相田奈緒 vs 伊舎堂仁(20181216)

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「いい歌バトル」第4試合

相田奈緒 対 伊舎堂仁

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(相田さんがじゃんけんで勝利。先攻を選択)

相田:では、歌を開きます。

相田:

鳥肌がかけぬけるだけほんとうのありがとうには相手はいない/雪舟えま 

えーっとこれは。本当に本当にそうだな、というところで持ってきました。

なんか、すごい力で説得されたというか。入ってる歌集の話からしちゃうんですが、これは巻頭歌。いちばん最初の歌です。「鳥肌」って、ふつうに言うと〈立つ〉ものだと思うんですけど、「かけぬける」と表現していることで、違和感なく体感が強まっている。

ほんとうに「ありがとう」の時には‥‥そう思ったり、言ったりとかではなく鳥肌が「かけぬける」だけなんだということを言われたときに、完全に同意してしまう力がありました。

「ありがとう」は表明ではなくて、自分の中に生じる感覚なので「相手はいない」。それを向ける相手は本当の「ありがとう」の場合はいないんだと。それに私は完全に同意したんですけど、他の方…は同意できるものなのかなというのが聞きたくて持ってきた歌でもあります。

相手がいないのが本当の「ありがとう」だと書くことで、本当ではない「ありがとう」もあるんだっていうこともこの歌の裏には貼りついていて、そのことをこの主体はかなり心を追い詰めて考えていたんじゃないか…というのも感じました。とりあえずそういうところです。

伊舎堂:「鳥肌がかけぬける」…を言うことで、それを経験したことのない人間にも「かけぬける」を想像させる力がここにはあると思うんですよ。すごい感謝…が訪れたときの自分を想像しろ、と言われた気持ちになるというか。で、そこはすごい上手くいってる。そんなことがあったらすごそう、っては思える。

問題は「ほんとうの」ですよね。「ほんとうの」ってけっこう割れる言葉だと思う。このパワーワードをどう飲み込むか、になってくるんですよ。反知性主義‥‥というか。BUMP OF CHICKENに似たような言葉で「本当のありがとうはありがとうじゃ足りないんだ」みたいなのがあったのを思い出したりしました。この短歌での雪舟さんはさすがにそれよりは進んでる‥‥んですけど。

いわゆるキラーフレーズ…ってなんかそれを喜ぶ人たちのいる密室、が見えてきちゃうような感じがあるんです。セミナー室の横を通ったときに「本当のありがとうは…」とか漏れ聞こえてきてこの部屋マジか!ってなる自分になっちゃう、というか。強ければ強いほど、密室の外に立たされた感じになるんです。「ホストである前に人間やろ」におお!ってなると同時に「『ホストの前に人間』なの??」にもなってしまう。だから、「ほんとうのありがとうには相手はいない」→「おぉ~」→「ほんとうのありがとうには相手はいない…の??」となる、のを言いたいです。

相田:セミナー‥‥だと嫌なんですけど、私は雪舟さんが、この短歌を読んだ人に講師、としてこのことを言っているという風に感じなかったんです。で、受け取れたんですけど。それはなんでそう思ったかっていうと、「鳥肌がかけぬけるだけ」っていうのが、今、のこととして書かれているという感じがするからです。瞬間の気づき、として書かれている。だから下の句は…

伊舎堂:自分で自分に言っている…

相田:という。「セミナー…」「じゃない!」みたいな感じです。

――――では次は伊舎堂さん、推す歌をお願いいたします。

伊舎堂:僕のはこちらです。

伊舎堂:

友人のあだ名はリズム 友人の名前はまさし まさしのリズム/永井祐 

さっき睦月戦で言ったこと…をまた使うと、歌が仕事をしてくれているから俺は黙っててもいい一首、というか。

職場でも、地元のグル―プでもいいけど、そこに「リズム」ってあだ名の友だちがいると。「リズム」ってあだ名はありうると思うんですよ。なんか机とかをコンコン~って癖でやってたりで。で、そのグル―プの永井さん以外、の人は「あいつ『リズム』だよね」みたいに言ってる。たぶん。

となると、永井さんは「リズム」のことをどう思ってるのかが気になってくるんだけど、「友人のあだ名はリズム」って書かれた時点では永井さんの、「リズム」って友人に対する「リズム」観が、好悪の感情が見えない。

