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【特別読み物vol.4】 新人団員が先輩にインタビュー・2[蓮行]

4月16日(月)。植村さんインタビューに引き続き、新人団員、森谷Aと田中沙穂が、劇団衛星の代表であり、今回の公演の作・演出でもある、蓮行さんにインタビューをさせていただきました。
                                                                                                <文責:田中沙穂>

田中:よろしくお願いします。
蓮行:お願いします。
田中:あの、そんなに緊迫した空気の中でやらなくて全然いいので。
全体:(笑う)
蓮行:あの、そんな言われなくても緊迫できないと思いますんで。
田中:いや、この間(植村さんインタビュー時)、森谷さんが緊張してはって。
森谷:いや・・・。
蓮行:じゃあ僕に言ったわけじゃないんですね。
田中:全体に言いました。ということでですね、インタビュー内容は全部で5問あります。
蓮行:はい。
田中:それではまず1問目いきます。

- 現在の心境や今後の展望 -

田中:「新作」公演と「新人」団員加入。劇団にとって「新しい」2つのイベントが同時にやってきましたが、心境や今後の展望をお教えいただけますか?
蓮行:うーん、なるほど。新入団員の加入は、素直にうれしいのはうれしいですね。何で?と言われるとちょっと難しいけど。人数が増えりゃいいというもんでもないけど、ちょうどよくなった感じかな。
田中:はい。
蓮行:男女比とか年齢構成を考えた時、そのまま高齢化していくか、一定の世代をカバーしていくかっていうのでいくと、今のビジョンでいくと後者の方がまだ良いだろうと思うから、そういう意味では良いですね。新作公演自体は特に感慨はないですね。
田中:はい。
蓮行:やるからにはちゃんとした、いい作品を作るということで。ことさらに気合が入ってるとかそういうことはないですね。いつも通り。
田中:なるほど。今回新作公演を打とうと思ったのは、理由があったりするんですか。特にないですか?
蓮行:あー、何でかなぁ。まぁ最近(の劇団衛星の公演)は、新作、再演、再演、という流れで来てたので、別に戦略があってというよりは、(流れとして次は新作、と)そういう感じだなぁと・・。新しいものズンドコ作るっていう体力と才能がね(なくなってきていて)。あと、時代も関係してますね。今はもう、そういう(作品をどんどん出す)時代でもないなと思っていて。
昔はね、年8本ぐらい公演してそのうち4本が新作だった、みたいな時代もあったんです。それは体力と若さのほとばしりと、あと、時代だったわけですけど。今はそうじゃないということですね。なので、ちょっとそろそろ新作をっていうタイミングと、やろうとして温めてたもののタイミングが一致したって感じですね。
田中:なるほど。ありがとうございます。では次、2問目いきます。
蓮行:はい

- 新作公演のタイトルの由来はなんでしょうか? -

田中:新作公演のタイトルがですね、
蓮行:はい
田中:大変、目を引くものになってますが、
蓮行:おー!へぇ。
田中・森谷:(笑う)
田中:私はそう思うんですけど、何かそれ(『白くもなく、さほど巨大でもない塔を覗き込む、ガリヴァー』)をつけようと思った理由はありますか?
蓮行:タイトルって、普通目を引くでしょ
森谷:(笑う)
田中:普通は目を引くものになってますけど、その中でもちょっと違うテイストといいますか。
蓮行:そうですか。村上春樹もちょっと前になんか『色彩を持たない鈴木渡の青春の何とか』みたいな(※注:正確には『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』)なんかそういうのがあったから、まぁタイトルの形の一つだとは思いますけど。そこの突っ込みはさておき。タイトルの意図やね?
田中:はい。
蓮行:今回、大学がテーマなんで。大学がらみの話となると、やはり『白い巨塔』とか『象牙の塔』とか・・。『ガリヴァー旅行記』も、大学じゃないですけど、学問と官僚主義に陥りすぎた人たちを強く風刺する内容になっているので、それをパロディっぽくした結果、なんか白くもなく大きくもないという(言葉で表したって)ことですね。あと、僕は大学の仕事はしているけど、あくまで外様で。ガリヴァーが小人の国とか、巨人の国とか、学者の国ですね、ラピュートに行ったときに、あくまでそれは旅行者として、覗き込んだり、ちょっとステイしただけなので、そういうイメージで。当事者というよりは覗き込んだというイメージで、ということですね。以上。
田中:覗き込んで何か見えましたか?
蓮行:覗き込んで見えたものを一言で説明できないから、じゃあ劇化しようかなということです。
田中:そういうことなんですね。ありがとうございます。では3つ目の質問です。劇団衛星は、蓮行さんをはじめ皆さん、教育関係でも精力的に活動していますが、今回の台本などのものづくりに、普段の活動が反映されている、ということはあるんでしょうか?
蓮行:コピーでも謳っているように、(この作品は)「完全フィクション」ですけど・・。どうだろうなぁ、活かされてるか、反映してるかと言われると・・。やっぱりその教育機会、学習機会っていうものが、どれだけ大事かっちゅうことですね。まぁでも、あんまり(反映されてはない)かな。完全にフィクションを作るっていうことでやってるし、反映されてるとしたらなんか無意識のところですかね。意識して反映させようとは思ってないです。
田中:はい、わかりました。じゃあ4つ目ですね。

