保存水を5本もらおうとしたら喧嘩になった話



年があけてから根府川、 熱海、 箱根湯本と、そういえば歩道の狭い、町ばかりに遊びにいった。ここで https://note.mu/gegegege_/n/n02da52cbb7b5 余っていた18切符を消化しきったわけで、7年前にも一回ある買った時・・・には5回分、を使い切れなかったのでこれはうれしかった。7年前というと2011年。越後湯沢の旅館で住み込みのアルバイトをしていたんだけど、3月の地震で予約客の総キャンセルがおこり、こういう  

旅館だったのでオーナーはすぐに何をしたのかというと、アルバイトたちを家に帰らせた。まかない料理を稼動してないあいだのバイトたちに食べさせるのも損だし・・・と言われたわけではなかったけど、地震の日か、その次の日かの夜ご飯にローストビーフを噛んでいたらオーナーと奥さんのテーブル(我々とは食べる場所が分かれていた)から

 「いないのに」
       「食わすの」   

「だろ」

の数語が聞こえてきたので、今はそう結論付けている

新潟→東京までは行けた新幹線も、そこからは高速バスも含めて運休で、在来線だけがいけたのでそのときに18切符を買った。ハヤシさん、というナイツの塙に顔が似たオーナーだったけど元気だろうか。朝のまかないご飯は白米と卵で、それにはめんつゆをかけることを許されていた。甘い卵かけご飯になる。    

熱海では凧揚げをした。箱根湯本では屋上露天の温泉に入った。楽しい。  

たとえば新潟から帰らされてるあいだの自分を、僕はひとりの鬱屈としてしか思い出せない。好きなこと、を同じくする同伴者がいるだけで、そのときの時間に加え「を、思い出す」時間は陰をまといようがなくなる。好きなこと・・・とは今のところ短歌だ。そこから短歌をしだしてよかったなあ、につなげるのはぬるい。ぬるいうえで、楽しいのはしょうがない。職場に戻れば嫌われてるんだし、ここで回復させてよ、ってだれにともなくそう思う。  


「緑のたぬき」をすすっていると、いしゃどうくん水、いる? と背中から言われた。一人体制の受付業務、は基本的に定められた昼食時間がない。これは食べてる最中、ガンガンに用事を話しかけられるということで、〈一回に、あんまり多くをほおばらない〉というホンジャマカ石塚の語っていたロケテクを参考にしている。水(みぐ)ですか?くらいでなんとか返すと、倉庫までついてきてという。災害のときに飲める、備蓄用の水の保存期間がちょうどいっせいに切れる時期ということで、上司は上司たちでラッパ飲みで減らしているらしい。それでも全く無くならないし、いしゃどうくんにも飲んでほしい・・・にありがとうございます、と言うと渡された分を持って帰ってきた。


で、これのせいで同僚と喧嘩になった。  

喧嘩になった・・・とは書いたけど、出勤してきたその人が、僕の棚のペットボトルの5本をねばっぽく見つめがら更衣室・・・に入っていった時から僕は喧嘩をするつもり、だった。ポンコツぐあい、と少しの誤解、でその人以外、と友好的な会話ができなくなっていた職場でその人、とはその事を肴に勤務終了後も1時間くらい話す関係だった。もちろん風が通り抜けるような、さわやかなトーンの会話空間ではない。陰口に工夫、を持ちこめる人は誰といたってひとりだと思う。パートナーとして話しながら、それでも利用されそうな素材、は相手に与えられない。目の奥が笑っていない、という言い方があるがほんとうにそのような時間がある。

