温 vs 相田奈緒(20181216)
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「いい歌バトル」1試合目
温 対 相田奈緒
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(じゃんけんの結果、相田さんの勝利。後攻を選択)
――――では先攻、温(あたむ)さんの推したい歌を開いてください。
温:じゃあ一つ目だけどこれにします。
相田:!
――――これは・・・「●」がついているということで発表年度に関係ない、温さんが推したい歌ということになります。今年発表の歌ではありません(笑い)。
では評をお願いいたします。
温:
「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日/俵万智
えっと…まぁ、短歌というものの中では世間的にいちばん有名なんじゃないかと思う歌ですけど、あらためて読んだときに、短歌としてすごくいいなと思いました。なにが良いって、世間的にどう受け止められてるのかは分からないんですけど‥‥ばかな歌なんですよね。基本的に。頭の中がお花畑になってしまった人の歌。
この味がいいね、って褒められたときに「嬉しい!」っていう反応をとるのと比べて、「じゃあ今日を『サラダ記念日』にしよう!」っていう発想。思考回路のばかさ加減。これがこの歌のいちばんいいところだと思っていて…「7月6日」という日にちや、「サラダ」という食べ物、のチョイスが音的にも意味的にもおもしろいんですけど、「サラダ記念日」を作ってしまおう、というところがまずはこの歌の眼目だと思います。
僕はまだ生まれてない時代の歌です。まぁバブルがブヮ~って来てるときの幸せなキラキラ感。その本質って、言葉では語りつくせない飛躍や、爆発感に象徴されると思っていて、この歌はそれを完全に体現しちゃってる。
「この味がいいね」と言われた→じゃあその「記念日」を制定してしまおう!と思うばかさ加減……今何分ですか?
(睦月「ちょうど2分です」)
あと1分ある…のでじゃあ、「サラダ」っていうチョイスにも触れていきたいんですが、有名な話だとまぁ、ほんとは『から揚げ』だったんだけど3音、の「サラダ」にしたっていうのがありますね。3音だったら他の物でもよかったはずなんだけど「サラダ」にするチョイス。
添え物あつかいの「サラダ」、メインじゃなく端の、小さい小さいもの…を「いいね」と褒めた側も、そんな大した気持ちではなかったかもしれない。鳥のから揚げに対する「これいいね」に比べて、ちょびっとした気持ちだと思う、そのちょびっとした瞬間に対して記念日を制定することで、この人とこういう日常を過ごしていける喜び…がバン!っと際立っていると思います。
――――はい。ありがとうございます。後半1分・・・くらいから、実はちゃんと聞いたことはない角度からの読みになったのかなという印象です。
で‥‥は相田さん、この歌に対しての3分間の質問等があればお願いいたします。
相田:はい、すごい歌を持ってきたな、と聞いていました。めちゃくちゃ有名な歌。
後半おっしゃっていた「サラダ」が添え物だからこそ「記念日」との対比として効いているというのは納得しました。技術的に優れているというのは納得しつつ、この〈ばかさ加減〉ですか。カップルのばかさ加減、お花畑感…っていうのは、わからなくはないですが、わたしはこの歌の主体の人の真顔で言ってる感じが、なんだろう……怖い…まではいかないですけど「え、本気で言ってるのか」と思ってしまうんですけど、温さんはそういうふうに読まれましたか。
温:「サラダ記念日」っていう言葉に主軸を置くとハッピーなほうにいくんですけど、一方で相田さんのいう「真顔」もなんとなく分かって。というのは、短歌で「説明しちゃってる」歌だからなのかなぁと。「」を使ったり、「~と言ったので何々」みたいな説明口調がこの歌をそうさせている。でも最後の「サラダ記念日」というワードのトんだ感じってのが、この歌を説明だけの歌にしていないと感じますね。
相田:そう……、そこの、そういう読みを温さんがしたうえで、それで「何」を推したいか聞きたいというか…どこが好き?(笑い)
理屈はわかるんですけど…正直あんまり好きじゃない歌というのも私はあって、その…
好きですか、この歌、
温:好きですね…。いい意味で、ばかな人が詠む歌だなあと思います。「言ったから」のなんかとぼけ具合、がむしろ技巧的に見てしまったり、「本心か?」となってしまうというのはけっこうこの歌に対してのクリティカルなんですけど…
(睦月「3分経ちました」)
…最後 肯定して終わってしまいましたね
