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鹿児島スタジアム経過観察

 新年明けましておめでとうございます。
今年もしっかりnoteを更新していく予定はありませんが、よろしくお願いいたします。

 さて、このnoteではちょくちょく鹿児島のスタジアム問題とか国内外のスタジアムとかをテーマに記事を書いてきました。去年辺りまでは割とちゃんと追っていたのですが、昨今の議論に萎えて情報収集もサボり気味です。最新の情勢を反映していない可能性も多々ございますので何卒…。

 検討委から当初6案だった候補地が現在の3案に絞られて以降、市長の交代やコロナなどで殆ど進捗ゼロと言っても良い期間がしばらく続きました。そして、ようやく2022年になり市は動き出しました。しかし、その間に鹿児島県の方が新体育館構想を一気に持ち上げ、グランドデザイン的なものを公表するまで来ました。
そして後出し的な格好にもなった市のスタジアム構想、3案共通モデルによるパースイメージも出てきたのですが、県や有識者らとの会合ではとても歓迎はされている様子ではなかったようですね…。

 そして、最近の情報を追っていなかった私のTLにこのニュースが流れてきました。

塩田知事、鹿児島市スタジアム構想の「稼働率4割」を問題視 閑散期生じる可能性指摘(南日本新聞/2023/01/05 07:30)
https://373news.com/_news/storyid/168608/?utm_source=dlvr.it&utm_medium=twitter (2023/01/05閲覧)

ちなみにカバー画像は日本屈指の駅チカスタジアム・駅前不動産スタジアム(佐賀県鳥栖市)です。

4割も使えるのか、4割しか使えないのか、あるいは…

 市の需要予測調査にある「年間稼働率42%」という点を指摘して"「グランドデザインとの整合性をどう図るのか」と市に疑問を投げかけた"とのこと。グランドデザインとは、「年間365日のにぎわい創出」という県のものです。

 Twitterのリアクションを見ると、「年間4割は使われてる方ではないか」「他のスタジアムと比較しても同等かそれ以上」といったものもあるのですが、それでは旧来のスタジアムと変わらない、いわば「ハコモノ」として扱われてしまうのです。

1)「スタジアム需要予測等調査・整備検討支援業務 中間報告(概要)」より
出典は記事下部に記載

 数字の出処はこれだろうと思います。確かに、年間の稼働率は42.2%です。ただし、これは「ピッチ・スタンド利用の稼働率」試算です。
 プロの利用に耐えうる天然芝ピッチに付き物の養生・オーバーシード期間を考えればこのくらいが限度であり、これ以上どうこうするのは難しいはずです。それから、実際この手の試算というのは大概上振れするものです()

 いくら他の競技場と同等または少し優れているからといってピッチは年間上限4割程度しか使えないのは現実。仮に他より多少優れていても興味のない人からしたら「じゃあ残りの6割は使えない、結局ハコモノだね」でしかないわけです。
そこで、他の手法を使って施設を維持するための公的支出をできる限り抑え、(あわよくば)収益を生もうという考えがいわゆる「多機能複合化」というやつです。

サッカースタジアムを市が作ろうが誰が作ろうが、やっぱり県のグランドデザインの通り「365日にぎわいを創出できる」ことこそが重要なのです。

"街なか"になければ「ハコモノ」化は必至

 そもそも自分が感じているのは、「絶好の立地に"ハコモノ"を作るな」ということへの違和感です。もちろん反対している人の言い分は分かります。自分でも興味がなかったらそう言うかもしれません。

 もちろんこう言うと「サッカー好きのポジショントークだ」的な反応されると思うんですが(実際そういう側面もある)、これまで全国各地に整備されてきた公営の競技場が「ハコモノ」という誹りを受けている理由には立地の側面が必ず絡んでいると思うのです。
何かというと、経済成長と共に国内スポーツの重要な要素としてあり続けた国体は、各都道府県の持ち回り開催においてそれぞれの会場にあらゆる体育施設を求めました。それに応え、全国各地に陸上競技場・野球場・庭球場・武道館…といった施設が集積した総合運動公園が整備されました。これらの整備には極めて広大な用地を求めるため、またその取得費用は馬鹿にならないものがあるでしょう。結果、自然とその立地は郊外へと向いていったはずです。モータリゼーションという背景も、車で来場すれば良いのだからということでそれを後押ししたかもしれません。

 しかし、時代は移り変わり少子高齢化の時代に。行政は「ハコモノ」の維持が次第に難しくなり、街は中心へ機能を集積させる「コンパクトシティ」が叫ばれる時代です。この風潮ではアクセス性の低い郊外の施設から人々が遠のくのは不思議なことではありません。もしそういった土地にスタジアムを整備したとしても、試合日は人々も集うかもしれませんがそれ以外はどうでしょうか?魅力的なカフェに開放的な芝生公園があっても、平日・休日問わず人が集まる場所になるとは思えません。
 逆に、中心市街地にあるとどうでしょう。試合日は公共交通機関で車を使わずに人々が集い、飲食・観戦を楽しむ。行き帰りでちょっと一杯。試合がない日はカフェでのんびり、商店があればショッピング。やはり"街なか"でしか生み出せない人の流れはあると思います。これらを活かさないことには、スタジアムの「ハコモノ」化は避けられないと言えます。

 だからこそ、「スタジアム以外の部分に何を作るか」が極めて重要なのです。北九州のミクニワールドスタジアム北九州は非常に魅力的なスタジアムですが、付帯施設等がないので試合日以外に足が向くことはあまりないでしょう。「ミクスタの多機能複合化」こそが鹿児島に必要なものに近いイメージな気がします。

 長崎ではジャパネットさんなどが主導で立派なスタジアムシティを整備していますが、民間(超大手かつクラブと周辺地盤に大きな影響のある)主導の例は鹿児島では今のところイメージがわかないため、あまりスキーム自体は参考にはならないと感じています。ガンバ大阪のパナスタが寄付金だけで建ったというのと同様に、どこでも真似できるものではありません。羨ましいですが・・・・・。

多機能複合化施設の需要予測および導入が望まれる機能も中間報告において挙げられています。

1)

 こちらの方こそ、鹿児島市が目指すスタジアムのあり方としてアピールすべきものと思います。

以前中間報告が発表された際に長々とnoteに記しておりますのでそちらもよければご覧いただければと思います。

「なぜあそこにサッカースタジアムが必要なのか」に対する答えが「専用スタジアムの方が見やすいから」とか「白波スタジアムではJ1基準を充足できないから」は単に"こちら側の話"でしかありません。
根本的な問題は「鹿児島県内にJリーグ(プロレベルの有料興行)を開催できる会場が白波スタジアムしかない」こと、そしてここに「あらゆる競技が集中して日程調整が困難になっている」ことにあります。もちろん「来場者の体験価値の高さ」からフットボール専用スタジアムを整備する価値もあります。陸上競技場で見るより圧倒的に楽しいですからね。

 上記のような課題を解決しつつ、そこには公金が少なからず投入されるわけですから、サッカーやラグビーといった球技場を使う関係者だけでなく市民・県民の多くが来たいと思う施設にならないといけないわけです。それを実現するのが「多機能複合化」というお話でした。「スタジアムを作る」というより「新しいまちを作る」ということにして欲しいな、と思います。

出典

1)スタジアム需要予測等調査・整備検討支援業務 中間報告(概要)
<https://www.city.kagoshima.lg.jp/sports/sports/documents/tyukanhoukoku2.pdf>(2023.01.05閲覧)

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