いい歌バトル in 宇都宮、プレ

(「いい歌バトル in 宇都宮」の感想はこちらhttps://note.mu/gegegege_/n/nbca3665d0a89)


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●20170805 15:00~

●栃木県総合文化センター・和室2

してる人

●伊舎堂仁
●伝右川 伝右
●睦月都

選歌テーマ

●発表年に関らない、『短歌人』所属の人の【いい歌】

評タイム&質問タイム

●ともに3分


(※ ページの最後に、大平千賀さんの歌の表記についての訂正情報があります)

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伊舎堂(以下 伊▪)  ではジャンケンをお願いします。
睦月都(以下 睦▼)/伝右川伝右(以下 伝★)

じゃんけん、ぽん

睦▼  先攻で。
伊▪  では戦う歌を決めてください。そこから3分を計りますので、その間に評をおねがいします。
睦▼  了解しました・・わたしの推し歌はこれです。

うまそうな食事の匂いをつくる人はやはり男の五十代だったな
髙瀨一誌『火ダルマ』より

睦▼  これは・・・1997年の歌です。

歌の内容でいうとそのまま、そのとおりで。【うまそうな食事の匂いをつくる人】っていう属性の人がいて。うまそうな食事の【匂いをつくれる人】がいるんです、【うまい食事をつくる人】ではなくて。【うまそうな食事を作れる人】でもなくて。【うまそうな食事の匂いをつくれる人】っていうのがこの世にはいて、作者にとってそれは【男の五十代】であると。その根拠もなにも、この歌では提示されてないんですけど。

でー‥‥言えば言うほどナンセンスなんですけど‥‥だって、【食事の匂い】ってのは役に立たないもので。実際的なコミュニケーションに使えたりだとか、食べさせることによって相手を幸福にすることはできなくて、【匂い】しかない。それでも、作者にとっての過去の累積から鑑みて、今【この匂い】を作っている人、ってのを思い浮かべてしまったんでしょうね。それが、【だったな。】という実感の言葉を連れてきている。根拠もなにもないんだけど、そこにはこの人の思いだけがあって、そこになんか‥‥胸を打たれるような仕組みが隠されているのかなと思います。

匂い、という直接には役に立たないものなだけに、なにか精神的な善きもの‥‥という感じがでてくるんですよね。そういう要素と、強い実感というものが一首のなかで組み合わさるとすごく、フワフワした手ざわりの歌になる。上澄みのところの良さを、うまく吸い上げている歌なんじゃないかと思います。以上です。

伊▪  あ、はい、ありがとうございます。では伝右川さん、どの歌でいくかを決めていただいてから、その歌の評をお願いいたします。
伝★  はい・・・これです。

なめらかにくぼんだ石の箸置きが指にやさしい飲み会だった
山本まとも『デジャ毛』より

伊▪  お願いします!
伝★  はい・・・えっと。飲み会に行って。あんまり楽しくない会で、ずっと手元にある箸置きをさわっている・・というのがまず情景として浮かんできます。で、この指を置いている【石】っていうのが、作り物じゃなくて、実際にそういう石があって、それを箸置きとして使っている。

で、そういうふうに箸置きとして使われている石と、作中主体のなじめずにいる感じーーーー飲み会ってわりと、その場に合わせるみたいなところがあると思うんですけどーーーーがリンクしている感じがして、それがまず、いいなっていう。

で、この人、飲み会での上司のグチとかっていう、そういうのは言わないで箸置きをずっとさわってましたっていうことしか言ってなくて。そういう淡々とした詠みぶりになれたのは、この箸置きのおかげなのかなっていう。飲み会じたいは楽しくなかったんだけど良い時間ではあったんだなっていう‥‥そういうところがよくて、推しました。

伊▪  ありがとうございます‥‥感想としては、まぁ歌の構造のちがいがそもそもそうだっていうのもあると思うんですけど、【飲み会の楽しくなさ】っていう感情のところからまず決めて、ディティールの話をしていった伝右川さんと、【料理の匂い】というところに感じ入っていた作中主体が【無根拠さ】を感じさせる口調によってそれを短歌にしてるんだ、っていう風に感情の話で終わる睦月さんと、なんか評のアプローチの仕方がぱっくり対照的だったなって思ったんですね。