水もらったの?と、制服に着替えたその人がカーテンから出てきた。はい、とこたえた。山本さんから。

つまさきをこんこん、と床でしながら水を見ている。わりとすぐに「受付のみんんなで飲んで、って?」と切り出してきた。

いえ、と僕はこたえた。いしゃどうくんに、だそうです。

はじめて顔をみてきた。

「一人1本とかじゃないの?」

 5本全部ぼくのです、とこたえた。倉庫で、いっぺんに渡されたので重かったときの肩を思った。ふつうに、全部を自分が欲しい気持ちなんか越えて、2リットルの5本は持って帰れない。ティファールで沸かして、のこらず紅茶で飲みきろうと決めていたのもあったけど、なんとなく、陰口のこの人に1本もあげたくなくなっていた。

それはおかしいよ、と言ってきた。

「よ」がむかつく。

「でもいしゃどうくんで飲んで、って言ってましたし」

いしゃどうくん「たち」で、だったかもしれない。ちゃんと思い出そうとしてなかった。肩が重かったのはおれだ。悪口がおもしろいのもおれ。

「ふーん」

水でも、僕の顔でもないところに顔をやった。じゃあそれでいいよ、いったん。

引き継ぎお願いします、と言った。「それでいい」って何ですか?と言った。さいきん言い合いをしてない。どれくらいまだ自分ができるのか、知りたかった。

「山本さんに5本もらったっていしゃどうくん言うけどさ」

「はい。」

「おれ知ってるんだよね」

「ね」がむかついた。なにをです?と言った。沖縄方言で育ったので、星新一作品の登場人物のようにしゃべる、と直接 損なわれない、感じがする。

「なにを、って」

笑ってから、冷蔵庫の。と言った。中に、「えんどう」とマジック書きされた保存水があるとのことだった。

「だからなんですか?」

「最初は6本あって、遠藤さんのぶんの1本がアレってことでしょ。で残りの5本を、いしゃどうくんが嘘ついてぜんぶ持って帰ろうとしてる」

冷蔵庫の1本は知らないですけど、というと「知らないわけないじゃん、笑」と言ってきた。知らないわけないじゃん???と反芻し  た、ときにはもう頭があったかくなっていた。

「知らないです」

 知らないですし、山本さんにもらったのは5本です。「いや、でもさ、笑」

 遠藤さんが個別にもらった日もあったってだけの話じゃないですか? 「こべつ?」こべ、つ。個別くらい分かってください。「いやぜんぜん理屈に合ってないよお前のいってること、笑」

おまえ。

 「どう分からないんですか?」
「いや、ほんとさ、笑」

「、笑」をまずやめてほしい。僕は早口だけど、早口でことばを尽くそうとした、側として「いやいやいや、笑」の奴に負けたことなんて何回でもあって、それがこういう言い合いの仕組みなのだ。

1対1での喧嘩のはずなのに、ふだんその集団、のなかの貢献度、の少ない空気をまとってる/わされている ほうがなんとなく負ける→さらに発言権をなくす、の力学なんて何(なん)バリエーションも味わってきてて、だからこそ完全にいまここで勝ちたかった。めちゃくちゃしゃべった。書き忘れていたけど、引き継ぎ、の時間は23:00で、最寄り駅から立川駅までの終電は23:20。ねばればねばるほど帰りが遅くなるし、明日も出勤だから6時起きだ。そういうところも腹が立った。

「遠藤さんは遠藤さんで、1本もらった日があったんでしょ?」「こないだの避難訓練あたりからなんか僕に高圧的ですけど」「そっちのミスだって病休明けかからめちゃくちゃ増えてますからね」

いしゃどうくんがそういうふうにしたいのは分かるけど・・・と遮って応えると、冷蔵庫の方に向かっていく。扉をあけると、中に向かって指をさして(扉あけたんだったら現物だすだろ、指だけさしたい、気持ち分からねえわ)、「賞味期限、見てみなよ」と言った。「よ」がむかついた。

「12/28。・・・ね? この5本も同じ賞味期限。同じ日に山本さんにもらったやつじゃん」

『・・・ね』『?』『じゃん』全部が無理だ。いやあの、「得意げですけど、ちがいますよ?」

「だって一緒じゃん。これが証拠だよ、同じ日にもらった水、っていう」

「いや、あの・・・」

〈そろそろ賞味期限が切れる水が〉〈大量にある〉を今のこの人の耳に入れる、にはどうしたらいいのかがわからなかった。こうやって書きながら思い出すと、なんてこの程度、な話なんだと思う。