その次に「友人の名前はまさし」と続いてこれもまた、単に事実だけを言うんですよ。この時点でもまだ永井さんの気持ちが見えない‥‥というところで「まさしのリズム」って言ってきて、「いや、イジってたのかよ」というか。「いじっていた短歌」だったことがここで分かる。笑っちゃう。ありがとう!というか。そこがもう、って感じですね。

「リズム」もおもしろいんですけど、「まさしのリズム」と言うことによって、「まさし」も「リズム」と同じくらいなんか面白い…ことが判明してしまう歌なんです。「まさし」はおもしろい名前なんですよ。なぜなのかはわからないですけど。「まさしのリズム」…ということでなんか、カニの身を吸い尽くす、みたいに「まさし」を面白がりつくそうとしてるのがたまらないです。

なんだったら「リズム」ってあだ名をつけた他の友人たちよりもいじっているというか。でも「まさし」の明るそうっぽさから、いじめっぽくもなってないという。陰口ですらないと思うんですよこれは僕は。

相田:そうですね‥‥伊舎堂さんのおっしゃる、結句にいくまで感情の好悪が見えなくて、最後で「いじってるじゃん」ってのが分かるっていうのはその通りだなと思ったんですけど…

最後まで読んで「いじわるだな」みたいに思っちゃうことはないですか?じゃっかん嫌な気持ちに……。
まさしは「おい!」っていう、明るい感じ?

伊舎堂:そう…ですね、

相田:それはどこから…

「リズム」「まさし」の明るい単語の感じですかね?

伊舎堂:僕らが「まさし」に押し付けてる部分ももちろんあるとは思うんですよ。「まさしは明るいからこれくらい許してくれるだろう」という。

相田:あ、そうそう。それがなんかじゃっかん嫌な気持ちになるのかな…

「友人」って言ってるので友人ではあると思う。ぜんぜん嫌いじゃないとは思いますね。けど、まさしは実はちょっといやなんじゃないかっていう…

伊舎堂:そこを言われると確かに弱いところは…

でも「まさしは実は怒ってるんじゃないか」って思う事…がいちばんまさしを傷つけるんじゃないか…って思いたいですね。「え、怒ってないのに…」というか、

相田:そうですか‥‥

なんか「友人」を二回言う所とかも「ほんとうにそう思ってるのかな・・・」っていうか。いや、思ってることは確かなんですけど、「友人」の定義がなんなのか揺らいでくるところもあって、この繰り返しはなにか別のものを連れてきてるな、と。

伊舎堂:友人認定がちょっと荒っぽい人なのでは、みたいな。

まぁそこは、「リズム」って友人への歌として、歌の中でリズムを作ってあげてるな~くらいに読みましたね…

相田:……まあでもそうか、「まさしが怒ってるのでは、と思うことがまさしにとっては逆に‥‥」みたいのは、まあたしかに……

伊舎堂:物とか隠してもぎりぎり大丈夫な人だと思うんですよ

相田:だめですよ!

睦月:ネットで嫌われるタイプのものいいだ

――――それ、では、どうでしょうか。ジャッジをお願いいたします。

睦月→相田
(大変迷ったのですが……
前半、伊舎堂さんのほうは「圧巻のパフォーマンス」という感じで、「BUMP OF CHICKEN」とか「セミナー」とか、ぜんぜんべつのところで生まれたはずの歌一首を伊舎堂ワールドに完全に呑み込んじゃう感じですごい。相田さんはよく耐えたけど、前半戦は伊舎堂さん、でした。
問題は後半戦で、「お笑いの世界のイジりってイジメでは?」なトピックって昨今感度が高いと思うんですけど、伊舎堂さんの評はそういう意味で危うかった。相田さんがそこをきっちり詰めてくれたんで、ここは相田さんに入れたいです)

温→伊舎堂
(「指摘されたあとの相田さんの応酬までを含めて、「でも雪舟さんの歌ってそうじゃん」というところを越えられてなかった…という感じはしたんですけど、まぁ」)

――――ドローとなりました!この試合、ドロー!

(相田
「だって『相手はいない』じゃん」)

(伊舎堂
「(ジャッジって)ちゃんと分かれるもんですね~」)

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全試合のログ →https://note.mu/gegegege_/n/nd4c61472bd03