- 観客参加型を演劇に取り入れること -

田中:今回の公演は観客参加型になっていますが、観客参加型を演劇に取り入れることは、蓮行さんにとって、何か狙いがあるのでしょうか?
蓮行:演劇っていうのは、一種、情報芸術です。総合的な情報全部・・ビジュアル情報、音声情報、まぁ様々な情報を統合したものなんですが。それでいくと、かつては、情報芸術のまさにど真ん中って、演劇しかなかったんですよね。ところが最近になって急激に発達をして来た。手塚治虫がアニメーションをマーケットにのせたりとか、映画もゲームもそうだし。(それらは)一本数百億円とかかけて作っているわけですよね。さらには、youtubeというものが出てきて、・・なんか、”コーラ風呂に入ってみた”とか、そんなのやるわけじゃないですか。
田中:そうですね、最近流行ってますね。
蓮行:それって、例えば熱湯風呂とか、少し前は、テレビのバラエティ番組で芸人がやってたことなんですよね。ところがそういったものが、今は誰もがやってるものになってる。経営学的に言うと、損益分岐点っていうものがあって、コストが一定以上上がると(市場が)独占されるわけ。つまり、”コーラ風呂に入る”っていうのを人に見てもらうには、これまでであれば、一定のコストがかかってたわけですよ。
田中:うーん。
蓮行:だから、テレビ局という大きな箱だったり、カメラマンだったり、電波の、あのーいろんなそういうものが必要で、みんなはそれができなかったから、”コーラ風呂に入る馬鹿な大人の映像”というのは、テレビで見るしかなかった。その為にテレビは、そういう独占的なものを、高額なスポンサー料をスポンサーから取って、それをみんながわーいって見るもんだから、スポンサーもそれ宣伝できるっていうんで金出して・・っていう構造があったわけだ。
それが、もっと手軽にできるようになったってことは、テレビでは、一定の金取ってやる以上は、一定以上のクオリティが必要だったりするので、ただバカなことをやるとかただやってみたという映像コンテンツは成立しなくなった。やってみたけど上手くいきませんでした、失敗しましたてへへっ・・ていう内容だったら、別に友達があげてる映像とかでもいいとなっちゃったわけで。
田中:ああ・・。
蓮行:そうするともはや、巨大なお金をかけてやるものと、そこいらの人がひょいとできてしまう、演劇よりもっと手軽にできてしまうことが、一緒に並べられるようになってしまう。一種の・・サービスですね、観賞するというサービスに耐えうるものが(手軽に作ったものの中に)出てきちゃったんで。
でもそうすると、ようやく話戻るんですけど、もはや、”来た人がその立体的な時空、その四次元的な時空に参加している”っていうこと以外には、手間暇かけてやる「演劇」のアドバンテージは、ほとんど、無いんですよね。それかもう、カラオケ的に、自分もやってるしお友達もやってるからお互いが見せ合いっこするっていうものか。どっちかしか無くなってきているんじゃないか、ていう気持ちが大雑把にはあります。
田中:はい・・。
蓮行:僕としては、大くくりでは、演劇が、もはや「体験」ということ以外に、youtubeとか映画とかテレビとかに勝るものはなかなか無いと(思っています)。双方向的な体験ね。
今、音楽シーンでも変わってきてるんだよね。かつては、コンサートやライブは赤字で、その代わりCDをとにかく売らないといけないっていうことだったのに、今CDが売れないので、逆になってんだよね。コンサートのグッズ売り上げとかそういったもので稼ぐ、みたいなビジネスモデルに変わってきてたりする。
そこで重要視されているのも、やっぱり「体験」っていうことなんですよね。録音したものを再生したりビデオで見ればいいっていうんじゃなくて、その場にいることに商品価値がある。だからまぁ、時代がそうなってきてるので、今、何でもって勝負しようかって考えると、自ずと体験型になるって感じですね。あとは、どんな体験なら面白いかとか、どんな体験ならみんなしたことないけどしてみたいかとかいうこと(を考えるわけ)ですね。
田中:ふーむ。
蓮行:それは、東京ディズニーリゾートとかユニバーサルスタジオとかも一緒だと思いますよ。(演劇は)もうちょっとそれよりはきわどい体験ですね。
田中:きわどい体験?
蓮行:なんかこう・・海賊気分を味わえるけど絶対に安全っていうような、テーマパークでの体験。そういった疑似体験に比べて、今回僕らがやってるものは、(お客さんに)学会に参加する人(をやってもらう)わけですから、(お客さんが)全くシナリオに無い発言をしようと思えばできたりするわけです。たとえ自分が何もしなくても隣りの人が何をするか分からない。そのきわどさとか緊張感というものが、たぶん、演劇に残された道、という風には考えてますね。
田中:なるほど、ありがとうございます。それでは最後の質問ですね。
蓮行:あぁ、まだ最後あったんか。はい。
田中:まだ最後あります。
全員:(笑う)