「12/28に切れる水がたくさん、山本さんのところにあるわけですよ。ここまではだいじょうぶですか?」

「もういいよ、笑」

じわぁっ・・・・とした血、っぽいねばりが涙腺から降りていった心地に、触ったけど単に顔で、時計を見ると長針の動けるスペースがもうあれだけしかない、終電は逃す。この名探偵気取りにも押し勝てない。

「キリないんで」あとは山本さんに確認とってみてください、と言ったらそのあとの記憶は退門の自動ドアが開く場面だ。おまえおかしいよ…と受付から声がした。「そこから先は怒りで、どう帰ったのか覚えてない」的に書く、には嘘すぎる、くらい起きたことも言ったことも「、笑」も覚えている。言葉と、展開が足りない。し、増えていかない。書き直せない。再現させようとしてくれない。

社用のスマートフォンにショートメッセージを送ると超過エラーで戻ってくるので、30文字ずつにコピペで切って送った。人を疑うってリスクを伴いますよ。責任もって××さん、山本さんに訊いてみてください。会ったときにでも。

~ってリスクを伴う、は「バトルロワイヤル」の1でビートたけしが、人を嫌いになるって事は・・・の後に言っていたことだから、たぶん強い気がした。

少ししてそれには、「どういう意味??」と返ってくる。


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名前を思い出すために検索してみると「天成園」は、箱根湯本、と打ち込めばサジェストされるくらいにどていばん・・・な場所らしかった。日帰りじゃなく居られる、とまたちがうだろうと、ホームページの〈館内〉をみながら思い直している。

男露天風呂が7階。女性露天風呂が6階。ずっとけぶっていて、山肌の一部がときどきそこから覗く。こんな山のなかなのに、ひとつひとつの建物は高層でそのすきまに見える赤い、橋がよかった。

ちょっとしか見えない架橋なので、バスが通るときぴたっとバスのはまった橋に見える。始まったころ、ウィーラーバスってすぐ無くなると思ってた。  

行くけど、べつにお風呂で過ごす時間に慣れていない。サウナとかに行かれてしまって暇なときは浸かっている時間・・・が時計を見ている時間・・・になる。足をためしに伸ばしてみる。これがいいらしい。

試してみたけど、しゃべってる人たちの近くにいけば暇じゃなくなるみたいだ。地上で、服を着てるときには聞いてられなそうな話が不思議と、先の気になる。地元で一回だけ飲んだことある、えいとく君に似てる、えいとくくらい太ってる、人が岩に座って、囲む2人に話しかけていた。

「熊本で10万円っていったら3DK住めるだろ?」

霧を見ながら、今の部屋を思いうかべる。

「二子玉川だとワンルームだよ」「お前最近・・・・」「うん。大田区」「~~から大田区に越したのステータスアップじゃない?」

ステータスアップ、だとおれも思う。

えいとく君は首に、うめみやたつおみたいな銀チェーンをしている。そして~~が何区だったのか、ちょっともう思い出せない。

「リゾートバイトは貯まるよ」

3回行った・・・とえいとくが体勢を変えた。自然と顔が向く。3人がいなくなったあと、自分でも座ってみたけど、おしりがあんまり痛くない岩なことがすごい。

楽しかったよ~のあと、でもそこで赤ちゃんできちゃったから・・・とえいとくが言った。

にゅっ、と、露天じゅうの目玉のいくつかが向く音が、空気中の水分を通してより粘っこく、ここまで伝わってくる気がする。  

「奥さん怒っちゃって」

   「そりゃあそうだよ」

  「でも奥さんおれ好きだから・・・」


       「好きになるようにしてる、から。」  


リゾートバイト・・・・と思う。

おれもしたことある。