アニメ「ゲゲゲの鬼太郎」傑作五選(第1期&第2期)

 みんなー、鬼太郎観てるー? おれは観てる。
 このあいだTwitterで1期から6期までの名エピソードを、それぞれ5話ずつ選出したんだけど、それがびっくりするほど反響が薄かったんだよね。おれは思ったよ。さてはこいつら、鬼太郎観てねえな? おれは怒った。
 知ってのとおり、鬼太郎はこれまで6回(墓場鬼太郎を入れたら7回)アニメ化されているんだけど、原作のエピソードは無論有限。しかし、そうであるからこそ、その有限性のなかで各シリーズがそれぞれの味を出すことに腐心するわけで、たとえ同じエピソードがアニメ化されても、時代背景や各期の特色によって、まったくちがったアプローチがなされる、それがアニメ版鬼太郎の魅力なんだ。
 なので、アニメ版鬼太郎を最大限に楽しむには、それはどう考えてもまずは原作を全部読め、ということになる。ちなみに私は脳細胞が最も活発だった時期に原作を再読三読四読五読……(以下略)したおかげで、台詞のひとつひとつ、版による背景の異同とかまで完全に暗記してるんだけど、ま、そんなのは所詮、エコノミック・アニマルたるきみたちには、無理だ。せいぜい仕事終わりの疲れた身体に、コンビニ弁当と缶チューハイでも摂取しながら、録画したアニメでも観るのが関の山だろう? 
 そんなチミたちの、せめてもの癒しになればという思いで(うそです、ほんとは、私がただ好きだから)、各期の名エピソードを5作、解説つきで選んでやった。尊いね。今回は手始めに1期&2期からいくよ! 各期の全体的な特徴もそれぞれあわせて紹介するから、ちゃんとノートにまとめるように。

第1期(1968年1月3日 - 1969年3月30日)
 全65話。モノクロ作品。原作のエピソードを、雰囲気まで含めて相当忠実に再現している。ほとんどの話を、鬼太郎、目玉おやじ、ねずみ男の三人だけでまわしており、彼ら(の声を担当するレジェンド声優、野沢雅子、田の中勇、大塚周夫)のやりとりを聴いているだけで楽しい。特に大塚周夫のねずみ男は絶品である。後のシリーズではメイン扱いとなる猫娘、砂かけ婆、子泣き爺(地味に永井一郎が声をあてている)などの鬼太郎ファミリーはまだゲスト的な役割で、出てくるたびにデザインがちがっていたりするのも一興。そしてこの第1期と続く第2期最大の魅力といっても過言ではないのが、伝説的作曲家・いずみたくによるBGM。オーケストラを使った重厚な音楽にはファンが多く、私もそのひとり。サントラをいまだに聴いている。この初アニメ化が第一次妖怪ブームを巻き起こしたのは周知の事実だが、後半になると、ブームそのものへの言及があったり、最初は無名だった鬼太郎がファンにサインをせがまれるようになったり、ねずみ男がそれに嫉妬したり……といったメタ的な視点が入ってくるのもおもしろい。

第1期の傑作5選(順不同)

1 妖怪大戦争(前編・後編)
 鬼太郎率いる日本妖怪(砂かけ婆、子泣き爺、一反木綿、ぬりかべ)と、日本征服を目論む西洋妖怪たちとの死闘を描く。おおむね原作に沿ったシリアスな展開で、鬼太郎、目玉おやじ、ねずみ男の三人を除く日本妖怪勢は全員戦死する(後のエピソードでしれっと復活しているが)。特筆すべきは原作では一反木綿以外描かれなかった彼らの死亡シーンを映像化しているところで、砂かけ婆が吸血鬼の集団に惨殺される、とかここでしか観られませんからね。戦争って結局、数なんだな、と思わされる。
2 吸血鬼エリート(前編・後編)
 著名人ばかりを狙う吸血鬼と鬼太郎との死闘を描く。これもクライマックス以外は原作どおりの展開。死闘ばっかやんけ、という感じだが、今回、鬼太郎はエリートによって溶かされて早々に死亡。と思いきや、リモコン下駄を操って相手を執拗に(主に精神面で)追い詰める。こういう陰湿な攻め方をするのも鬼太郎の魅力なわけだが、本作いちばんの見所は、なんといっても吸血鬼エリートとねずみ男の邂逅シーン。エリートの爪弾く軽快なギターに合わせてねずみ男が踊りまくる(なぜかフラメンコ調)。繰り返し観たい名シーンといえる。
3 さら小僧
 川に住む妖怪さら小僧が、自分の歌を盗んだミュージシャンたちを隠れ里に誘拐してしまった。さら小僧は滅茶苦茶強くて怒ると手がつけられないので、鬼太郎はなんとか穏便な解決を試みるが……。ほぼ原作に準ずる展開だが、さら小僧の歌に自身の弱点(お皿が割れたらダメだべさ)が隠されているというアレンジが加わっている(原作では鬼太郎をボコボコにしたさら小僧がねずみ男のマントの悪臭で発狂する)。笑えるのがさら小僧の声をなぜか内海賢二があてているところで、小僧の名に似合わぬ、ドスの効いた演技を披露している。だれかほかに適役がいなかったのだろうか。
4 おぼろぐるま
 喫茶店でチンピラに絡まれたところを鬼太郎たちに助けられた漫画家・水木は、彼らを居候させることに決めるが、折りしも原因不明の怪気象が調布市一帯を包みこみ、町は妖怪たちに占拠されてしまう。鬼太郎は怪気象の原因を探るべく、妖怪たちのボスぐわごぜの愛娘カロリーヌに接近するが、秘密兵器おぼろぐるまによって石にされてしまう。3期では劇場版としてリメイクされたエピソードなのだが、これほど充実した展開を前後編にもせず、よくもまあきれいにまとめたな、という感じがする。けなすところのない傑作で、鬼太郎作品数あれど、最終回にもっともふさわしいエピソードではないかと思っている。
5 海じじい
 全65話中、この「海じじい」と続く「なまはげ」のみ、鬼太郎以外の短篇をリメイクした作であり、特にこのエピソードは、演出をなんとあの高畑勲が手掛けている。そのせいなのかなんなのか、ぜんたいにどこか珍妙なアトモスフィアがただよう怪作となっている。ねずみ男のデタラメな呪文がなぜか効果を発揮してしまう前半部は原作の短篇どおりだが、後半部、鬼太郎と海じじいの対決はオリジナルの展開。度肝を抜かれるのは、鬼太郎がテレビの料理番組から海じじいの退治方法を思いつくというくだり。海じじいはクラゲの妖怪……そうか! 海じじいの弱点は三杯酢だ! ってその発想、天才か? ちなみに1期では「妖怪獣」のエピソードにも浦島太郎のようないでたちの海じじいという妖怪が登場するが、おそらく同名の別個体なのだろう。  


