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ミモザ。

ときどき若手をお昼の社食に誘って、
日々の仕事に問題がないか、我慢しすぎていることはないか、さりげなく聞いたりしている。

先日、その一人がプライベートの話をし始めたので聞いていると、
あ!報告があるんです。彼女が出来ました!
という。

おぉよかったねぇ。
前の彼女と別れて少し時間が経ってると言ってたもんね。

いつ出会ったの?と聞くと、2週間前らしい。
付き合い始めの2週間なんて、毎日本当に楽しいよねぇというと、コロナの影響なんて全くないような明るい笑顔で
そうなんです!と。

その2週間後にまた食堂でお昼を一緒に食べていると、

結婚しようと思います。
え?この前出会った彼女と?
す、すごいね。
早いね。

この週末に結婚するための講習会に行くんです。

どうやら少子化を危惧した政府の「家族計画」なるプロジェクトがあって、年齢制限や年収制限はあるものの、補助金がもらえたり、
新居のあっせんなど新生活にあたるあれこれを市町村がかなり負担してくれるもので、それを受けるには講習会に参加しないといけないとのことだった。

そんなプロジェクトが市町村にあったことも知らなかったが、何が驚いたと言って、彼の決断力の早さだった。

彼女に一目ぼれだったんだねと言うと。

全然違います。
好みの顔でもないし、好みのスタイルでもないんです。そういう意味で今まで付き合ったきた彼女と全く違うんです。
どこが好きと言われると思いつかないくらいなんです。
でも会ってすぐに、この人なら一生一緒にいたいなと思ったんです。

日差しの強い窓際の席だったけれど、まっすぐな言葉を爽やかな笑顔で言える30才が、とてつもなくまぶしい。

顔もスタイルも好みじゃなくて、彼女のどこが好きかも言えないのに、出会ってすぐに一生一緒にいたいって思えるってそれはいったいなんなんだ。
種の保存のホルモンバランスか。

しかし私は彼の年収を知っている。
福利厚生はしっかりある会社ではあるが、彼のポジションではなかなか2人で生活していくには厳しい数字。
そんなことを思っていると、心を読める彼が

僕の年収だと彼女を養えないし、生活が厳しいんですよねー。

じゃぁどうするの?彼女はアルバイトなんでしょ?

バイト掛け持ちしてくれるって言ってました。
3つくらいなら頑張れるからって。

いやいや。
パートナーの給与が高くないので彼女が一緒に頑張りたいっていうのはわかる。
アルバイトだと金額が安いので掛け持ちするわというのも。
しかし、定時退社する君は会社勤めだけで、
彼女がアルバイト3つ掛け持ちってどやねん?
と言葉に言い表せない気持ちが渦巻く。
昭和生まれと平成生まれの違いなのか。
これが今の男女平等なのか。

夫婦二人では問題なくても、子供ができても彼女はアルバイトを掛け持ちして家事をするのか。
いやいや。
家事は出来る方がやればいいやん、となるのか。最終的に家事は女性がすることになるんじゃないのか。そして女性はみな家事が得意で出来るものという親の価値観をひきずって彼女がそれに苦しむことはないのか。

更衣室でそんな話を聞くことが多いので、つい心の中だけで危惧してしまう。

正社員の肩書はないけれど、自分も夫と同じように仕事をし、家事を一手に引き受け、育児はワンオペで子供が大きくなると家庭内別居をしている女性のいかに多いことか。

親の庇護下から、パートナーの庇護下に入れば将来が安泰という人生設計は、富裕層以外の層ではすでに崩壊していて、コロナでそこに拍車がかかっていることは、彼女は知っているのか。

ぜいぜいぜい。
いけない、この言葉を消化して飲み込むには昼休みの時間が足りない。

いまだに結婚すると辞める決断をする環境しか提供できていない石器時代ともいえるような体質の会社にいると、男女平等の単語は辞書の中にある四字熟語のように思える。

正式な結婚が決まったら教えてね。
はい!報告します!

結局はどんな形だろうが、他人ではなく自分たちのものさしで幸せになれたらいいよね、と通勤途中に爽やかに咲くミモザを
見ながらしみじみ思う。

温かいお気持ち、ありがとうございます。 そんな優しい貴方の1日はきっと素敵なものになるでしょう。