おもしろいと思うものーー②「話 聞いてた?」

これ


をmp3にしたものが年明けからけっこうBGMで、移動中「単語を列挙してるだけ――」「なのになぁ」とスクリーンショットの歌詞


を見たりしてたらこの短歌

にほとんど「やったー」みたいな爆笑を得た。


短歌の中で単語を羅列するってむずかしいですよね…ってこの前ガルマン・オブ・ガルマンのテーブルEで言ったんだけど、自分はよくこれを言うなあと思う。別に羅列じゃない歌にも言っていることがある

カルロス・ジョビンさんが「枝、」「石ころ」「切り株の腰かけ」…と初めて始めたとき、現地の人は「なんだなんだ」なにが始まったんだ と慌てることはなく、案外太ももに手を置いて「こりゃあ楽だ」なんて言葉を追う をしていたのじゃないかと思う

短歌の一首は、終わるまでに3分とかかからないし、「このまま自分は3〜7分くらい、ずっとなんかを言われ続けるかもしれない」とノリ良くあきらめてる、準備ができてないので、羅列や破調に出くわしたときの気持ち→言葉 って鑑賞や解釈ってよりクレームのそれに近づく

ぺいぺぺい、から入り「ぺいぺいぺぺい」と続くことで

ぺいぺぺいぺいぺいぺぺい紙くずとかじった梨とにきびと戦車/迂回『ちょうど今日いらなくなった』

は、ラフな態度で一首を楽しむことを推奨するところから始める。この後にされる羅列のストレスのあらかたがこれで消え、「ぺいぺぺい」の音(おん)でちょっとトんじゃった言語野や警戒心に、こちらが想定してるより少し強い単語の羅列がすべりこんでくる。【紙くず】以降が凄い。

 かじった梨とにきびと戦車

『三月の水』において、羅列される単語が【石ころ】や【切り株】そのものを想起させてくるのに対し、【ぺいぺぺい】はその奇声性、によりこの声の主(ぬし)を強制的に一首内へ入れこんでくるため、【かじった梨】や【にきび】は一首の中の何者か(なんでかランニング姿の細い中学生が浮かぶのだが)が今まさに目にしていたり、心にあったりのものをこっちへ報告してきている……ような味わいを経て

戦車

戦車来てるのかよ危ねえな、という所で歌から放り出される

『三月の水』の歌詞が、例えば【トラックが運んでくるいっぱいのレンガ】と『三月』『水』とで掛け算が発生し、2011年の3月11日に連想が飛ぶような「増幅」タイプであるのに対し、『ぺいぺぺい』が最終的に繋がる読み味は「切断」で、このあたりは短歌定型の持つ特性の正当な利用という感じがする。

読み味としての「不条理」って何歳くらいまで楽しめるもんなんだろう、というのは他で言うと我妻さんの歌集を読んでいる時なんかにもよぎる思いだ。

迂回さんの代表歌ってどれだろう。

で浮かぶのはこちらの歌だが、

エンジンの音がやさしい エンジンの音がやさしいときに卒業/迂回『好きなプリンは乾かない』

(「なんたる星」2015.11月号 http://p.booklog.jp/book/102435)

先に書いた『羅列』や『破調』に加え、読み手の感想の言葉がクレーム、へ寄りやすいものに【エンジンの〜】のような形での『反復』があると思う。

他にもまだありそうだけど、ひとまずこの3つのどれかを含む一首は、わりとスピーディーに読者へ「変わったことをしてる歌」として受け取られやすいと思う。このあたりは、歌会に出る機会が多い人には伝わりやすいニュアンスではないだろうか。

桜ばないのち一ぱいに咲くからに生命をかけてわが眺めたり/岡本かの子『桜』

** 抱くとき髪に湿りののこりいて美しかりし野の雨を言う/岡井隆『斉唱』

『変わったことをしてる』と感じる歌の背後には、残像として、いわゆる「秀歌」の「秀歌性」があり、その秀歌性に順接でない感じ…が評者のクレームに燃料を足すのだとして、

上に挙げた〈すごく対象を、見て聞いている〉ような歌に対し【エンジンの〜】の読後に僕が持つのは「……おまえ話 聞いてた?」という、もう顔ニッコニコの悪態だ。

こちらが期待していた「秀歌」が、掲出歌の背後に、そして事前にあればあるだけエンジンの音がやさしい  の後の【エンジンの音がやさしいときに】という〈字数をサボった〉ような意志とその結果、に戸惑い、やがて「これ」ごと愛おしくなってくる。そこへ、この処理によって語句が本来持つ甘やかさの脱臭された(しかしまだ甘やかな)【卒業】で、読み手は、この歌が【卒業】に「もう一回別ルートから感動し直す」一首であったことを最後に知る…と書くとクレームとしては歩み寄りすぎだろうか。

「おまえおれの『話』聞いてた?」 の『』には、『短歌史』、『先行作品』、読み手から漠然と期待されるスイートスポットや方向に在る『秀歌性』、等、他にいろんなものが入りうるだろうけど、【エンジンの〜】の歌の「話聞いてなさ」は僕を、短歌を語って聞かせ・いったん梨も置かせて・歌を作ってもらったのに・このような歌を出されてしまった自分にし、一首の向こうにいる奴へ悪態をつかせはじめる。

でも顔は笑っているのだ。


※ ※ ※


『反復』の名歌には他に

シャツにワインをこぼした夏のずっとあと シャツにワインをこぼしたくなる/永井祐『隣り駅のヤマダ電機』

クリスマス・ソングが好きだ クリスマス・ソングが好きだというのは嘘だ/佐クマサトシ『vignette』

が思いつく。
「いいなぁ」と憧れていたら

椎名林檎のギプスを聴いて泣いたあと椎名林檎のギプスを聴いた/伊舎堂 仁『ビッグ・アイズ』

があることを思い出し、「話聞いてた?」どころか「何回もしっかりと聴こうとしてる」、「おもしろい」どころか心配をされそう、な主体の居様が、この頃のこの人の限界だったんだなあと思う。




▪    ▪    ▪



おもしろいと思うものーー①はだし『聞いた話』を読むhttps://note.mu/gegegege_/n/nc0ca03e13d69