藝大生の作るプレイリスト〜影響を受けたMV編〜

専攻:芸術学専攻美術解剖学研究室修士
学年:2年
氏名:川目七生

普段から音楽はかなり聴いているのですが、音楽が専門でない美術の人間なりの視点でプレイリストを作ろうと思い、「自分が影響を受けたミュージックビデオ」というテーマで集めてみました。

https://www.youtube.com/playlist?list=PLqnlgUkwrLHW4VSBWjaaZLW25qJPZoSaV

Q. 現在藝大にてどのような研究をしているのか、自己紹介をお願いします

美術解剖学研究室修士2年の川目七生(かわめななみ)と申します。学部は絵画科油画専攻で、卒業制作では市井の男女を観察し、それらを銅版画のイラストレーションと文章で表現し、イラストエッセイ集に仕上げて本を作り、販売しました。


卒業後、大学院は芸術学専攻美術解剖学研究室に入学し、今はモノタイプとアクリル絵具で描いたイラストレーションをちまちま制作しつつ、論文のための研究も進めています。
研究内容は、西田正秋という、久米桂一郎の後に芸大で美術解剖学を教えた教授が、絵画や彫刻のデフォルメと、アカデミックな側面が強い美術解剖学との関係性を掘り下げていたので、その具体的な例を調べつつ、デフォルメの要素が強い自分の作品と照らし合わせてみるなどのことをしています。

Q. 音楽の探し方、また探す際に重視するポイントを教てください

Spotifyで掘っていくことが多いですが、映画や書籍、ディスクユニオンやタワレコなどに行った時に、店員さんのおすすめをチェックしています。また、YouTubeでたまたま知らないミュージシャンの人のMVが流れてきて、それがきっかけで好きになる時もあります。
写真は、高校生の時に家にあったのでよく眺めていた、PenのNo.193号とDirectors LabelというシリーズのDVDで、著名なMVの監督の作品集です。Directors Labelは現在廃盤ですが、監督自らで自作品のベストを選んでいるので、そう言った視点でも見ていて面白いです。

Q. このプレイリストが小学生からの自分の好みの形成の一助となったとおっしゃっていましたが、初期の方に出会った曲はどれでしょうか?

元々、父親が大の音楽オタクで、小学校4年か5年あたりの時に「面白いものを見せてあげよう」と言って見せられたのが、ジャミロクワイの『Virtual Insanity』、ケミカルブラザーズの『Star Guitar』と『Let Forever Be』ホワイトストライプスの 『Fell In Love With A Girl』カイリー・ミノーグの『Come Into My World』マイケル・ジャクソンとジャネット・ジャクソンの『Scream』です。

特に印象に残っているのはジャミロクワイの『Virtual Insanity』とケミカルブラザーズの『Star Guitar』の二つです。

Jamiroquai - Virtual Insanity (Official Video)

ジャミロクワイのこの曲はもう言わずもがなの有名な曲で、当時の段階ですでに発表から10年ほど経っていましたが、小学生からみても、謎めいたストーリーとジェイ・ケイのダンスはとても魅力的で、ダンスは全く出来ないながらも、頑張ってマネして踊ったりしていました(笑)

The Chemical Brothers - Star Guitar

また、『Star Guitar』は初めはなんか地味だなと思っていましたが、音楽のリズムと映像の景色がうまいこと連動していることに気がついた瞬間から、虜になってしまいました。
どちらも100回近くは観ている気がします。

Q. 藝大に入ったのち、好みが変わったなと思うことはありますか?

根本的にはあまり変わっていませんが、いいと思う作品の範囲が広くなっていっている気がします。

Q. MVがなかったら好きになっていない!という曲はありますか?

ここで紹介した作品のほとんどが、MVがきっかけでアーティストをより深く知るきっかけになりました。逆に、音楽を先に聴いてからMVを観ると、自分が思っているイメージと、良くも悪くも違ってくるパターンが多いので、特に関心があるアーティスト以外はMVまで観ることはないです。

Q. MVから受けた具体的な影響について教えてください。

このプレイリストは30曲に厳選したものですが、そのうち6曲がミシェル・ゴンドリーという映像作家が監督したMVになります。
彼の作品のアイディアはとてもシンプルですが「じゃあそのアイディアを映像にしようと思っても、途方もない労力がかかるから普通はやらないよね」ということをやり切ってしまうところが、モノを作る人間として尊敬しています。
その中でも、自分の作品に雰囲気が近いと思うのは、レディオヘッドの『Knives out』です。

Radiohead - Knives Out

この作品はカメラが一周するごとに、周りの状態が夢の中のようにコロコロ変わっていくのが特徴的ですが、一つ一つのシュールなシチュエーションや、壁に貼ってある絵や一瞬だけ映る小物などから、影響を受けているように感じます。

Q. 所属されている修士の研究室では「自然」から学ぶという趣旨のことが記載されていたのですが、選ばれているMVは人為的な色が強いものがと思います。ご自身の中で、作り込まれたMVの方により魅力を感じる理由などはありますか?

確かに、私の所属している美術解剖学研究室では、自然から学び、自身の製作や創作に生かしていくということを掲げています。

しかし、研究室が掲げている「自然」から学ぶという言葉からは、人間を含めた生物、そしてそれらを取り巻く環境から学ぶという意味合いが強い気がします。
一般的な意味での「自然」は、人が介入していない・できない事物という意味合いで用いられていると思うので、まずその違いがあると思います。

では、作品の人為的な色の強弱という点で見ていくと、芸術作品は全て、なんらかの形で人の手を介して初めて表出してくるものだと私は考えております。たとえ、一見自然を扱っている作品(ランドアートなど)であっても、結局、人が意図的にその風景などを形作るということになってくると、もうまっさらな自然の状態でのアートというものはないような気がします。

このような前提があり、そもそもMVになる時点で、人為的な行為が入ってきていることには変わりないので「あまり人の手を加えていない作品(加工の少ない)」というのと「人為的な色の強い作品(加工が強い)」とで作品の好みを判別することは私の中ではそんなにないです。

Q. 自分がもしMVを作るとしたら、歌詞に合わせるか、ストーリーを作り出すか、また歌手自身を起用するか別の役者をたてるか、アニメーションを用いるかなど、なにか理想の作品像はありますか?

映像を作ったことがほとんどないのでなんとも言えませんが、音楽のタイプ、そのアーティストの来歴、自分が聞いたときのイメージなどを複合的に考え、その時々の条件に合わせて作ると思うので、その中で理想像を練っていくと思います。いくつかの条件の中で進めていくというやり方はイラストレーションの制作にも通用するところがあるので、技法や具体的な手法はそこから考えていくのがある意味理想的な形です。

Q. 「すごい」MVの共通点は何だと考えていますか?

私が思う「すごい」の基準だと、やはり一つ一つのアイディアを丁寧に、実直に再現していこうという姿勢が見えてくる作品はすごいなと思います。

Q. 今年の藝祭のテーマは「いま、ここで」なのですが、藝大にいる今一番誇りに思っていることは何ですか?

 誇りに思っていることは特にありませんが、今の環境でいろいろなことを吸収できているので、いいかなと思っています。

ありがとうございました!

藝祭2023
開催日時:9/1~9/3
開催場所:東京藝術大学上野キャンパス
公式サイト:https://geisai.geidai.ac.jp/2023/index.html


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