では睦月さんから3分、伝右川さんに詰問を、おねがいします。

睦▼  詰問… うんー…。まともさんのこの歌、めちゃくちゃいい歌ですよね‥(笑)
伝/伊  (笑)
睦▼  くやしいけどいい歌で、
でもそれではバトルにならないんで…伝右川さんの評で気になったところを言うんですけど、最初から飲み会が楽しくない、ものとして決めてらしたんですけどそれは、歌のどういうところからそう読めるのかなっていう。言ってしまえば、箸置きのことしか書いてない一首なわけじゃないですか。ひとつのパターンとして飲み会=楽しくない ていうのはありますけど、でもこの歌の「やさしさ」ってそういうところから出てるのかな?って。

さっき自分の歌のときに「無根拠さ」「無意味さ」っていうところから話しましたけど、この歌の【箸置き】もけっこう、無意味なものですよね。それに注目しちゃう主体の、ヘンな、ちょっと天然な・・というか、「飲み会もまぁ楽しいんだけど【箸置き】に注目しちゃう」人、っていう可能性なんかもいろいろと考えられると思ったんですがそのへんは、いかがでしょうか?
伝★  そうですね・・
たしかにこの人じたいがヘンで、飲み会の楽しさに関係なく箸置きを見ちゃってる・・っていうのもいえると思うんですけど。【飲み会】っていう場が僕は、そういうヘンな人、をそうさせてくれないパワーを持ったものだと思っているので、そういう……場が、場が。
場、が・・・
睦/伊  (笑)
睦▼  いじめてるみたいになってきた
伊▪  (【いい歌バトル】じたいが)性格で圧し勝てちゃう、みたいな欠陥があるのでは?となりましたね(笑) 伝右さん・・
伝★  はい。そうですね・・場の・・・。

(アラーム音)

伊▪  あーー、あーーあーー(笑)
っていうかあの、途中で気づいたんですけど、3分間で質問+回答タイムだと極端な話、2分50秒間質問すれば勝てちゃいますよね・・・(笑)すいません、でもこれでいきます。

・・もう一度感想を言うと。「山本まとも」のキャラクターを込みにして読みたいのかな?っていうのが睦月さんで、飲み会っていう場の、力学が作用してるんだよってところから読みたいのが伝右川さんなのかな、と。で、(歌を楽しむために)ちょっと省略する部分を多くしないといけないんですよ。伝右川さんの読み口だと。そこへ「キャラクターも込みで読んだほうがいいのでは?」という質問をされると「まあそういうことも・・」って口ごもっちゃうから攻撃を喰らった、ように見えやすいのかなと。なので今のは睦月さんの質問がうまかったんだと思います。

それ、では次は伝右川さんが3分間、睦月さんに質問をお願いします!

伝★  はい・・・ 「無根拠さ」みたいなのが出ている、というのがあったんですけど。これを僕が最初に読んだときに感じたのが、【匂い】が実際にそこに今あって。これ作ってるのってどういう人だろう・・・ってなって。経験則で言うと50代の男かな・・って思ったらまぁ、実際に50代の男だった・・という歌として読みました。

で、睦月さんの評では【「今までに」会ったうまそうな食事の匂いを作る人は「全員」50代の男で】→それがそうだった、となっていた気がしたんですが・・この「」のところは何故そういえるのかな、というところが聞きたいです。
睦▼  【匂い】のもとを確認にいったら本当に50代の男だった・・・ということではなくて、私の読みではあくまで過去を思い出している、ということです。実際にそこ、で匂いがしているかどうかってことで言うと・・なんだろう、実感のこもり方のちがいなのかな。【だった「な」】ってなんか、走馬灯を見てるみたいじゃないですか?  

