30首「うわさ」

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地元で一日だけ、アルバイトを一緒になったことがある。教科書を運ぶやつ。あんまり話せなかった。おもしろい人だ、と中学で同じだった人に聞いてたから、ミスりたくなくて何も言えなかった。

たまり場になってる部屋があって、そこの天井には大きなスピーカーが取り付けられていた。その真下で、マンガを読んでいたらしい。長い期間流され続けた爆音が、すこしずつずらしていってたみたいで、頭からすれすれのところを重たい、それが落下してズタズタの穴が床にあいた。確実に死んでいただろうたった今のこと、のなか〈・・ぺらっ〉と、ページをめくる音がしたらしい。

そんな話をたくさん昼休みに聞かされて、面識のないその人のことを覚えた。足の裏に毛が生えてるらしい。嘘だったとしても、本当だったとしても、いいなあと思っていた。

こうやって書くことで僕がしようとしているのは、その人と僕とがどう一緒であるかと、でも、どうすれば同じことをいずれしないでいられるかと、いう考え事のきっかけ、だから、どこをどうやっても、だ。人が亡くなっている。私はあなたのことをおもしろいと思っていた人間であるから、このようなものを書いた。

そのような意思を、その人は怒るだろうか。だし、怒られなかったからといって存在させていい書きものであるというハンコが押されるわけでもない。人が亡くなっている。いない人は押してくれない。生きている人がもしかしてハンコを押してくれた、として、もう絶対に押されないその人からのハンコもある。ハンコが押されたからいいわけでもない。あなたのベストを尽くして書かれたものであれば(まだ)いい、という理屈がある。ベストの尽くされている書きものになっていればいい。ベストの尽くされたものの前には、置かれるたくさんのエラーがある。そのうちのエラーか、ベストの尽くされたものになっているといい。なっているといい。

本土で上手くいかなくなると地元に戻って来る。好きなものには神経を注げるけど、できないことへの集中力はちょっとひどいものがある。働いていなかった。働き始めたところだった。実家で母親と二人で暮らしていた。

集められる限りの「らしい」から、自分と同じところを抜いて書いて考えている。勝手に。亡くなった人の感情が「最も」なものだ。許してほしい。許してほしい、とあなたも思っていてほしい。許してほしい僕は、さらにこう思う、ことをあなたにも許してほしい。こう思う。あなたがこれから生きていって言われることは、あの日のことばかりになる。でも僕は、許してほしい、と亡くなった人のほうを向いて思ってからあなたに、このように一緒である僕から、スピーカーの話がほんとうにおもしろかったことを「初めまして」のときに言いたい。そのようなおもしろさ、こそがあなたを、おもしろいあなた、を経由してあの日のあなた、に連れて行ったのだとして も。

 そしてこの「だとしても」も、許してほしい。 許してほしい