サッカー等スタジアムの中間報告が出た

 こんにちは。
去る11月12日、鹿児島市主催で開催された機運醸成イベント「かごスタ!TALK2022 みんなでつくろう#鹿児島スタジアム」がセンテラス天文館にて開かれましたね。
 その冒頭にて、需要予測を行ったらしい東畑建築事務所の方から現時点での調査報告が行われました。同事務所はJ3長野のホームスタジアム、長野UスタジアムやJ1京都のサンガスタジアム by KYOCERAの設計に携わった設計事務所です。
 鹿児島市HPにおいてもその資料が公開されていますので、それに沿って今回の調査とスタジアム計画を改めて見ていきたいと思います。

 また、12月23日まで以下リンクの鹿児島市HPにおいて意見募集が行われています。ぜひたくさんの意見を皆さんで挙げましょう。このnoteがその一助になれば幸いです。
鹿児島市HP(スタジアム需要予測等調査・整備検討支援業務(令和4年度))

 ちなみに、鹿児島ユナイテッドFCのホーム最終戦セレモニーにて下鶴鹿児島市長が選挙演説のごとき熱さでスタジアムを語っております。DAZNのFC岐阜戦02:27:50(DAZN表記)辺りから見られますので是非。

「これから、新しいスタジアムの夢を語る時間が始まります。温泉、食、桜島の風景…鹿児島ならではの、鹿児島だからできる日本一の、世界に誇れるスタジアムを皆さんと一緒に作りたいと考えております」
「機運を作るのは皆さんです。よろしくお願いします」

ホーム最終戦セレモニーでの下鶴鹿児島市長の発言の一部を書き起こし


需要予測について

1.ピッチ・スタンド利用

 ソースを見つけて来られなくて恐縮ですが、確か北九州のミクニワールドスタジアム北九州の整備事業の計画段階の資料で想定されていた来場者数が結果的に振り返ると夢のような数字だった…みたいなのがあってこの手の需要予測は話半分で、的なところもありますが(試算した方、申し訳ありません)、2022年実績値の1試合あたり4,226人にスタジアム開業効果によって1.5倍増により6,339人だそうです。鹿児島ならなんかやってくれそうな気がする数字ですが()、北九州の場合供用開始直後のJ3降格やら、それだけに飽き足らず最下位まで行っちゃったは流石に想定外だったでしょうね。おまけにコロナ禍とは。なお、J3実績値をもとに社会環境による影響大の場合の下位予測は5,607人/試合。これでも今季の平均+1,000人なので、まあまあの数字です。

 そして、市長も再三強調しているように、サッカー等スタジアムはJリーグ(ユナイテッド)の興行だけでは稼げるスタジアムにはなり得ません。
 ピッチ上でのスポーツ利用としてプロ・アマの単発的なイベントとして、サッカーの各種年代の大会(高校サッカー選手権県予選やU-12選手権など)、天皇杯などが挙げられているほか、この規模のスタジアムであればU-23年代程度までの男子日本代表公式戦、もしかしたらなでしこジャパンの試合でも用いることが可能でしょう。そしてラグビーもあります。
 ただし、これら(特に中高生までの大会など)がスタジアム運営にもたらす恩恵は定期的なプロスポーツほど大きくないことは当然想定されます。
 あと、資料に出てくるパブリックビューイングってどれくらいやるんですかね…()

 いずれにしても、やはりプロを軸にスポーツをやると芝生の養生やオーバーシード(春秋に冬芝、夏芝に切り替えるため冬用の芝の種まきをしたりする)の作業もあるため実際ピッチ上の利用はかなり限定されます。国内でも、Jクラブがホームにしているスタジアムで音楽コンサートをやっていてぱっと思いつくのはセレッソ大阪のヤンマースタジアム長居、横浜F・マリノスの日産スタジアム辺りですかね。いずれも非常にキャパの大きいスタジアムです。芝生保護材の「テラプラス」などを活用して行われますが、それでも数日間陽光を遮られ、重量物を支えた芝は回復に多少の期間を要します。こうなると、ピッチの利用というのは結構難しいものがありそうです。

鹿児島市 スタジアム需要予測等調査より(1)