短歌のなかのひとが実際に今匂いに出会っている・・・ということだとこの【な】は出てこないのかなと。【うまそうな】とかもそうですけど、一首のことばが全て想像力によって保たれている。【やはり】もそうですね。【50代】も。振り返って、の予測ですよね。【だった「な」】っていう、やや詠嘆もしてたり。

これが、実際に匂いに出会っていて・・・ということだともっと、匂いの中に入っていく・・みたいな表現になると思うんです。逆に、「あぁ、」「男の50代がうまそうな匂いを作るんだ、」という方向に行くと思う。ちょっと曖昧なところの話ですけど。

(アラーム音)

伊▪  はい、なんかいい勝負でしたね。1試合目なのに、というか。
ちょっと関係なく思ったのは、【だった「な」】の言い方も山本まともっぽいなと。今つくらせたらまともさん、【飲み会だった「な」】にしてきそうかもという・・・。

で、判定は・・なんでしょうね、微妙な言い方になっちゃいますけど、評が終わった時点で、最初よりも歌への評価が変わった、っていうことでは睦月さんの選歌と、あと、【無根拠さ】の由来は?みたいな伝右川さんの質問に【だった「な」】の件とかでちゃんと応答できてたってことで睦月さんの勝ちですかね。
睦▼  い~~ やった。
伊▪  ではお次・・・は伝右さん3分間、はかってもらっていいですか。(席を移動する)

2試合目

睦/伊  じゃんけん、ぽん
睦/伊  あいこで、しょ。
睦▼  後攻で。
伊▪  はい、では僕が選ぶ歌はこちらですね・・どん。

鳴くだけの事ぁ鳴いたらちからをぬいてあおむけに落ちてゆく蝉ナイス
斉藤斎藤『渡辺のわたし』より

まぁ・・・すごい技術が透けて見える歌ですよ。そういうところから評に入りたいんですけど。【ぁ】ですよねやっぱり。そこまではちゃんと漢字で。【ことぁ】とかにはしない。江戸っ子の、べらんめぇ口調になるんですよねこれで。その口調でなにを言うんだってなったら最終的に・・・蝉の死を描写している。そういうところで口調と、詠みたい素材が対応してる。斉藤斎藤さん、にもう一個江戸っ子のキャラクターをのせることで、ちょっとテンションも高くなる。

初期の歌ですけど。【事「ぁ」】がとにかくすごい・・んですけどこの歌はなんと言っても【ナイス】がすごいんです。その~・・・短歌に詠まれたことのなかった【ナイス】なんですよ。いまだと【いいね!】やら【good】【スキ】【ふぁぼ】なんてありますけど、それよりももっとナメてる感じの、【ナイス】。

そこから、すごく蝉の命を軽く見ているっていう態度が伝わってきて・・これはもう、どこも動かない歌ですね。3句目の【ちからをぬいて】で一回韻律を無視するし、いきなりひらがなに開くところなんかとても、回ってたプロペラが止まった感じっていうか、7日目の蝉の感じが出てると思います。
これは技、技、技、の歌です。以上です。
伝★  あと一分ある・・
伊▪  屈伸でもしときますかね、
睦▼  屈伸・・
伊▪  敵チームにいる嫌なやつみたいな

(アラーム音)

伝★  ありがとうございます。それでは睦月さんおねがいいたします。
睦▼  はい。わたしの推す2首目の歌はこちらです。

定住の家をもたねば朝に夜にシシリイの薔薇やマジョルカの花
斎藤史『魚歌』より

・・本もないし、いまスマホが使えなくて検索とかで確認できなくて、記憶で書いたんですが、歌の音は正確なはずです。っていうぐらい、すごく印象に残っている歌です。(※追記:表記は正確でした)


斎藤史が、せんきゅうひゃく、に・・1930年代かな?昭和の前期に、第一歌集の歌として詠んだ歌です。まぁそういう背景情報は置いておいて。(※追記:1935年が制作年でした)

この歌で詠まれていることっていうのが・・なんだろう、字の美しさがあるんですけどそれ以上になんか、「生活のことは関係ないよ」「わたしは身軽に生きていくんだよ」っていう少女的な奔放さ・無邪気さというか。無自覚、ってまで言っちゃうと違うんですけど、待ち構えている社会の毒に対して「わたしは大丈夫」っていう、パワーが感じられるんですね。