――――(笑い)
先攻の時間が終わりまして…では後攻、相田さんの推す歌をひらいてください。
相田:はい。こちらです。
―――――では評をお願いいたします。
相田:
自分がステキになっていくのを感じてる レンジで爆発するウインナー/武田穂佳
これは今年の、「ねむらない樹」に掲載されていた歌です。この「ステキ」ってすごくないですか…っていう。それで、ここに持ってきました。
「自分がステキになっていくのを感じてる」…ってなんというか、口に出して言ったりはしないけど、みんなどこかで経験がある、心当たりのある人が多いんじゃないかと思っててですね。「そんなの感じたことないよ」って人もいるかもですけど意外とみんな、黙ってるだけで感じたことはあるんじゃないかというのを、この歌を目にしたときに思った。というのがあります。そんな急所を鋭く刺してくる。まっすぐ刺してくる、っていうのが武田さんの歌の特徴としてあると思っています。
「自分がステキになっていくのを感じてる」って、やや客観的な言い方にはなってるんですけど、乖離して遠くから自分を眺めてる…ってほどではなく、わりと熱量を持ったまま自分を見ている感じ。
下句の「レンジで爆発するウインナー」もすごく良くて、この爆発。この熱量。すごいステキだなと思います。爆発最高。
(睦月(笑い))
相田:(笑い)・・・「ステキ」がカタカナなのもいいと思っています。カタカナにすることで熱量が‥‥客観視してるところはクールなんですけど、そのまま熱量が伝わって来る感じ。
(睦月「あと45秒あります」)
相田:45秒…、はい。「レンジで爆発するウインナー」って、ちょっと温めすぎている「失敗」なんですけど、自分がステキになっていくのを感じてる状態においてはそんなのは失敗でもなんでもなくて、純粋な爆発になるというか。すごい…なんですかね。「良い」とか「悪い」とかじゃない。「パワー」みたいなものとして受け取っています。
――――ありがとうございました。「純粋な爆発」。それでは温さんの質問の時間です。3分間、どうぞ。
温:えっとじゃあまず上の句について訊きたかったのが、カタカナの「ステキ」で自分を肯定する感じ…っていうのを相田さんは珍しく感じた、のかなぁというふうに受け取ったんですけど、僕はむしろ、広告とかではよく見る表現かなと思ったんです。ルミネの広告とかってまさにこのテンションだと思うんですよ。(相田「あー、」)
「レンジで爆発するウインナー」があるので、この歌はルミネの広告になってないと思うんですけど…
上の句だけで言ってみるとそのあたり、どうですか。
相田:そこは、「ステキ」がカタカナであることで回避できていると思います。カタカナの「ステキ」は基本的にダサいと思うんですよ。なので広告の感じではない。もちろんあえてやってると思うんですけど、カタカナにしても「ステキ」が保てているということは本当に素敵だから・・・というか(笑い)
広告的ではないものを、ダサさを入れることで手に入れているんだと思います。
温:ダサさを差し色にして…というか、マックスなキラキラ感に異化してる…やり口っていうのは、真新しいものではないと感じているので――スピッツとかってそういう感じあるじゃないですか――ダサいものをあえて入れることで直球に見える、という。そのテクニックだけがあると言うこともできる歌かもしれない。本当はそんなことは思ってないですけど。
(一同 笑い)
そのテクニックに関してはどう思いますか?
相田:テクニック…はあってもいい、というのが一つと。あと爆発しちゃってるからな…。
(一同 笑い)
――――というところで、先攻・後攻の時間を終了とさせていただきます。
これ勝敗は、バトルを見てる他の二人が「せえの」で勝ったと思う人を指して決めたいと思います。
この場合ですと、睦月さんと伊舎堂ですね。
ではよろしくお願いいたします。
せえの、
睦月→相田
(「温くんは好感度の高い負け、という感じ。「サラダ記念日」を持ってくる度胸とか、相手の歌、攻めてるのに「ほんとはそんなこと思ってないんですけど」って行っちゃうところとか。
一方で、持ってきた歌の好き度っていうか熱量っていうかが相田さんのほうが圧倒的で。最初は落ち着いて評をはじめたのに、だんだんステキ!爆発!ドーン!!みたいになってきて面白かった(笑)。歌のパワーだなあと思いました」)
伊舎堂→相田
(「よっぽどの変化球が要る気がするので、3分で推せる歌じゃないのかなー…と「サラダ」に関しては感じました」)
――――勝者、相田さんです。対戦ありがとうございました!
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