 色々と脈絡なく書きましたが、要は鹿児島市の出した予測は上のとおりでこれを見ろということです。

 見方を同資料内から提示いたしますと、
上位予測
…鹿児島が毎年1試合あたりの来場者数を500人ずつ増やしながら、10年後にJ1に昇格した場合。
中位予測
…鹿児島がJ2に昇格した場合。
下位予測I
…鹿児島がJ3に残留した場合。
下位予測II
…鹿児島がJ3に在籍しながら、自然災害や感染症といった社会環境に大きく影響を受けた場合。

 となっています。ピッチ・スタンドの利用だけでいずれも年間20万人を超える来場者数を予測しています。

2.多機能複合施設

 本スタジアム構想のもう一つの柱である「多機能複合化」でありますが、中間報告の資料の関係者ヒアリング結果で色々と意見も出ておりますのでご覧ください。

「何が機能として必要だと思いますか?」ということなんですが、予測の数値として最も多くなっているのは「サードプレイス(居心地の良い空間)」「展望テラス・デッキ」で年間約24万人。サードプレイスはそのまんま「第三の居場所」ということで家でも職場でもない、リラックスできる場所ということです。
 今回の計画はスタジアム単体の開発だけでなく、鹿児島市最高クラスの開発可能性を秘めた空き地・ウォーターフロントエリアの活性化という大きな側面を持っています。桜島・錦江湾への最強のビューを誇るエリアですので、当然その辺の展望性は求められます。
 以前の鹿児島スタジアム妄想の記事でも妄想しましたが、個人的には海側に張り出したテラスなんかがあると良いのかと思います。広場もあればいいですけどね。
 「スポーツミュージアム」というのがありますが、どういったものを想定しているのか今ひとつ分かりかねます。例えば鹿島のような伝統とタイトルのいっぱいあるクラブのスタジアム内にミュージアムがあるのは一般にも理解しやすいですが。ユナイテッドやサッカーにとどまらずといった感じなんですかね。(まだそのレベルの具体的な計画の段階ではないですが)
 国内でも鹿島などの例がありますが、スタジアム内にスポーツクリニックやスポーツジム、ランニングコースを設けるといったスポーツ/フィットネス関連施設を集積するというのも非常に良いでしょう。

 個人的に、サンガスタジアムにある(フードコートや)ボルダリング、eスポーツ施設などは複合化の一例と思いますが、この規模でどれほどの効果をもたらすのか若干気になるところがあります。市長のいう「稼げるスタジアム」のためにはもう一つの商業・飲食ビルが寄生しているレベルの複合化が必要な気もします。

 それから、VIPラウンジやスカイボックスといったホスピタリティ施設です。これはJリーグの「理想のスタジアム」の要件でもあるので必要な設備です。こういった席を使用できる人は数的には限定されますが、それでも我々が普段購入することになるであろう座席の数百席分の価格だったりするので無視できないものになるのです。
 また、資料にもありますが、これらのホスピタリティ施設を試合日に利用できる権利を数百万〜数千万円で販売するケースや貸し会議室とするケース、また欧米では年間を通じて自由に利用できる権利を販売する例もあります。例えばドイツのバイエルン・ミュンヘンのホームであるアリアンツ・アレナでもそういったものが用意されています。企業は内装を自由に変更でき、自社の商談や接待、会議に利用できます。我々にはあまり分からない部分ではありますが()、そういったものも収益に影響をもたらす部分になります。

 経済波及効果はあまり良くわからないので資料をご覧ください(

結局候補地としてはどこが良いのか

 かごスタイベントでのプレゼンや今回の資料を見ながら恐らく少なくない方が「あれ、意外と浜町良くね…?」と思ったことでしょう。私も思いました。
 これまでは3候補地の中の異端児、地権者のことも相まって早晩除外されるだろうと思われていた候補地ですが、配置的にも問題なく収まってしまいました(
 しかし、上でも述べた通り今回の計画で非常に重要なのが「ウォーターフロントエリアとその周辺エリアの活性化」というミッションになります。そういった点も踏まえて、改めて今回公表された図も参照しつつ見ていきたいと思います。

