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佐々木良昭 知られざるトルコ・クーデターの真実

クーデターの黒幕は誰か

―― 7月15日にトルコでクーデター未遂事件が発生しました。今回の事件の背景をどのように見ていますか。

佐々木 いくつかの見方ができると思います。第一に、常識論で言えば、トルコ軍の中でトルコ政府の進める軍事政策への不満が高まっていたことが考えられます。

 例えば、トルコはこれまで「イスラム国」(IS)を支援し、IS戦闘員がトルコ領土を通過することを黙認したり、ISへ武器や資金などの提供も行っていました。ところがトルコはアメリカから圧力をかけられたため、これまでの方針を転換し、ISを攻撃するようになりました。その結果、今年の6月には、トルコ国内でISによるものと見られる大規模なテロが起こっています。これでは、トルコ軍が、自分たちは一体誰とどのような目的で戦っているかわからないと不満を募らせたとしても無理はありません。

 第二の見方としては、アメリカに亡命しているイスラム教指導者のフェトフッラー・ギュレン師が画策したというものです。一部にはギュレン師がCIAと連携していると主張している人たちもいます。

 第三の見方は、今回のクーデターはエルドアンの自作自演だというものです。これは全く嘘のような話ですが、傍証があります。

 まず、クーデターが起こった時、エルドアンはトルコのマルマリスというリゾート地にいました。彼はクーデターの知らせを聞き、すぐに自家用機でイスタンブールへ向かっています。しかし、通常であれば、このような危険な行動はとりません。クーデターを起こした軍人の中に空軍パイロットがいれば、撃ち落とされてしまう恐れがあるからです。

 また、エルドアンはイスタンブール空港に着くとすぐに会見を行いました。これも不自然な振舞いです。クーデターの参加者たちは大統領や首相を狙っています。そのため、本来なら、大統領たちは身をひそめ、安全が確認されてから初めて表に出るはずです。

 さらに、エルドアンはその記者会見の席上で、極めて余裕のある表情をしていました。同席したエルドアンの義理の息子でエネルギー大臣でもあるビラットも、終始にこやかな笑みを浮かべていました。

 もう一つ奇妙なことがあります。報道によれば、クーデターに参加していた若い軍人の一人は、自分はこれは演習訓練だと聞かされていたと述べたそうです。現に、クーデターが起こった割には、民間人も含め死者の数は少数です。

 実は8月にトルコの陸・海・空軍の将軍たちが会議を開催することが予定されていました。彼らはそこでクーデターを行うことを合意するのではないかという噂が流れていました。そのため、一部では、エルドアンは軍が本格的なクーデターを起こす前に自作自演のクーデターを起こし、軍が身動きの取れないような状況を作り出そうとしたのではないかと言われています。

 もしこの話が真実であれば、エルドアンの目論見は当たりました。トルコではクーデターへの批判が高まっており、クーデターを鎮圧したエルドアンを支持する声が強くなっています。トルコではこれまで何度もクーデターが起こっているため、国民の間にはクーデターに対して物凄いアレルギーがあるのです。こうした状況を前にすれば、トルコ軍も再びクーデターを起こす勇気はわいてこないでしょう。

ギュレン師とは何者か

―― エルドアンは第二の見方、すなわちギュレン師がクーデターの首謀者だとしきりに主張しています。

佐々木 私に言わせればナンセンスです。エルドアンはこれまでもギュレン師のグループを弾圧してきましたが、ギュレン師は自分の支持者たちが武力でやり返すことを許しませんでした。あくまでも平和的に対応すべきだと言い続けています。

―― 日本ではギュレン師についてほとんど知られていません。ギュレン師の教団とはどのようなものですか。

佐々木 彼らは独自の信仰を持っているわけではなく、敬虔なイスラム教徒としてなるべく時間通りに一日五回の礼拝をし、一年に一回の断食を守り、人々に対して自分のできる範囲で親切にすることを推奨している団体です。宗教組織というよりも、宗教に熱心な人たちが組織しているボランティア団体と考えた方がいいでしょう。彼らの団体の名前は「ヘズメト」と言い、これはサービスという意味です。社会にサービスしようというのがその名の由来です。

 ヘズメトが力を入れているのは教育です。ギュレン師が「私を信頼してくれる人たちは優れた教育機関を作りなさい」と述べたことから、彼の支持者たちは資金を出し合っていわゆる進学校を作りました。これは大成功を収め、トルコの文科省から認可も受けています。この学校では物理や化学、数学、英語が重視されています。卒業生たちはみな英語を喋ることができます。

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