【定住の家をもたねば朝に夜に】。定住の家を持たないってことが―――さっきも言ったとおり戦前の歌なんですが、作者の実際の話にふると、お父様が歌人でありながら軍人で、日本各地を転々としてたっていう時期なんですね。そこまでじゃないにしても、時代の空気感的にもすごく不安定な頃で、今で言うホームレス・・みたいになってしまう=定住の家が無くなる としても、この人にとってはシシリイの薔薇を愛でられるし、夜にはマジョルカの花を見られる事態なんだ、という。そういう・・・ふうに、想像力が現実を越えていって、実際の生命の支えになっていってるという。それがすごくすばらしいんです。あと、最初シシリイの【薔薇】なのにその後がマジョルカの【花】っていうフワッとした言い方になってるのも・・(笑)甘いですよね。語法的には。でもその甘さもちょっと天然っぽくて笑っちゃうし、かわいい、となる・・・(アラーム音)・・・というところで、フルに3分使っての、プレゼンでした。

(アラーム音を止める)

伊▪  すげ~
睦▼  (笑)
伊▪  斎藤史が好きな人、だな。なに言おうかな・・
伝★  質問、は伊舎堂さんのほうからです。
伊▪  えーっと・・・。『定住』という言葉から置いて現実面をおさえる、ことで夢見っぱなしの少女ではない、という詠み味もゲットできてるからテクニカルな歌だともいえるんですけど・・なんだろう、作者の狙い、がそのへんでブレるともいえるのかなって。

『定住』的な語句から逆算して、戦時中だとか、疎開だとかっていうところも背景として持ってこれるんだけど、現実面・・・への顔向けっていうか、言及、の時間が『定住』の一語だけっていうのはちょっとフェアじゃないんじゃないかとおもったんです。現実面、にたいして。

というところで・・・苦味・・・みたいなものがもうちょっとほしかったかなとは思います。この感性がすごく幸せな一首を生んだのはわかるんだけど、その後の齋籐史の人生において・・・あぁちがうなこれ「人生」とかは言い出すと・・・うん・・・ ・・・陶酔、以外の要素が欲しかったです。あと【シシリイ】や【マジョルカ】といったチョイスは、植物リテラシーが低い者を締め出してしまう、差別の歌だと思います。以上です。

伝★  質問ではない・・

伊▪  あー、あ。質問か。そうですね質問ですね。
もう一度同じことを言わせてしまう形になるかとは思うんですけど・・・この『定住』は、時代背景に寄り添わせて読むべきなんでしょうか、やはり? という訊き方でお願いします。
睦▼  その件なんですけど。この場においては、戦争や疎開といった背景はおそらく今、わたしが言ったことによって初めて補足された事柄なのでは?と思っていて。逆にいうと、そういった情報をなくして読んだ場合でも、立ち上がってくる強いものはあると思っているんです。

『定住』・・・っていう、ちょっと翻訳語っていうか漢語っていうか、かっちりとしたお役所言葉みたいな語句が、後半の『マジョルカの花』などが出す夢見心地感(かん)みたいなものがあふれすぎるのを抑えていると思うんです。そういったところで、言葉のうえでもこの歌は美しいし、なにか引き算がなされている。そういった両面でいってもこの歌は完璧・・(笑いだす)・・完璧、なのではないかと思います。

(アラーム音)

伊▪  んー・・・
睦▼  斉藤さんの歌もやっぱりおもしろい歌だなと思うんですけど。「この歌はテクニックがすばらしい」って伊舎堂さんが言ってた件で、たとえば『ちからをぬいて』でいきなりひらがなにするっていうことで、あおむけにおちていく蝉の雰囲気が出てるっていうのはその通りかなとは思う、でもそれ以上のなにか・・・歌から出てるもの、を一首から伊舎堂さんが感じ取ったかっていうことはちょっと見えてなくて。

7日目の蝉が落ちてゆく・・そのあと『ナイス』って言う。その落差が出してきているものってのをわたしはちょっと受け止められてなくて。この技法・・というのはなにをもって効いてる、としたのか、ちょっと知りたいです。
伊▪  はい・・ 簡単に言うと『意外性』っていうところでひっくるめちゃいたいですかね。出来事→感情、ってことで言うと、「蝉が死んだ」のあとにいちばんこないであろう感情の言葉として【ナイス】が置かれてるっていうその、『意外性』。回答になってるか不安ですけど・・

で、ここで【ナイス】が言えるキャラクター性、を考えることで、単に蝉が死んだ場面っていうことの言外の真・・みたいなものも表せているかなぁと思います。
伝★  ・・・・。
睦/伊  ・・・。
伝★  ・・むずかしいですね…
伊▪  うーん、うん(笑)
伝★  時間もぴったり終わるし・・。