(1)浜町バス車庫

 現在、鹿児島交通バス車庫および森林管理署の施設が存在する、候補地の中で唯一の民有地となっています。そのためまずはその土地の取得からというプロセスが必要になるでしょう(他候補も市有地ではないですが)。

中間報告結果で見える良い点
・計画地にゆとりがあるため、海側に広場を設けることができる
・複合化施設の床面積も3候補地で最も確保されている
・JR・市電でのアクセス性に問題はあまりない
・桜島が真正面

微妙な点
・土地の取得に関して不透明
・中心市街地から唯一離れた計画地である

平面計画図(1)

 以前に土地の所有者がそれなりに前向きに考えていたという報道もあったと思いますが、ここを潰すと代替地の話やら何やらも出てくるので、そこのハードルはあろうかと思います。
 また、以前のnoteでもお示しした通り、やはり場所が少し離れているのが個人的には引っかかります。次の2候補地ほど天文館などで来場者はお金を使うか?については、疑問が残るところです。

 一方で、図でお分かりの通り土地に余裕があるためゆとりある広場を確保できているほか、複合化施設の面積が後述2案に比しても広そうなのも分かります。
 広場ではマルシェイベントなども開催できるでしょう。カフェなどが入れば、ここや展望デッキでくつろぐこともできそうで、私の妄想にも近い感じがしました。

外観のイメージ図(1)

 あくまでスタジアムの外観については3案共通のイメージの段階ですが、JR/市電鹿児島駅からペデストリアンデッキが伸びてコンコースのレベルに直結しており、また外部デッキとしても機能している点は非常に魅力的です。駅側と海側を隔てる国道10号線の横断を回避して歩車の導線が分けられているので、安全に来場することもできそうです。

(2)ドルフィンポート跡地

 おそらく市にとっても「本命」であろう本候補地。中間報告資料においても鹿児島県のコンベンションセンター基本構想の配置図を引用したうえで、その配置を変更しスタジアムと並び立つスタイルを提案しています。

ドルフィンポート跡地における平面計画図。(1)

 やはり先の浜町バス車庫に比べるとやや窮屈な感もあります。

良い点
・立地が最も天文館等エリアに近く、最も大きな経済波及効果が見込まれる
・また、離島便フェリー発着場や桜島フェリー、水族館等周辺施設とのアクセス性も最も高い
・スポーツ/コンベンションセンターとの併設で連携の可能性

微妙な点
・県コンベンションセンターの大幅な計画変更を要求する
・臨港道路の付替の必要性がある
・スタジアム整備によりウォーターフロントパークは一部廃止せざるを得ない
・唯一、メインスタンド中央から桜島を正面に望めない可能性がある

 歩行者導線と想定されているマイアミ通りはいづろ通と直結しており、市電やバスでのアクセス性が非常に高いほか、天文館地区との回遊性を最も確保可能な候補地といえます。例えば帰りに天文館方面まで歩くことによって、ただ行って帰るだけでない、そこからの経済波及効果も見込めます。距離としても、誰もが歩いて来れる距離といえます。
 また、他候補地と同様にペデストリアンデッキを整備することも計画されています。

Google Mapsをもとに筆者が適当にパワポで作図。

 上図の整備予定地のうち、南側はスポーツ/コンベンションセンターになるため、錦江湾側への視界がやや限定されるため「真正面に桜島どーん!」とならない可能性があります。スタジアムの候補地を決める際、こんなことで「それはマズイ」となるのは鹿児島くらいですが、鹿児島では割とマズイ話でもありますね。まあ普通にスタジアムからは見られるので、そこまで大きなマイナス査定ではありません。

 また、ウォーターフロントパーク一部を廃止する必要がある点も上に挙げた通りです。県の計画ではそのまま利用することになっているため、この点について協議は必須になります。市は市内に代替緑地を確保することを提案しようともしているようです。

(3)住吉町15番街区

 ドルフィンポート跡地がダメだったときの妥協案的な立ち位置でもあった同候補地。しかし計画を見ていくと割と不利な立ち位置でもあることが分かります。

平面計画図(1)

