一人で勝手に死ぬ前、90年代とスクールカーストを語る (実話本編6)小学生編最終話

小学生編最終話・卒業式と漫才
時代-『一人ごっつ』
 嫌な方向への変化が多い中、昔から変わらない子もいる。峰くんだ。ある日、学習の一環として一年生のクラスで子どもが興味を持てるような劇や、本の読み聞かせなどを披露する課題が課せられた。週毎に分かれていて、最初に本の読み聞かせをした班は玉砕されたとようだ。当然の結果だと思う。たどたどしく絵本を読む上級生より、周りの子たちとおしゃべりしているほうがずっと楽しい。それでも初めから内容が決まっている絵本の読み聞かせが一番楽で、ほぼ全ての班が絵本を選んだ。それが繰り返されるうちに一年生の退屈パラメーターはピークに達し、教卓に立つ上級生は居ない者として扱われているらしい。そんな向かい風が音を立てて吹き荒れる中、同じ班になった峰くんが一つの提案をする。
「相方! 漫才やろう。俺、セリフ作ってあるから」
 そう言って、白紙の紙に鉛筆書きされた台本を手渡した。
 低学年の頃と違い、峰くんの家へ遊びに行く回数は減っていたが学校では顔を合わせるとじゃれ合うような仲だった。峰くんはいわゆるムードメーカー的な存在で、恋愛対象にはならないけど誰からも好かれる素質を持っていた。『ごっつええ感じ』だけではなく、深夜の『一人ごっつ』も欠かさず見ていると言う。『一人ごっつ』を夜中に起きてまで見ている小学生は、峰くんぐらいだ。
 お笑いマニアの峰くんもは、人を笑わせることに快感を覚えたのだろう。その快感を私も共有していた。入学式で「デブ」と言って、クラス中が笑いに包まれたあの快感を味わえるなら漫才というやつをやってみたい。
 台本によると峰くんがボケで、私が突っ込みのようだが、なんともストレートなボケと突っ込みだった。
「コーラ一つお願いします」
「すいませんコーラはありませんが、茶色くてシュワシュワした飲み物ならあります」
「それがコーラだろ!」
 声に出すのが恥ずかしいほどベタなボケと突っ込みだが峰くんは至って真剣で、二人でスラスラ言葉が出るまで練習を重ねた。
 そして本番の朝を迎える。
 一年の教室のドアを開け、挨拶をするが清々しいまでのシカトの洗礼を受けた。無能な上級生がしつこく”読み聞かせ”を続けてきたのだから、無理もない。
「僕たちは漫才をやります! 聞いてください。漫才!」
 峰くんは「漫才」と口にしたけど、一年生に意味は伝わっているだろうか? 私が小1のときは、そもそも漫才という単語そのものを知らなかった。だけど、きっと上手くいく。台本だけでは面白みが無いと感じていた私には、ある秘策があった。
 どうせボケならハリセンや『シティーハンター』のハンマーみたいのを使いたい・・・・・・。ハンマーだと峰くんが即死なので、自宅からクッキー缶の蓋を持ってきていた。入るときから背中に隠して持っていたので、ちびっ子たちも気がついていない。
「すいませんコーラはありませんが、茶色くてシュワシュワした飲み物ならあります」
 峰くんのセリフが終わった刹那、背中のそれを取り出し思い切り峰くんの頭を叩いた。
「それがコーラだろ!」
 缶が凹む大きな音がした途端、クラス中が笑いに包まれた。好き勝手に話をしていた子たちは私語を止め、キラキラした目で私たちを見ている。場の空気を完全に掴んだ、後はとちらずにベタなボケとツッコミを堂々とやり抜く。
「透明で、泡がシュワシュワしている飲み物ならありますけど・・・・・・」
「それが、サイダーやろうが!」
 缶の蓋が凹む音が、笑いで掻き消されていく。立て続けに笑いが巻き起こり、余った時間でみんなは漫才をアンコールした。
 家へベコベコに凹んだ蓋を持って帰ると、母にグチグチと文句を言われた。どうやらクッキーが無くなったら、裁縫の道具入れにしたかったらしい。すっかり気分が良くなっている私は母の言葉など気にせず、頭の中でセリフを反芻していた。
「すいませんコーラはありませんが、茶色くてシュワシュワした飲み物ならあります」
 恥ずかしいほどベタで、プロのお笑いならまず言わないワンフレーズ。
そんな使い道の無いフレーズで未だに笑えるのは、この世界で私と峰くんだけだろう。
 