睦月さんの、齋籐史さんの歌は、最初に置かれた『定住』が、異質なものとして機能している。斉藤斎藤さんのは、『ナイス』という異質な言葉が、最後に置かれていて、こちらもやはり対立構造を持った歌と・・評かなというふうに。おもいました。どうしようかな・・

・・でもやっぱ睦月さんの、最初の説明と、質問を受けての説明というところのダブルで、睦月さんの勝ちかな、と。
伊▪  手伝った、みたいになっちゃったのかよ
睦▼  優勝~~~
伊▪  んーー・・・

それじゃあ優勝のあとの3分を計ってもらえますと・・


3試合目

伝★  それでは消化試合を、
伊▪  よせ
伝/伊  じゃんけん、ぽん
伝★  ・・・後攻で。ラップバトルみたいですね
伊▪  【おまえ後攻とりやがって】みたいにはじめるんですよね、そっちだと。‥選んだ歌はこちらです。

夏至の日の夕餉おはりぬ魚の血にほのか汚るる皿をのこして
小池光『廃駅』より

――まぁ情景としてはその通りに書かれてる歌で、夜ご飯を食べ終えたあとの皿が、ちょっと汚れている。魚の血で。ということだと思います。それに『夏至の日』っていうダメ押しをして、5W1Hをそろえた、ということかと。

この情景の立ち上げ力にもまず一本をあげたいんですが、その上でさらに考えたいのが『皿が汚れている』という細部で、おそらくこれから何回も見ることになるもの・・というものをわざわざ短歌で言われることで、ここにはなんかあるぞ?という気にさせられる。わざわざ言うことによって、【お前は罪深い。】というか、生き物の命をうばっていくことの後ろめたさを感じることにつながっていく。

あと【血】とか。夕方、とか―――【夕餉】は正確には夕方じゃないけど、まぁ字面から夕焼けが、というふうに赤色を呼応させている。そういう演出によって、歌では言われてないんですけど生(せい)への後ろめたさを喰らってしまう。【皿をのこして】の言いさしもよくて、この後に文が続くとすれば【われわれはこれからも生きていく】みたいな意味のことでしょうか。この逃げ場の無さ、に惹かれました。
睦▼  あと1分あります。
伊▪  次は肩甲骨を・・

(アラーム音)

伝★  ・・・はいっ、じゃあいきます。

こわれてから捨てるキッチンタイマーのうさぎの顔のかたちのしずかな
大平千賀『短歌人』月詠より

(※ こちらページの最後に、表記についての訂正情報があります)


これ、はあの、以前に歌会で大平さんが出してて、それでその時も採ったんですけど。

キッチンタイマーっていう、シンプルな構造なんでなかなか壊れないものがあって、でもそれが壊れてるか電池が切れてるかで止まってる、と。
それを捨てるときに、キッチンタイマーの見た目ってのが説明されてて。そのウサギの顔…ってのに注目いってて、ウサギの顔の【かたち】ってまでは言わないでも分かるのにそこまで書かれてて。
それが【しずかな】っていう、技巧的な言いさしで終わる。キッチンタイマーってのは本来しずかなものではなくて、使ってるときは鳴ることに意味があるものなんですけど、この一首では冷蔵庫に貼りつけられて生活の背後にある――――キッチンタイマーが書かれている。でもそんなに思い入れのあるタイマーって感じはしなくて、で、それを捨ててしまうわけですけど、その瞬間に立ち上がって来る静けさ・・がいいと思って選びました。
睦▼  では質問タイムでお願いします。
伊▪  はい、俺からですか。

そうですね、一点、ですねやっぱり。【かたちのしずかな】っていう字余り・・・まぁ両方【言いさし】の歌ですけど、【皿をのこして】の七、っていういかにも【のこした】ような余韻を残して終わる小池さんの歌にくらべて【かたちのしずかな】という詰め方はすこし性急ではないかなと。ベストな表現ではないかな?という気がしました。