良い点
・ドルフィンポート跡地側からペデデッキを伸ばす計画で、同地にコンベンションセンターができた際の連携も期待できる
・ドルフィンポート跡地に次いで中心市街地へのアクセス性が高い
・県も整備について現時点でも前向きに考慮する意向を示している

微妙な点
・敷地が最も狭隘であるため海側への土地拡張が必須。そのため最も整備費が高額になる見通し
・ドルフィンポート跡地と同レベルのアクセスを期待して行くと結構遠いと思う(超主観視点)
・複合化施設・広場なども前述の理由から窮屈ぎみ

 整備費がここだけ一回り高くなっており、その辺も突かれそうな感のある住吉町15番街区。これまでも拡張の必要性が言及されていたものの、こうして見ると確かにかなり狭いようです。
 そして、「ドルフィンポート跡地の隣地」的な顔をしている彼ですが、地味に離れているせいで思ったよりいづろ通までの距離もあります。

 結果的に、中間報告における要望や意見の欄でも書かれている通り「浜町バス車庫は天文館から離れているため事業性が低く、自ずとドルフィンポート跡地、住吉町15番街区が妥当とされる。さらに、観光客にとっても天文館・フェリーの回遊性を考えればドルフィンポート跡地が良い」ということにはなろうかと思います。そのためにも、県との協議に入るこれからが非常に重要と言えます。

スタジアム機能について

 今回の中間報告においては、3候補地すべてでスタジアムの構造は基本的に同じもので考慮されているようです。ただし、各スタンドの収容人員について計画地の面積などで若干差があります。また、ペデストリアンデッキといった付帯施設も同様にいずれの候補地でも考慮されています。
 あくまでスタジアムの構造などについてはこれからの話と思うので、「現段階では」ということを念頭に置く必要があります。

ドルフィンポート跡地の場合の断面図(1)

 断面図で見ていくと、2階が入場エリアとなっています。ペデストリアンデッキもこの階層に接続されているので、そのままスムーズに入って行けそうです。またこれによって関係者やVIPとの導線の分離も同時に行われています。
 メインスタンドのみ、3階にホスピタリティエリアが来て2層目が4階になっています。
 また、桜島への眺望を確保するためバックスタンドが1層式となっている点も特徴です。いわばミクスタのバクスタ屋根あるバージョンというところになります。いわゆるゴール裏と呼ばれる、サイドスタンドは2層式です。
 入場者数については、中間報告によれば16,300人で計画されているようです。当然J1スタジアム基準を満たす数字です。平面図では各スタンドの内訳は分かりませんでしたが、バックスタンドは概ね3,000人程度のようです。
 ちなみに、サッカーでいうとメイン・バック、サイドともにピッチからスタンドの距離は8mとされています。


 なにやら無駄に長くなった割に中身が薄いのでこの辺で終わりにします。
今回の中間報告は、ようやく市がスタジアム計画の具体的な一歩を踏み出したもので大きな意味を持つと思います。
 しかし、当然まだ何も決まったことはなく、これから最終的な候補地の選定、それに係る県との協議など重要なフェーズに入ります。その前に、市民・県民(・県外から故郷を想う県人)として、市長の仰った通り「夢を語る」ことが重要です。大いに夢を語らねば、真に稼げる日本一のスタジアムは完成しないと思うので、是非皆さんで思いを意見としてたくさん送りつけましょう。
 「なぜスタジアムが必要なの?」と、サッカーなどのスポーツに関心が高くない方は思うかもしれません。それに対するアンサーが「白波がJ1基準を満たさないから」は言ってしまえば我々の事情でしかありません。「白波でJリーグができているのになぜ新しいフットボールスタジアムが必要なのか」を理解してもらうことが大事なのです。しっかりとプロセスを踏んで皆で夢を語れば、誰もが行きたくなるスポーツの興奮や日常の憩いのスペースとしてなくてはならない空間になると思います。「スタジアム作りでなく、まちづくりだ」と言うのも良いかもしれません。

出典

(1)スタジアム需要予測等調査・整備検討支援業務 中間報告(概要)(鹿児島市,22/11/14閲覧)
<https://www.city.kagoshima.lg.jp/sports/sports/documents/tyukanhoukoku2.pdf>


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