 月日はあっという間に流れ、学級崩壊が続いたまま卒業式を迎えた。担任は学校を離れ、しばらく求職するらしい。仲の良かったグループは中学受験で離れ離れになるけど、それを知ったのは卒業する間際だった。ノリと峰くんは地元の中学へ行くと言うので、ちょっと安心した。
 卒業式では予め録音しておいた将来の夢を語るテープが流れ、そのとき初めて峰くんの夢を聞いた。峰くんの夢は吉本に入ってお笑い芸人に成ることで、流れたと同時に保護者たちの笑い声が響いた。保護者たちは成れないと思っているから、笑ってんのかな?
 ノリくんと自分の夢がなんだったのかは覚えていない。確か、私の夢は生物学者か獣医さんだったと思う。卒業文春に夢は書いてあったのだろうか? 
 アルバムに自分は笑顔で写真に映っていたのだろうか? 今となっては全く思い出せない。
 この日から二年後、ナイフで切り裂いて燃やすのだから。
小学生編・END

(小学生編・あとがき)
以降の更新は反響次第となりますが、一週間の超短期集中連載させていただいた本編は放置します。
 この頃くらいまで割といい話もあったりするんじゃないでしょうかね? 
 私では気がついていない人生の分岐点を、読んだ人なら見つけられるかもしれません。人生の分岐点を私の代わりに、探してやってください。小学校の高学年あたりから、子どもたちに変化が見られると思います。そこからエスカレートした人たちが、スクールカーストを形成していきます。
 女性の読者様は、男子の現実を見ていただければと思います。リコーダー舐める男子は気持ち悪いなって、思うんですけどそういう奴がこの先モテたりします。逆になにもしていない私は、この先の中学で、廊下を歩いているだけで女子から「キモイ」とか言われるようになります。悪いことをする奴のほうがモテた時代なんですが、今もそうなんですかね? 残念です。
 試験的に一週間の連載で小学生編を載せたのですが、小学生編だけで結構な量の原稿になりました。修正箇所が多くて、吐きそうでした。
本ではなくネットでノンフィクションに挑戦した理由は、固有名詞が出せるからです。出版物だと色々厄介みたいですね。

 “異世界転生”が流行っている時代に、ジャンルとして活字が多い純文学系やノンフィクションは初めの時点でスルーされます。
 そそもそも”スクールカースト”とか”貧困”とかそういう社会問題をノベル化しようとすると、読み物でまで暗くなる話なんか見たくないというのが世の中の意見です。
それでもなにかの切っ掛けでここまで見ていただいた方々は、変わっている人かコアな人なんだと思います。そういうコアさが、スマホがない時代のネットっぽくて私は好きです。
 当時の描写ですが、これでも結構削っています。
若い子は時代特有のものはわからなかったでしょうが、小学生から中学生に成るまでの心境変化を追っていただけると幸いです。強調しますが、スクールカーストやイジメの体質はそんなに変わっていません。ネットで話題に成っている迷惑行為だって、BPOが強くない時代に昔のテレビでがんがんやっていました。オススメしているのではなく、時代が変わっても本質は変わらないという意味です。
 病んでいる人や引きこもりを支援しようとしている方々を見かけましたが、この先も貫いてくれることを願います。
 たまに推薦図書とかの記事を書いたりするかも知れませんし、書かないかもしれません。
 若い子へのアドバイスは下記記事を参照していただければと思います。
https://note.mu/geekmogura/n/nb1202378a1a1

noteは当時のMixiコミュニティーが盛り上がっていた時代に似ていると感じます。
記念パピコ(死語)あってもいいですが、「山田死ね」とか、その手の書き込みはフリじゃなくて止めてください。『ボキャブラ天国』で9位に固定されていた出川哲郎さんみたいな、フリじゃないです。

Twitterとかはアカウント作っただけで、基本やっていませんし、それにも関わらずこのページへ来た数少ない皆様は、なんかの縁があったのでしょうね。
フォローとか”いいね”とか関係なく、ここまでありがとうございました。

山田 葉介
中学生編 最悪の日々が始まる先行話は以下

https://note.mu/geekmogura/n/n7dad02c26ad1

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へえー 1へぇ
15

山田 葉介

1990年代実体験を一週間テスト連載。スクールカースト形成前の小学生編 1話 https://note.mu/geekmogura/n/n75d2abc95872  連絡用Twitter https://twitter.com/Geekmogura

一人で勝手に死ぬ前、90年代とスクールカーストを語る

東京のような神奈川のような街で起こるノンフィクション
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