第2期(1971年10月7日 - 1972年9月28日)
 全45話。鬼太郎、目玉おやじ、ねずみ男の声優は第1期から引き続き、野沢、田の中、大塚の三人が担当。今期から猫娘がレギュラー化するが、びっくりするほど可愛くない。第1期より、砂かけ婆、子泣き爺など鬼太郎の仲間たちの活躍が増え、ゲゲゲの森や砂かけ婆の妖怪アパートといった後のシリーズにも踏襲される重要概念が確立される。第1期の正統的続篇という位置付けのため、既存エピソードのリメイクはなされず、鬼太郎以外の水木作品を転用した作品が全体の約半分を占める。そのため第1期にあった勧善懲悪的ムードは減退し、鬼太郎が単なる傍観者に終わったり、海外出張する話も多い。怪奇色、風刺色が強く、総じて高い質をキープしたシリーズといえる。古参の鬼太郎ファンには2期オタが多い。

第2期の傑作エピソード5選(順不同)

1 かまぼこ
 鬼太郎ほどいろんな敵にいろんな負け方をしたヒーローもいないだろう。水木プロはギネスに申請するべきだと思うが、このエピソードではタイトルのとおり、半魚人によって鬼太郎がかまぼこにされる(詳しい事情は省略する)。かまぼこになって売られてしまった鬼太郎を回収すべく、仲間たちが目玉おやじの金(借金)を手に全国の魚市場やスーパーマーケットをまわるシーンは涙なしには観られない。そして復活した鬼太郎の半魚人への復讐がとっても陰湿。溜飲が下がる。
2 南からの招き
 ニューギニアの奥地でテレパシー能力を持つ怪物が発見される。調査団が組織され、その一員である疋田青年は毎晩見る奇妙な夢に悩まされていた。彼の相談に乗った鬼太郎は先述の怪物に手掛かりありとみて、調査団に同行することになるが……。同名短篇のリメイクであり、鬼太郎はほとんど傍観者にとどまる。物語のラスト、ゆえあってニューギニアに残ることを決めた疋田青年を、鬼太郎が池のおもてをながめつつ思い起こすシーンは素晴らしく抒情的で、何度観ても泣いてしまう。
3 逆餅殺し
 鬼太郎サーガに強敵数多あれど、本エピソードにおいて鬼太郎と対峙する妖怪・火車ほど強い、というかほぼ無敵に近い相手はいないのではないか。原作にほぼ準拠した展開だが、これはもう、原作に近ければ近いほどいいのです。鬼太郎も完全敗北した火車を完膚なきまでにやっつける目玉おやじの秘技・逆餅殺しを拝むためだけにある回。火車ならずともトラウマ必至。幼き日の私に集合体恐怖症を植えつけた。
4 地相眼
 いろんなところで言及されることの多いエピソードで、二期随一のトラウマ回として誉れ高い。地底に住まう魑魅魍魎の世界に迷い込んだ男が、大地に関するすべてを知ることができる地相眼を手に入れ大成功するが、数年後、地相眼の管理者を名乗る妖怪(巨大な蚯蚓)が男の前に現れる。失われた地相眼のかわりに、彼の息子を地相眼にするというのだ。やはり鬼太郎が傍観者に徹する話で、息子が地相眼に変えられるシーンでもなにもせず、ただ立ちつくすのみ。後味が悪いというのとはすこしちがうのだが、観るたびに異なった感慨をおぼえる。いまの私にとっては、地相眼になることを選んだ彼の空虚がちょっと恐ろしい。必見である。
5 足跡の怪
 いろんなところで言及されることの多いエピソードで、二期随一のトラウマ回として誉れ高い。タイタンボウという神様の神域を荒らしたふたりの男が祟りにあう。その祟りの描写が怖すぎる。ネットでタイトルを検索すると画像がたくさん出てくるのだが、まずはなんの情報も入れず、騙されたと思って観てほしい。例によって鬼太郎はなにもしない(というか相手は目に見えない神様だから、どうしようもない)回で、スタッフもさすがにこれはまずいと感じたのか、最後だけとってつけたようなハッピーエンドになっているのが逆に不気味。必見である。

 ということでみんな、鬼太郎観ような! Amazonで1話100円で観られるし。次は3期&4期編を準備しているよ!  

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