- いろんな人に来てもらった方がいい -

田中:今回の新作公演を観ていただくにあたり、皆さまに一言お願いします
蓮行:正直、今回に関しては、観てもらった方がいいと思いますね。
田中:それは、ジャンルに関わらずいろんな人に、ということですか?
蓮行:そうですね。でも、今回は、子どもが観ても分からんかなっていうのはありますね。
田中:確かにちょっと難しいところはありますね。
蓮行:でも高校生くらいだったら、概ね話も分かるだろうし、別に子どもでも観てもらったらいいんだけど。
何が言いたいかっていうとね。今の時代は、人に観てもらう系のものっていうのは、「これが好きな人はどうぞご覧になって下さい」というタイプのものになってきている。(世の中の人の大多数が好きだと思うようなものを用意するのではなく、)どんどんと、提供する側が、人々の細かい嗜好に合わせて、きめ細やかな選択肢を用意しておく、という商売になりつつあるのね。だからテレビとかが苦しむのはそういう事で。演劇っていうのは、むしろ(それができる)その最たるものなんだけど。
でも今回は、僕はどっちかっていうと、そうは思っていなくて・・。好む好まざるに関わらず、なるべく来ていただきたい。(来ていただいたら、)得られる体験は多分有益ですよ、と。極端な話、あー全然面白くなかったなと思っても、面白くなかったけどなるほどねって、お金払って時間使っただけのことはあったなと、皆さんに感じてもらえるんじゃないかな。
田中:はい。
蓮行:映画とかもそうだと思うんだよね。面白いですエンターテインメントです観てくださいって(言われて)、で観に行ったら全然笑えなかった・・ってなると、ただ時間の無駄になっちゃうんだけど。まぁそれなりに知的な内容があったりすると、映画としては面白くなかったが、色々勉強になった、ためになった、とかっていう事はあり得ると思うんだよね。(今回の作品が)決して別にそうだと言ってるわけじゃないし、うまく言えないけど・・。広くいろんな人に来てもらった方がいいと思います。
田中:うんうんうん。
蓮行:実際、劇団衛星は昔、『脳天気番長演劇祭』っていう、自分たちでやった『脳天気番長シリーズ』を一挙に上演する演劇祭(※劇団衛星初期の代表作。シリーズ4作品を、2000年12月、京都駅ビル劇場シアター1200にて一挙上演した。)を、チラシに、ふんどし一丁の俳優の写真を使って、「これが嫌なら来んでいい」っていうキャッチコピーで打ったこともあるんですよね。
田中:はー。
蓮行:だから、それはそういう時もあるし、そういう事は多いんですよ。でも今回はちょっと違う、広く観ていただいた方がいいと(思っています)。ただし、広く観ていただいた方がいいけど、それは、みなさんの嗜好に我々が歩み寄ってるわけでもない、というところかな。それがまぁ偽らざる本音ですね。

