最後のフロートが通ってアウトロを聴いている所も同時に存在しています。


パレードを見るために道で待っている人たちから見ると、同じ曲を場所ごとに少しずつズラして聴いているような感じです。


フロートと鑑賞者、2つの時間軸が独立して存在しており、一人がイントロを聴いている間にもうひとりはアウトロを聴いている……固定の曲のように順序だてて音楽的展開を作っていて、かつ、鑑賞位置によって違う音楽的時間が同時に存在している……!!などと、ディズニーキャラそっちのけで考えてる音楽演出オタクは、あんまりいないのかな、皆この凄さに気づいてる!?とか思いながら感動していました。


そしてここまでは実は基本編で、ここからがさらに面白いと思ったところ。
移動しながらクロスフェードで進行する、という仕組みの弱点を補うように、さらなる工夫が施されていたのです。


1,クロスフェード時に共通のパーツを挿入する

こちらはエレクトリカルパレードには無かったですが、昼間のパレードにあった工夫。

クロスフェードしている関係上、どうしてもフェード中は両方の音楽が混ざってあまり聴き心地の良いものではなくなってしまいます。

そこで驚いたのが、「全部のフロートが同じパートを流す」場面を定期的に挟むことで、一体感を作り出す演出。

こうすることで、(聴く場所にもよりますが)2つのアレンジが混ざって聞こえる状態を減らし、あたかも、一つの音楽として連続的に変化しているような印象を作り出していました。


2,配置スピーカーでイントロとアウトロを挿入

さらに感動したのが、イントロとアウトロの実装方法。

フロートの音楽は徐々に近づいてくるため、最初と最後はどうしてもフェードイン、フェードアウトになってしまいます。でも、パレードだし仕方がないんじゃない?と思っていたら、

「配置スピーカーあるからこっちをフロートと完璧に同期させてイントロでもアウトロでも流せばいいんじゃない?」というアクロバット的な解決を見せられて耳から鱗が落ちました。

こんな感じで、フェードイン・アウトしてくるフロートとは独立して、
ちょうど前を通るフロートと同期するようなパーツが常に流れています。

これをパレード全体として見るとさらに大変で、一箇所でアウトロが流れてもまだ終わっていない所もあるし、一箇所でイントロが流れてもまだ来ていない所もあります。おそらく、配置スピーカーごとにイントロ、アウトロを流すタイミングを1ループずつずらす事によって、どの位置でパレードを見ていようと、その場所のタイミングでイントロからアウトロまで1曲が繋がるという仕組みなのではないかと推測しています。

多分、パレードを一番後ろから追っていくと、何度もアウトロを聴くこともできるのではないでしょうか?


1フロート分進む時間=音楽のループ時間?

こちらは測ったわけではないので推測ですが、おそらく、各フロートの曲が1ループする間に次の配置スピーカーに到達するように厳密に速度を制御しているのではないでしょうか。そうした方が、配置スピーカーの制御を1ループずつずらす、などの計算が単純化されると思うので。ただ、遠くの音って結局聞こえてこないので、意外とズレててもなんとかなってるのかもしれません。

万が一(なにか安全上の問題で)、途中でパレードが止まってしまったり、演者の都合でフロートが一個欠けた!なんてことになった時に、どのようなオペレーションで復帰するのかは個人的に気になるところです。全部の曲が固定だと、配置スピーカーの同期は諦めて切る、みたいなことになりかねませんが、多少の変更は耐えられるような柔軟でリアルタイムな仕掛けがあったりするのでしょうか……気になります……気になりませんか……?


すべての音楽はエレクトリカルパレードになる

そもそも、アレンジ変化の範囲で任意のディズニー作品曲に遷移できる、という音楽そのものがすごくないですか。作曲は専門ではないのでアレですが、コード進行とかどうなってんの?わりと無理やりやってるの?どんな曲でもエレクトリカルパレードに重ねて何とかなってるのが凄い。もう全てはエレクトリカルパレードと言っても過言ではない。お前もエレクトリカルパレードにしてやろうかという勢い。


ディズニーは音楽演出の宝庫

音楽に完璧に合わせたアニメーション(あるいは、アニメーションに完璧に合わせた音楽)が俗に「ミッキーマウシング」と呼ばれるほど、ディズニーと音楽は切っても切れない関係にあります。ミッキーが指揮棒を振る「FANTASIA」なども有名ですね。

アニメーションと音楽が融合した時の力をもっとも初期から意識的に応用し、積み重ねてきた技術が詰め込まれています。

今回ご紹介したのはパレードのみでしたが、各アトラクションも音楽的な演出の工夫は随所に見ることができました。音楽に包まれる魔法の国を、是非体験してみてはいかがでしょうか。


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著者のTwitterはこちら。ゲームの音楽演出について研究・解説したりゲームを作ったりしています。


追記:もっと詳しい記事がありました

ディズニーなのでもっと詳しい人がいるだろうとは思ってましたが、この記事はもはや中の人なのでは……?なんで入出力フォーマットとか位置検出方式とかまで書かれているのか謎ですが、とにかくさらに知りたい方はこちらの後半「音響編:ディズニー、音響へのこだわり」をご覧ください。

答え合わせとしてはなんと、配置スピーカーのシステムはリアルタイム制御されており、フロートの位置を検出してイントロ・各フロートのアウトライナーをクロスフェード・アウトロまでを行い、途中でフロートが止まったり欠けたりしても途切れること無く進行する仕組みのようです。

さらに、

・フロートは指向性スピーカーを利用しており、通り過ぎた後は急速にフェードアウトする。

・イントロの挿入タイミングは、フロートが見えるタイミング(直線状の道だと遠くから見えるのでより早く)で調整している。

・フロートと配置スピーカーの相対距離で音量バランスまでもリアルタイムに調整している。

などなど、ちょっと何を言っているのかわからないくらいの技術と調整が注がれているようです。ディズニーランド、恐るべし……!

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