歌の最初から読んでいくと、【こわれてから】の時点ではみだしてて、なにか異変が起きているっていうのはここで宣言されてる気はするんですけど韻律に関しては意外と気にしてないのかな、というふうに。どうでしょう。
伝★  そう…ですね、でもここは定型におさめてしまうと死ぬ要素なのかなー・・っても思う、

【うさぎの顔のかたちのしずかな】・・・・やはり、異質なことを歌っているので、ここでスッとなってしまうと…スッとなってしまうかなぁ、と。なのでこれは効いていると思います。
伊▪  …スッとなってしまうと、スッとなってしまう…と。
伝★  (笑)
伊▪  でも納得しました。【捨てるキッチン/タイマーの】のあたりは気持ちいいんだよな、でも。
ありがとうございます。
睦▼  ありがとうございます。じゃ次 伊舎堂さんへの質問を。
伝★  はい、伊舎堂さんは‥5W1Hをそろえている、というふうに言ってたんですけど、【夏至の日】ってのが歌にどういう効果を与えているのかが知りたいです。
伊▪  これはまぁ・・・皿に血が残ってる、ってことで汚したもの、を想像させるのと、夕餉→夕焼け で赤を連想させるっていうやつにさらにだめ押ししてるっていうか、そういう情景に気温を足したかったんじゃないかっていうことなんじゃないでしょうか・・

食べてる、魚も生きてたときは、このヌルい外温と同じくらいだったのかっていう――――生き物のつくりってそういうもんじゃないかもしれないけど――――皿の上に置いてある、煮つけの状態よりも、夏至の気温に魚は近かったんだぞという。かなり無理やりですけど。それを想像させるっていう。【夏至の日】って書くことでダルくなるっていうか。【クーラーの部屋ではないですよ~】を説明してる、という一要素だと思います。
伝★  …煮つけなんですか?
伊▪  煮つけ…かなと思います。焼き魚ってよりは。
伝★  血が出るのは焼き魚かなと、
伊▪  煮魚って赤くならないか…
刺し身の。僕が最初から言っていたように刺し身の、赤。
伝★  ・・・はい、ありがとうございます。
伊▪  そうですね、煮つけではないなこれ・・なんの魚料理で想像してたか途中で分からなくなって・・
伝★  刺し身だと。豪勢ですね。
伊▪  【夏至の日に刺し身たべてるやつ】ってこの歌でいう内省にいかない気はしてきますね・・・・かなり大事ですねこれ。
睦▼  んーーー。難しいなこれ。
伊▪  どうでしょう・・・
睦▼  5W1Hを用いて、だめ押しでこのイメージを作ってきてるっていう説明はわかりまして・・

伝右川さんは、キッチンタイマーっていう生活のなかのポジションというのに集中させて評してたのがよかったかなって印象・・質問タイムは・・・どっちもどっちですかね?
伊/伝  !
睦▼  んーーーーーー むずかしいんだが・・
伊▪  評を始める前と終わってからで歌への印象が・・・みたいなのだと・・・
睦▼  1個だけ、二人に差があったとすれば、伊舎堂さんのほうが?
返答のときの元気がよかった、 ですかね??
伊▪  (笑)
伊▪  努力賞、みたいな
睦▼  はい・・おつかれさまでした!
伊/伝  おつかれさまでした~。








優勝

●睦月都


選歌一覧

●伝右川伝右 選歌

なめらかにくぼんだ石の箸置きが指にやさしい飲み会だった
山本まとも
こわれてから捨てるキッチンタイマーのうさぎの顔のかたちのしずかな
大平千賀

(※↓ 正しい表記はこちらとなります)

こわれてから捨てるキッチンタイマーのうさぎの顔のかたちしずかな
大平千賀

(評において触れている部分もあるので削除できないことと、そして何よりも誤表示を、たいへん失礼いたしました。/ 伊舎堂)

●伊舎堂 仁 選歌
鳴くだけの事ぁ鳴いたらちからをぬいてあおむけに落ちてゆく蝉ナイス
斉藤斎藤
夏至の日の夕餉おはりぬ魚の血にほのか汚るる皿をのこして
小池光

●睦月都 選歌
うまそうな食事の匂いをつくる人はやはり男の五十代だったな
髙瀨一誌
定住の家をもたねば朝に夜にシシリイの薔薇やマジョルカの花
斎藤史