- 「人畜無害」の存在 -

田中:これ、ネタバレになっちゃうんで、話として出していいか分からないですけど。「人畜無害」の存在が個人的に気になっていて。(※作品中に登場する劇団。参照 >人畜無害サイト )
森谷:あー。
田中:劇団衛星のこれまでの公演でも何回か出てきているらしいんですけど、「人畜無害」って何?どういう過程で出来たんだろう、何で登場してるんだろうって・・。
蓮行:なるほど。「人畜無害」をどうフィーチャーするかは、結構大事かもしれないですね。経緯としては、初出、一番最初に出てきたのは多分、『大陪審シリーズ』の二作目の、『控訴審』という芝居だと思うんですけど。(※2009年5月、真宗仏光寺派大善院にて上演した、裁判演劇の2作目。)・・あれ、『ブレヒトだよ!』の方が先かなぁ。(※2008年2月、東山青少年活動センター創造活動室で初演。銀行を舞台に、芸術と経済にまつわる社会派悲喜劇。)
・・えっと、『控訴審』っていう芝居では、人畜無害が原告なんですよ、裁判起こしてるの。
田中:はい。
蓮行:で、『ブレヒトだよ!』っていう銀行強盗の芝居では、銀行強盗に押し入ったのが、劇団人畜無害なんですよ。何でそういう風にするかっていうと、例えばファックさんは、劇団衛星の出演作品中ほぼ8割、「元山信雄」の役をやってるんですね。
田中:はえー!
森谷:(笑う)
蓮行:うん。人畜無害でも、元山信雄なんですよ。団長で。
田中:うーん。
蓮行:それには着想を得たものがあって。手塚治虫の「アセチレン・ランプ氏」っていうの、知ってる? 後頭部にろうそくが乗ってるおじさんが、いろんな作品に出てくるんですよ。
森谷:あー、確かに。
蓮行:一種セルフパロディー的にというか、あっちで使ったキャラがこっちに出て来てもらうっていうようなことですね。それは、統一した作家とかカンパニーが特権的にできることなんですよ。
田中:はい。
蓮行:あと最近あれでしょ、アメリカンヒーローも、キャプテン・アメリカとスパイダーマンとスーパーマンが共演したりしてる。
田中:ふんふん。
森谷:そうですね。
蓮行:これはもうまさに、そのやり方なんですね。水島信二っていう、『ドカベン』って漫画書いてた人も、彼は、高校野球を舞台にした作品をいくつも書いてるんだけど、どの主人公の話も3年生の春の大会までで終わってるんですよ。それで、『大甲子園』っていう作品で、3年生の夏の大会を舞台にして、『ドカベン』の山田太郎を主人公に、各漫画の主人公がそこに集って本当に対決したらどうなるんだろうっていうことを、作家自身が楽しく描いているんですけど。
田中:ふんふんふん。
蓮行:そういうのが面白いなと思っていたのと。それを演劇でやったら面白いなと思ったのは、京大の吉田寮に、「吉田寮芝居部」っていう(団体があって)。年に一回、寮祭と、あと11月祭(※京大の学園祭)かなんかの時だけお芝居やるっていう団体なんですけど。
田中:うーん。
蓮行:昔、その吉田寮芝居部に、どの芝居を見に行っても必ず王様役で出てる人がいて、それがすごい面白かったっていう話を聞いて、あぁそれ面白いな・・と。演劇でもそういう事があるのかと思った。だから、劇団衛星では、例えば小道具に、青い光るバットが「ドラゴンブレード」っていう伝説の武器として必ず出てくるとか。「スライダー」っていう架空のデバイスが統一して使われていたり。キャラとしては「元山君」とか(そういうどの作品にも出てくる共通のキャラクターや設定があった)。
「人畜無害」っていうのは、(そんな中でも)その集団がー物語にすごく絡んでくるということですね。(劇団衛星の作品を)ずっと見ているお客さんには、またあれ出てきた・・という面白さもあるだろうし、そういう意味では狭いマニアなお客さん向けに仕込んでるネタとも言えるしっていうことですね。こんなもんでいいですか?
田中:はい。ありがとうございます。ついに、5月の新作公演の本番まで1ヶ月切りましたね。
蓮行:あー、ほんまや。
森谷:そうですね。
蓮行:緊張すんなぁ。
田中:はい・・。頑張っていきましょう。
蓮行:そうですね。
田中:はい。という事で、蓮行さん。お忙しい中ありがとうございました。
森谷:ありがとうございました。
蓮行:いえいえとんでもないです、お疲れ様でした。

劇団衛星の活動継続と公演の実現に向けて、みなさんのサポートを、ありがたく受け取っております。応援ありがとうございます。